「叙述トリックって、結局どういう意味?」「どんでん返しと同じなの?」「調べたいけれど、ネタバレを踏むのが怖い」──そんなもやもやを抱えたまま、言葉だけが先に独り歩きしていませんか。叙述トリックは、密室やアリバイのような“事件の仕掛け”とは異なり、文章の情報の出し方によって読者の理解をズラし、最後に認識を反転させる技法です。だからこそ、仕組みを知らないと「騙された」だけで終わってしまい、知りすぎると警戒して楽しめないという悩みも生まれがちです。
本記事では、作品名や核心のネタバレに踏み込みすぎない配慮をしながら、叙述トリックの意味を一文で押さえ、どんでん返し・信頼できない語り手・ミスリードとの違いを整理します。さらに、代表的な誤認パターン、フェアプレイの判断軸、読中の「違和感メモ」や読後の振り返り手順までまとめました。読み終えたときに「なるほど、そういうことか」と腹落ちし、次にミステリーを読むのが少し楽しみになるはずです。
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叙述トリックとは何かを一文でつかむ
叙述トリックの定義とポイント
叙述トリックとは、文章の記述そのもの(情報の出し方・順序・粒度・視点)を操作して、読者に特定の誤認を抱かせる手法です。ミステリーの「トリック」と聞くと、密室の作り方やアリバイ工作のような“事件側の仕掛け”を想像しがちですが、叙述トリックはそれとは少し違います。焦点は「事件の仕組み」ではなく、読者の頭の中で組み上がる状況理解にあります。
叙述トリックが機能する流れは、だいたい次のように整理できます。
文章は事実をすべては語らず、必要な範囲だけを描写する
読者は、描写されていない部分を常識や経験で補完する
補完が積み重なって、読者の中に「こういう状況だ」という像が固まる
終盤で、同じ文章が別の解釈でも成立していたことが明かされ、像が崩れる
このとき重要なのは、読者が勝手に埋めた“空白”こそが、誤認の源になる点です。叙述トリックがうまい作品ほど、「書いていないのに、書いてあるように読ませる」力が強く、読み手は自然に誘導されます。
叙述トリックを理解するうえで、押さえておくと混乱が減るポイントが3つあります。
叙述トリックは“驚かせ方”ではなく“読ませ方”の技法である
誤認の多くは、読者の補完と早合点から生まれる
反転後に読み返すと「確かにそうも読める」と納得できる形が理想である
この3点を踏まえておくと、「叙述トリック=嘘を書いて騙す」といった単純化から距離を置けます。
なぜ読者は騙されるのか(補完と思い込み)
人は文章を読むとき、内容を一字一句そのまま受け取っているようで、実際にはかなり大胆に補完しています。たとえば、次のような“決めつけ”は日常的に起きています。
一人称の「私」を見て、性別や年齢を勝手に想像する
「会社」「上司」という語から、働き方や人間関係を補完する
「駅前」「商店街」といった言葉から、場所の雰囲気を映像のように作る
会話文の口調で、話者の属性や立場を断定する
この補完は、読書をスムーズにするために必要な働きでもあります。いちいち「この人は男性です」「この場所は地方都市の駅前です」と説明されると、文章は不自然に冗長になります。その“読書の便利さ”を利用して、叙述トリックは成立します。
もう一つ大きいのは、読者が「物語を理解したい」という欲求を強く持っていることです。理解したいからこそ、情報が少し不足していると、脳は最もありそうな解釈を自動的に採用します。しかも採用してしまうと、その解釈に都合のいい情報ばかりを拾い、都合の悪い曖昧さを見落としがちです。これは読書に限らず、人間の認知の癖としてよく知られています。
叙述トリックで「騙された」と感じるのは、作者が“強い嘘”をついたからというより、読者が自分で作った像を、作者の提示によって崩される体験だからです。だからこそ、うまく決まった叙述トリックは、腹が立つより「してやられた」と爽快に感じやすいのです。
叙述トリックとどんでん返しの違い
どんでん返しは結果、叙述トリックは手段
「どんでん返し」と「叙述トリック」は、似た場面で語られるため混同されがちです。ただし、両者は本来、指しているものが違います。
どんでん返し:物語の終盤で状況や意味が反転し、読者が驚く“効果”
叙述トリック:その反転を成立させるために、情報提示を操作する“技法”
