顎下の脂肪吸引を調べていると、「死亡」という強い言葉が目に入り、急に怖くなることがあります。小顔になりたいだけなのに命の話になると、手が止まってしまうのは当然です。
ただ、必要以上に怯えるのではなく、「何が起きると危ないのか」「どんな症状が出たら迷わず救急なのか」「どんな体制ならリスクを下げられるのか」を整理できれば、不安は“判断”に変わります。
本記事では、顎下で特に注意したい血腫による気道圧迫を中心に、麻酔合併症、肺塞栓・脂肪塞栓、感染といった致命的になり得る原因を、原因→初期サイン→初動の順で分かりやすくまとめます。さらに、カウンセリングで必ず確認したい質問リスト、術後の危険サインのチェックリスト、受診時に伝えるテンプレまで用意しました。読後には「怖いからやめる/勢いで決める」ではなく、納得して判断できる状態を目指せます。
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顎下脂肪吸引で死亡が起こると言われる理由
顎下は腫れが気道に影響し得る場所だから
顎下は見た目の範囲は小さくても、首の深部は呼吸に関わる構造と近接しています。顎下や顔の脂肪吸引後、出血がたまって血腫(血のかたまり)ができると、腫れの方向や程度によっては気道が圧迫され、呼吸が苦しくなる可能性が指摘されています。
ここで重要なのは、「血腫ができる=必ず致命的」ではありません。
本当に差が出るのは、次の2点です。
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危険サインを早く察知できるか(本人・同伴者・施設)
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起きたときに即応できる体制があるか(連絡、再診、救急搬送)
報道でも、顔の脂肪吸引後に出血で窒息のおそれが認識されながら適切措置が十分でなかった可能性が問題視された事案があります。これは“特定の事案”であり一般化はできませんが、「初動が遅れると危ない」という教訓として受け止める価値はあります。
脂肪吸引全般では血栓塞栓や脂肪塞栓が致命的になり得る
脂肪吸引は外科的侵襲を伴い、まれでも生命に重大な影響をもたらす合併症が知られています。日本美容外科学会(JSAPS)も、過度で無理な脂肪吸引は脂肪塞栓や静脈血栓をつくる危険があり、生命に重大な転機をもたらすことがあると述べています。
医学文献でも、脂肪吸引に関連する死亡・重篤合併症として、肺塞栓(PE)や脂肪塞栓が議論されています(ただし研究条件で頻度の扱いは変動します)。
「まれ」でもゼロではないを、どう現実的に捉えるか
「死亡はまれ」と言われると、安心する人もいれば、逆に「まれでも自分が当たったら終わり」と恐怖が増える人もいます。
大切なのは、数字の大小よりも、次の視点です。
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致命的パターンの“早期サイン”を知っておく
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早期サインが出たら“迷いなく動ける導線”を作る
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施設選びで“体制”を質問で可視化する
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自分の既往や服薬など、個別リスクを術前に評価してもらう
厚労省が示す「施術前チェック」を使うと、勢いで決めることを避けやすくなります。
死亡につながり得る原因をパターン別に整理
ここからは、顎下で特に意識したいものと、脂肪吸引全般で重要なものを、実際の行動に落ちる形で整理します。
※本章は「怖さを増やすため」ではなく、「起点と初動を理解して、遅れを減らすため」の章です。
出血と血腫で首が腫れて息ができなくなる
顎下・顔の脂肪吸引で致命的になり得る代表が、血腫の形成から気道圧迫に進むパターンです。クリニック側の解説や専門医の見解でも、血腫が気道を圧迫しうる点が指摘されています。
血腫は「内出血」と混同されがちですが、実際は「血がたまって圧がかかる」状態です。顎下は首の構造上、外側に腫れるだけでなく、内側に腫れが回り込むと呼吸が苦しくなる可能性があります。
見逃したくない初期サイン(顎下)
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首の張りが短時間で強くなる
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声が出しにくい/かすれる
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唾が飲み込みにくい、むせる
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横になると苦しい、息が吸いにくい
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「喉が締まる感じ」が増していく
このタイプは「様子見」が最も危険です。迷った時点で救急を優先し、同時に施術施設へ連絡するのが現実的です。
麻酔・鎮静で呼吸が浅くなる、止まる
顎下脂肪吸引は局所麻酔のみの場合もあれば、鎮静や静脈麻酔を併用する場合もあります。鎮静の深さが強すぎる、呼吸状態の監視が不十分、緊急時の気道確保が遅れるなどが重なるとリスクになります。
また、局所麻酔薬(リドカイン等)については、チュメセント麻酔における最大安全用量の推定や薬物動態が議論されています。一般ユーザーが用量の妥当性を直接判断するのは困難ですが、“誰が何をモニターし、どの基準で鎮静を調整し、急変時に何ができるか”を説明できる施設かどうかは確認できます。
肺血栓塞栓(PE)と静脈血栓塞栓症(VTE)
脂肪吸引関連の死亡要因として、肺塞栓(PE)が主要因になり得ることが指摘されています。症例報告や総説では、脂肪吸引関連死の中でPEが重要な位置づけとして言及されます(ただし割合は文献条件で変動し得ます)。
疑いサイン(胸部・呼吸)
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突然の息切れ
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胸の痛み(深呼吸で増悪することも)
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動悸、冷汗
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立っていられないほどの倦怠感
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失神しそう、意識が遠のく
これらは顎下の腫れと別系統で出ることがあり、「首は大丈夫だから安心」と誤解しやすい点が落とし穴です。
肺脂肪塞栓(脂肪塞栓症候群を含む)
脂肪吸引や脂肪注入で、脂肪が血管内に入り肺障害を起こす「肺脂肪塞栓」が重篤合併症として報告されています。系統的レビューも存在し、医療者側でも認知が十分でないことが課題として述べられています。
症状は呼吸困難を中心に、急速に悪化し得ます。疑わしい時は救急を優先してください。
重い感染と敗血症
術後の感染は軽症もありますが、重症化すると敗血症に至る可能性があります。術後数日以降で以下が目立つ場合は要注意です。
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発熱が続く、悪寒が強い
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痛みが増していく(通常は日ごとに軽くなることが多い)
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腫れや赤みが広がる
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膿、悪臭、皮膚の異常な熱感
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ぐったりして水分が取れない
「美容外科だから大げさにしたくない」と我慢して遅れると不利になります。夜間で全身症状が強い場合は救急も選択肢です。
原因パターン別の初期サインと初動が一目で分かる表
表A:原因パターン/初期サイン/危険度/初動
| パターン | 起こり方のイメージ | 初期サイン | 危険度 | 初動 |
|---|---|---|---|---|
| 頸部血腫・腫脹→気道圧迫 | 出血がたまり首が内側に腫れる | 呼吸苦、声の変化、飲み込み困難、首の張りが急増 | 非常に高い | 迷わず救急要請+同時に施術施設へ連絡 |
| 麻酔・鎮静の合併症 | 呼吸抑制・意識低下 | 強い眠気、呼吸が遅い、反応が鈍い、唇が紫っぽい | 高い | 帰宅後なら救急、施術当日なら院内で監視・対応 |
| VTE/PE | 血栓が肺循環を障害 | 突然の息切れ、胸痛、動悸、冷汗、失神感 | 非常に高い | 迷わず救急要請 |
| 肺脂肪塞栓 | 脂肪が血管内へ | 急な呼吸苦、低酸素を疑う症状 | 非常に高い | 迷わず救急要請 |
| 重い感染・敗血症 | 感染が拡大 | 高熱、痛み増悪、赤み拡大、ぐったり | 高い | 早急に受診(夜間で全身症状強ければ救急) |
術後に見逃してはいけない危険サインと受診基準
「どこからが危険?」が曖昧だと、“連絡待ち”や“様子見”が増えます。ここでは判断を3段階に分けます。
まず救急を優先する症状
次のいずれかがある場合、最優先は救急要請です(同時に施術施設へ連絡)。顎下は気道が関係し得るため、呼吸系の違和感を軽く見ないことが重要です。
チェックリスト:救急レベル
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息が吸いにくい/息が苦しい/呼吸が浅い
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声が急にかすれる、声が出しづらい
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唾が飲み込めない、むせる
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首の腫れが短時間で増える、喉が締まる感じが増す
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意識がもうろう、反応が弱い
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胸痛、突然の息切れ、冷汗、失神しそう
当日中に施術施設へ連絡し、指示に従う症状(ただし悪化なら救急)
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痛みはあるが、呼吸や飲み込みは問題ない
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腫れはあるが、短時間で増えていない
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出血がじわじわ続く、圧迫がずれている
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吐き気が続くが、意識は清明
このゾーンは「経過観察でよいこともある」一方、顎下は状況が変わると急に危険側へ寄る可能性があります。“悪化したら救急へ切り替える条件”をその場で明確にしておくことが鍵です。