つまり、どんでん返しは「起きること」、叙述トリックは「起こすための作り方」です。どんでん返しは、叙述トリックがなくても成立します。たとえば、隠されていた証拠が出てきて真犯人が判明する、味方だと思っていた人物が裏切る、実は別の事件と繋がっていた、などは“展開の反転”としてどんでん返しになり得ますが、それが必ずしも叙述(文章表現)の仕掛けである必要はありません。
一方で叙述トリックは、どんでん返し的な驚きを生みやすい技法ではありますが、驚きの大きさが目的ではない場合もあります。静かに、しかし決定的に読み手の理解が変わるような設計もできるからです。叙述トリックを「派手などんでん返しの同義語」と捉えると、静かな作品を見落としたり、逆に“どんでん返しが薄い”と誤評価したりしやすくなります。
伏線回収との関係(叙述トリックでも伏線は必要)
叙述トリックの話になると「伏線回収」との関係もよく話題になります。ここで押さえたいのは、叙述トリックは読者を誤認させるための仕掛けですが、誤認させっぱなしでは成立しないという点です。読後に納得が生まれるには、基本的に次の要素が必要です。
読者が誤認するように誘導されていた理由(文章上の仕掛け)がある
誤認とは別の解釈が成立する“手がかり”や“違和感”が、すでに置かれている
反転後に、それらが回収され、整合性が取れる
この「手がかり」「違和感」の配置が、伏線の役割を担います。叙述トリックは“情報の欠落”や“言い方の曖昧さ”で誤認を作りますが、フェアに作られた作品ほど、欠落だけに頼らず「別解釈もできる」ような要素を忍ばせます。たとえば、
主語が省かれている
時間を示す言葉が意図的に少ない
描写が具体ではなく、一般的な言い方に留まっている
人称や呼称が変化する
会話の受け答えが微妙にズレている
こうした点は、読んでいる最中は流してしまいやすい一方で、読み返すと「確かにここは断定されていなかった」と気づけます。叙述トリックの醍醐味は、この“読み返しでの納得”にあります。
叙述トリックと信頼できない語り手の違い
一人称の強みと危うさ
叙述トリックと近い概念として「信頼できない語り手」があります。これは、語り手が誤っていたり偏っていたり、あるいは意図的に隠していたりすることで、読者の理解が揺さぶられる手法です。とくに一人称は、語り手の視点が強く出るため、この手法と相性が良いとされます。
ここで重要なのは、一人称が持つ“文章上の性格”です。一人称は、客観的な地の文というより「語り手の主観」を通して世界を描く形式になりやすいので、次のことが自然に起こります。
語り手が知らないことは書けない(情報が欠ける)
語り手が思い違いしていれば、描写もずれる(誤認が混ざる)
語り手が感情的なら、描写も偏る(印象操作が起きる)
この性質は、読者の没入を強める一方で、読者が語り手を信じすぎると誤認が生まれやすくなります。叙述トリックも同様に誤認を作りますが、信頼できない語り手は「語り手の信頼性そのもの」が焦点になりやすい、という違いがあります。
つまり、
信頼できない語り手:語り手の人格・認識の偏りが揺さぶりの中心
叙述トリック:文章の情報提示設計が揺さぶりの中心
と捉えると整理しやすいです。もちろん両者は重なることもあります。一人称で、語り手の偏りと叙述上の仕掛けを同時に使う作品もあります。ただ、同じ言葉でまとめてしまうと見えなくなる論点があるため、区別しておく価値があります。
三人称でも起きる叙述トリック
「叙述トリックは一人称でしかできない」と言われることがありますが、三人称でも成立します。理由は単純で、叙述トリックは「語り手の主観」に限定されず情報の出し方(何を言うか・言わないか・どこで言うか)で成立するからです。
三人称でも、たとえば次のような設計で誤認は生まれます。
視点人物が固定され、他者の事情が見えない(結果として情報が欠ける)
場面転換が多く、読者が同時進行と勘違いしやすい
描写を一般化し、具体を避けることで想像の余地を残す
呼称や固有名詞の使い方で、人物の同定を揺らす
ただし三人称の地の文は、読者から「客観的な事実の記述」だと受け取られやすいぶん、フェアプレイの議論になりやすい傾向があります。三人称で叙述トリックをやる場合、読後に「地の文が嘘をついた」と読者に感じさせない工夫がより重要になります。これが次章の「アンフェアかどうか」に繋がります。
叙述トリックの代表的な誤認パターン
人物の誤認(同一人物・別人)
叙述トリックの王道の一つが、人物に関する誤認です。読者は、登場人物を“ラベル”で管理しています。名前、呼称、関係性、口調、役割。これらが揃うと、「この人物はこういう人だ」と固定化します。そこをずらされると、物語全体の理解がひっくり返ります。
代表的には次の方向性があります。
別人だと思って読んでいた人物が、実は同一人物だった
同一人物だと信じていた人物が、実は別人だった
この型が成立する背景には、文章が次のような条件を満たしていることが多いです。
呼称が限定されている(「彼」「あの人」「先生」など)
名前が出る頻度が低い、あるいは意図的に避けられている
登場人物の役割が似ている(似た立場・似た関係性)
場面が分断され、読者が“つながっている”と補完しやすい
人物誤認は、読者の「登場人物を整理したい」という欲求を利用します。読者は、理解を楽にするために人物をまとめたがります。その“まとめ方”の癖が、誤認に直結します。
属性の誤認(性別・年齢・立場)
属性誤認は、叙述トリックの入口として非常に使われやすい型です。なぜなら、性別や年齢や立場は、文章中で明示しなくても読者が勝手に補完しやすい情報だからです。
たとえば一人称の「私」は、性別を確定しません。それでも読者は、口調や行動、周囲の反応から「たぶんこうだ」と決めて読み進めます。年齢も同様です。「制服」「学校」「部活」といった語があれば学生像を作り、「会社」「会議」「上司」があれば社会人像を作ります。立場も「先生」「先輩」といった関係語が出るだけで、上下関係や権力関係まで補完します。
属性誤認を見抜きにくい理由は、読者がそれを“自分の補完”だと自覚しにくいからです。読んでいる本人は、あたかも文章にそう書かれているように感じます。しかし実際には、文章は断定していないことが多い。反転後に読み返すと、「確かに性別は書かれていない」「年齢も断定されていない」と気づきます。
この型を理解するコツは、「属性は明示されているか?」を問い直す癖をつけることです。断定がない場合、読者の頭の中では複数の像が成立し得ます。叙述トリックは、その複数性を利用して読者の像を一つに寄せ、最後に別の像へ切り替えます。
状況の誤認(場所・時間・生死)
状況誤認は、物語世界の“舞台セット”を読者の頭の中に作らせ、それを崩すタイプです。場所・時間・生死は、読者が強く固定化しやすい要素です。一度舞台が頭の中で確定すると、読者はその舞台に合わせて情報を解釈するようになります。そのため、反転が起きたときの衝撃が大きくなりやすいのが特徴です。
場所の誤認
「駅前」と聞いて都会を想像するか地方を想像するか、家の構造、部屋の広さ、周囲の景色。文章が細部を描かないほど、読者の想像が入り込みます。そこに“当然こうだろう”が積み重なって誤認が生まれます。時間(時系列)の誤認
叙述トリックでは、時間を示す言葉が意図的に少ない、あるいは曖昧な表現が使われることがあります。読者が「同じ日の出来事だ」「同時進行だ」と補完したものが、反転後に崩れます。時系列誤認は、場面転換が多い構成や、章ごとの語り口が似ている作品で起きやすいです。生死の誤認
生死は本来断定されやすい情報ですが、文章が「いなくなった」「戻ってこない」「姿を見せない」といった表現に留まると、読者は“死んだ”と補完しがちです。あるいは逆に、“生きている”と信じて読み進めるケースもあります。どちらにしても、読者が断定した瞬間に誤認の芽が生まれます。
状況誤認の怖いところは、読者が「舞台を確定しないと読めない」と感じやすい点です。読書はテンポが大事なので、曖昧さに立ち止まらず、自然に確定して進めてしまいます。その自然さこそが、叙述トリックの作動条件になります。
構成の誤認(視点切替・時系列)
構成の誤認は、文章一文の仕掛けというより、章立てや場面配置、視点の切替といった“全体設計”で読者を誘導する型です。読者は、章が変われば「別の場面」、視点が変われば「別の人物」だと整理します。そこに意図的な配置が入ると、誤認が生まれます。
たとえば、次のような方向性です。
複数の視点が交互に出てきて、読者が“別の出来事”だと思う
場面が似ていて、読者が“同じ場所”だと決めつける
時系列を前後させ、読者が“同時進行”と補完する
重要な情報を「言い落とし」し、読者が勝手に埋める
ここでの要点は、構成型は「読み心地が良い」ほど読者が気づきにくいことです。自然に読める構成は、読者の警戒心を下げます。警戒心が下がるほど、補完が強く働き、誤認が固まります。叙述トリックは、読者の理解欲求と読書のテンポを味方につける技法だといえます。