翌日〜数日以内に受診を検討すべき症状(全身症状が強いなら救急)
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発熱が続く
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痛みが日ごとに増していく
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赤みが広がる、熱感が強い
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悪臭や膿がある
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だるさが強く、水分が取れない
受診時に伝えるべき情報テンプレ
救急や他院では、美容施術の詳細が共有されないことがあります。短く正確に伝えられるよう、メモを作っておくと初動が早くなります。
テンプレ:受診・救急で伝える内容
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施術日・時刻(例:2/10 15:00)
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施術部位(顎下、頬など)
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麻酔(局所、鎮静、静脈麻酔の有無)
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症状の始まりと推移(いつから、どのくらい増えたか)
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現在の症状(呼吸、声、飲み込み、胸痛、発熱など)
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既往歴・服薬(ピル、抗凝固薬、喫煙など)
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施術施設名と連絡先
クリニック選びで死亡リスクを下げる質問リスト
学会所属や症例数は参考になりますが、「安全体制」を保証するものではありません。厚労省の“施術前チェック”の考え方を、質問に落とし込みます。
麻酔・モニタリング体制を可視化する質問
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術中に何をモニターしますか(酸素飽和度、血圧、心拍、呼吸など)
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監視は誰が担当しますか(執刀医と別の担当がいるか)
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鎮静を使う場合、深さの調整と緊急時対応は誰が担いますか
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術後の観察は何時間ですか(どの状態なら帰宅可ですか)
術後フォローと夜間対応を可視化する質問
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当日夜〜翌朝の連絡手段は何ですか(電話/LINE等、つながる時間帯)
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返信が来ない場合、何分待って、次に何をすべきですか
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再診の基準を教えてください(首の腫れ、呼吸、痛みの増悪など)
緊急時の導線を可視化する質問
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気道が苦しい場合、院内でどこまで対応できますか
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緊急搬送が必要な場合、どの病院と連携しますか
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搬送時に施術内容の情報提供はどうなりますか
日帰り・遠方帰宅の可否を決める質問
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遠方帰宅は可能ですか。可能なら「条件」を具体的に教えてください
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帰宅後に危険サインが出た場合、最寄り救急での受診を推奨しますか
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同伴者は必要ですか(必要な理由も含めて)
質問への回答で見抜く赤信号と安心材料
表B:質問項目/望ましい回答例/赤信号例
| 質問 | 望ましい回答例 | 赤信号例 |
|---|---|---|
| 術中は何をモニター? | モニター項目が具体的で、担当者も明確 | 「大丈夫」「慣れている」だけ |
| 鎮静の管理は誰? | 管理者・緊急対応が明確 | 執刀医のみ、説明が曖昧 |
| 当日夜の連絡手段は? | 電話/窓口/時間帯/返信基準が明確 | SNSのみ、返信は不定 |
| 呼吸苦や急な腫れは? | 救急基準が明確で“迷い”を減らす | 「様子見」前提 |
| 緊急搬送の導線は? | 連携先や搬送フローを説明できる | 連携先が不明、答えられない |
遠方帰宅・当日帰宅で迷わないための判断基準