叙述トリックはアンフェアなのか
フェアプレイの原則と誤解されやすい点
叙述トリックが議論になりやすい理由の一つが、「フェアプレイ」の問題です。ミステリーには、読者に対して公平であるべきだという考え方があり、そこではしばしば次のような原則が語られます。
地の文に嘘を書かない
解決に必要な手がかりは読者に提示する
ただし、ここで言う「嘘」とは何か、「手がかり」の提示とはどの程度か、という解釈は一様ではありません。叙述トリックは、まさにこの解釈の揺れの上に立っています。
誤解されやすいのは、次の2点です。
省略や曖昧さまで“嘘”だと考えてしまう
文章がすべてを説明しないのは自然なことです。すべてを書けば冗長になり、物語は成立しにくくなります。省略と虚偽は別物です。「読者が気づけなかった=手がかりがなかった」と感じてしまう
手がかりは提示されていても、読者が見落とすことはあります。叙述トリックは、見落としやすい形で手がかりを置くため、読者によっては“不意打ち”と感じます。
つまり、アンフェアだと感じるかどうかは、読者の期待値(地の文は客観であるべき、など)にも左右されます。だからこそ、議論が割れやすいのです。
読者が納得できる叙述トリックの条件チェック
フェアかどうかを、感情だけで判断するとぶれやすいので、読者側で使えるチェックリストにしておくと整理できます。以下は、読み終えたあとに「これは納得できるタイプだったか」を判断するための観点です。
フェアプレイ確認チェックリスト
反転後に読み返すと、地の文が事実と矛盾していない
読者が誤認したポイントは、“書かれていない部分の補完”が原因になっている
重要情報が完全に隠蔽されているのではなく、別解釈の余地として置かれている
反転後に「そう読める根拠」が本文内で回収される
解決に必要な情報が、最後に外部から突然追加投入されていない
反転が単なる言葉遊びではなく、物語上の意味やテーマと結びついている
最後の項目は好みもありますが、納得感には意外と効きます。叙述トリックが「ただ驚かせたいだけ」に見えると、読後感が荒れやすいからです。逆に、反転が人物理解やテーマに繋がると、驚きが“意味”になります。
また、読者として覚えておきたいのは、叙述トリックは「気づけた人が偉い」種類の仕掛けでは必ずしもない、という点です。気づけなかったとしても、読み返して納得できるなら、それは十分にフェアな体験になり得ます。大事なのは“気づけるか”より“納得できるか”です。
叙述トリックを楽しむ読み方とネタバレ回避
読む前にできる対策(紹介文の読み方)
叙述トリック系の作品は、ネタバレの影響が特に大きいジャンルです。なぜなら、叙述トリックの核心は「どう誤認していたか」にあり、先に型を特定されるだけでも警戒が生まれて体験が変わってしまうからです。作品名が有名であればあるほど、検索結果やレビューで“わかる人にはわかる”表現が並び、うっかり踏んでしまいます。
読む前の対策としては、次のような運用が安全です。
作品名で検索しない
調べるなら「叙述トリック とは」「叙述トリック 読み方」など、用語検索に留めるほうが安全です。レビューは見ない、もしくは星評価だけにする
感想は善意でも核心に触れがちです。とくに「最後に全部繋がる」「この一文に騙された」などの示唆でも、構えが生まれます。公式あらすじ・帯の情報を最小限にする
公式は比較的配慮がありますが、それでも“売り文句”として仕掛けを匂わせることがあります。気になる人は、あらすじを途中で止めるのも一つです。「叙述トリック作品まとめ」系は基本的に避ける
作品一覧は便利ですが、タイトルだけで構えが生まれることもあります。読むなら「ネタバレなし」を明言しているものに限定するのが無難です。
ネタバレ回避は、気をつけるほど不便になりますが、叙述トリックだけは“体験価値”に直結しやすいので、少し慎重にして損が少ないジャンルです。
読中に効く“違和感メモ”の作り方
「叙述トリックを見抜きたい」というより、「振り回されすぎずに楽しみたい」という人に役立つのが、違和感メモです。これは犯人当ての推理ではなく、断定できないのに断定していないかを確認する作業です。
おすすめのやり方は次の通りです。
主語が曖昧な文に印をつける
「〜した」「〜が見えた」の主語が省かれている場合、読者は主語を勝手に補います。そこに誤認が生まれます。時間語が少ない場面をメモする
「その後」「しばらくして」「やがて」だけで進む場面は、時系列の誤認が起きやすいです。「いつの話か」を断定しない意識が役立ちます。属性が明示されていないのに、頭の中で決めているところを探す
性別・年齢・立場は、読者の補完が入りやすい要素です。「書いてあったか?」を時々問い直すだけで違います。会話の受け答えのズレに注意する
返事が微妙に噛み合っていない、質問に答えていない、主語を避けている。こうしたズレは、誤認のための“余白”になっていることがあります。
メモといっても、難しくする必要はありません。「ここ、曖昧だな」と思ったら小さく印をつける程度で十分です。叙述トリックは、読みながら完全に見抜くより、読後に読み返して納得する楽しみ方のほうが合う人も多いです。
読後に理解が深まる振り返り手順
叙述トリックは、読み終えたあとに「なぜそう読んでしまったのか」を振り返ると、面白さが増します。しかもこの振り返りは、次の作品でも役に立ちます。ネタバレを増やさずにできる振り返り手順を、具体的なステップにしておきます。
自分が誤認していた点を1つだけ言語化する
人物なのか、属性なのか、時間なのか、場所なのか。「何がズレていたか」を短く書き出します。複数ある場合も、まず1つに絞るのがコツです。誤認の原因を“断定の不足”と“誘導表現”に分ける
断定の不足:書いていないのに、読者が決めた
誘導表現:書き方が、特定の解釈へ寄せていた
どちらが強かったかを整理すると、納得が深まります。
自分が補完した瞬間を思い出す
読者が“決めた”瞬間が必ずあります。たとえば「この人は男性だろう」「この場面は同じ日の続きだろう」のように、頭の中で像が確定した地点です。該当箇所を読み返し、別解釈が成立する文だったか確認する
ここが最も面白いところです。読み返すと、文章が意外と“逃げ道”を残していることがあります。「確かに断定していない」「言い方が一般化されている」と気づけると、作品の技術が見えてきます。誤認パターンを分類して覚える
人物/属性/状況/構成のどれだったか。分類は、次に似た仕掛けに出会ったときの“地図”になります。
この振り返りを一度やっておくと、「叙述トリックを知るとつまらなくなる」のではなく、むしろ“読みの解像度”が上がって、楽しみが増える方向に働きやすいです。
叙述トリックに関するよくある質問
叙述トリック作品のおすすめは?
おすすめ作品を知りたい気持ちは自然ですが、叙述トリックは「おすすめ=ネタバレ」になりやすいジャンルでもあります。なぜなら、叙述トリックが仕込まれていると知った瞬間に、読者は警戒して読み方が変わってしまうからです。これは良し悪しではなく、体験の性質です。
それでも選び方の指針が欲しい場合は、作品名ではなく“選び方”を基準にすると安全です。
自分が好きなジャンルから選ぶ
本格ミステリー、日常の謎、サスペンス、短編集など、読み味の好みで選ぶと外しにくいです。叙述トリックはスパイスであって、料理の種類は別にあります。短編集は相性が良いことが多い
短編は仕掛けの焦点が絞られやすく、叙述トリックの“手触り”を掴みやすい傾向があります(もちろん作品によります)。「ネタバレなし」を明言する紹介を選ぶ
読む場合は、作品の仕掛けに触れない姿勢が明確な媒体に限定するのが無難です。
作品名そのものをここで列挙すると、読む楽しみを削る可能性があるため、本稿では避けます。その代わり、上の選び方で「自分の好きな読み味の中で出会う」ほうが、叙述トリックは一番気持ちよく刺さりやすいです。
叙述トリックを知るとつまらなくなる?
これは人によって感覚が分かれます。確かに、叙述トリックという概念を知ると「どこかに仕掛けがあるのでは」と警戒し、純粋に流されて読む楽しさが減ることがあります。一方で、叙述トリックの面白さは“驚き”だけではありません。
文章がどう読者を誘導しているか
どこで自分が補完したか
読み返したときの整合性はどう作られているか
こうした点に気づけると、驚きが減っても「技術としての面白さ」「読解としての快感」が増えることがあります。つまり、つまらなくなるかどうかは、楽しみの軸が「驚き」だけに寄っているか、「理解」や「納得」にも広がるかで変わります。
もし警戒しすぎてしまうなら、読書中はあえて“違和感メモ”だけに留め、推理をしないと決めるのも一つです。叙述トリックは、見抜く競技ではなく、味わう体験としても十分に成立します。
叙述トリックとミスリードの違いは?
ミスリードは、読者の推理や注意を別方向へ誘導する手法の総称として使われることが多い言葉です。犯人に見せかける人物を置いたり、重要な証拠から目を逸らさせたり、誤った仮説を立てやすい情報を強調したりするのは、広い意味でミスリードです。
叙述トリックは、その中でも特に、文章の叙述(情報提示の形式)によって誤認を作るタイプだと考えると整理しやすいです。
ミスリード:誘導の手段は何でもよい(出来事・証拠・演出・心理など)
叙述トリック:誘導の核が「文章の書き方」にある
したがって、叙述トリックはミスリードの一種として捉えることもできますが、叙述トリックはとくに“読み返しでの整合性”が評価の焦点になりやすい、という特徴があります。
映像でも叙述トリックは成立する?
「叙述」という言葉の通り、叙述トリックは本来、文章表現と結びつけて語られることが多いです。文章は、読者が頭の中で映像や状況を補完しながら読むため、その補完を利用した誤認が作りやすいからです。
ただし、映像でも「情報提示の操作」で観客の思い込みを作り、後から反転させることは可能です。映像なら、カメラが映さないもの、編集の順番、音の情報、視点人物の限定、カットの繋ぎなどが、文章でいう叙述に近い役割を担います。
とはいえ、映像は文章より具体性が強く、観客が補完する余地が狭まる場面もあります。そのため、映像で同じ効果を狙う場合は、別の技術(演出・編集・視点制御)がより重要になります。要するに、「文章の叙述トリック」と「映像の演出トリック」は親戚関係にあるが、成立条件は同一ではない、という理解が混乱を減らします。
用語の混同を防ぐ比較表(まとめ)
| 用語 | 位置づけ | 主な焦点 | 叙述トリックとの関係 | 読後に残りやすい感覚 |
|---|---|---|---|---|
| 叙述トリック | 技法 | 文章の情報提示で誤認を作る | 本題 | 「読み返すと腑に落ちる」 |
| どんでん返し | 効果 | 終盤で状況や意味が反転 | 叙述トリックで起きることもある | 「驚いた」 |
| 信頼できない語り手 | 技法 | 語り手の信頼性・偏り | 重なる場合があるが同義ではない | 「語り手に騙された」 |
| 伏線回収 | 設計 | 先の要素を後で回収して納得 | 叙述トリックの納得を支える | 「ちゃんと書いてあった」 |
| ミスリード | 広い概念 | 注意や推理を別方向へ誘導 | 叙述トリックを含み得る | 「誘導されてた」 |
この表のポイントは、「叙述トリックは“文章の読み方”に干渉する技法」であることです。どんでん返しや伏線回収は作品全体の設計にも関わりますが、叙述トリックは特に“読者が何を当然だと思うか”を狙います。だからこそ、知っているだけで読書体験が変わりやすいのです。
まとめ
叙述トリックとは、文章の記述(情報の出し方・順序・視点・粒度)を操作し、読者に特定の誤認を抱かせる技法です。事件の仕組みをひねるというより、読者の補完と思い込みを利用して、頭の中の状況理解を反転させるところに特徴があります。
混同を避けるには、「どんでん返しは効果、叙述トリックは手段」と捉えるのが有効です。また、信頼できない語り手は語り手の信頼性が焦点になりやすく、叙述トリックは情報提示設計そのものが焦点になりやすい、という違いも押さえておくと整理が進みます。
フェアかアンフェアかで迷ったら、地の文の矛盾がないか、手がかりが本文内に置かれていたか、読み返しで整合するか、といったチェックリストで判断すると納得しやすくなります。そして、叙述トリックは見抜くことが目的ではなく、読後に「なぜそう読んだのか」を振り返ることで面白さが増えるタイプの仕掛けです。
ネタバレの影響が大きいジャンルでもありますので、作品名検索やレビュー深掘りは控えめにしつつ、今回の“誤認パターン”と“振り返り手順”だけを武器に、次の一冊をまっさらな気持ちで楽しんでみてください。