遠方帰宅がすべて危険というわけではありません。しかし、顎下は「当日夜〜翌朝に変化が出たとき、動けるか」が重要です。そこで“目安”として3条件を提示します。
3条件(すべて満たすのが望ましい)
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当日夜に同伴者がいる(本人が眠気や痛みで判断が鈍る可能性があるため)
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夜間連絡手段と返信基準が明確(つながらない場合の行動も決める)
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最寄り救急の場所と行き方を事前に決めた(タクシー/自家用車/救急要請の基準)
満たせない場合は、宿泊・近隣待機・翌日の再診を組み合わせるほうが安心です。美容医療の救急受け入れが課題になってきた背景もあり、“最悪時の導線”は事前に作っておく価値があります。
自分側でできるリスク低減(術前・術後)
術前に必ず申告したいこと
申告漏れは、麻酔・感染・血栓塞栓リスク評価に影響し得ます。必ず伝えたい項目は以下です。
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既往(心臓・肺・腎臓・肝臓・血栓症、睡眠時無呼吸など)
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服薬(ピル/ホルモン剤、抗凝固薬、抗血小板薬、サプリ含む)
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喫煙(加熱式含む)
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アレルギー、過去の麻酔トラブル
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最近の体調不良(発熱、感染症、脱水)
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仕事や移動の予定(術後すぐの遠方移動の可否に関わる)
厚労省のチェック項目(薬の説明、リスク副作用、代替手段、今すぐ必要か)も、申告と同時に“確認の型”として使えます。
同時施術を増やしすぎない
同時施術は便益もありますが、侵襲や麻酔負荷、観察の複雑さが増します。脂肪吸引関連の重篤合併症としてPE/VTEや脂肪塞栓が議論される以上、同時施術の増やしすぎは慎重に考えるべき論点です。
「顎下だけで目的が達成できるなら、まず顎下に集中し、追加は安全確認後に段階的に検討する」という考え方は、後悔を減らしやすい設計です。
術後48時間の過ごし方(観察設計)
術後は「安静=安全」ではなく、「変化を早く見つけ、早く動ける」ことが安全に直結します。
術後48時間チェック
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当日夜は可能なら同伴者を確保
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呼吸、声、飲み込みを定期的に確認(顎下はここが最重要)
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首の腫れは“増える速さ”を見る(写真で記録すると変化が分かる)
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水分をこまめに(体調不良・脱水を避ける)
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連絡先、救急の利用基準、最寄り救急を手の届くところに置く
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返信待ちになりそうなら、救急へ切り替える条件を決めておく
用語ミニ辞典(読み飛ばし防止のための最小限)
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血腫:出血がたまって“塊”のようになり、圧がかかる状態
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気道圧迫:腫れなどで空気の通り道が狭くなり呼吸が苦しくなること
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VTE:静脈に血栓ができる病態の総称
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PE:肺の血管に血栓が詰まり、呼吸循環に影響する状態
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脂肪塞栓:脂肪が血管内に入り塞栓を起こすこと(肺で問題になりやすい)
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鎮静:不安や痛みを軽くするために眠気を誘導する管理(深さの調整が重要)
よくある質問
顎下だけなら安全と言えますか
顎下は範囲が小さい一方、首は気道に近く、血腫や腫脹が呼吸に影響し得ます。安全性は部位だけでなく、手技・麻酔管理・術後観察・緊急導線で大きく変わります。
術後の腫れは普通ですか。どこから危険ですか
腫れ自体は起こり得ます。しかし、呼吸苦、声の変化、飲み込み困難、短時間での腫れ増悪がある場合は危険サインとして扱い、救急を優先してください。
価格が安いと危険ですか
価格だけで危険とは断定できません。ただし、安全体制(モニタリング、人員、夜間対応、搬送導線)にはコストがかかりやすいのも事実です。大切なのは価格より、質問に具体で答えられるか、赤信号がないかです。厚労省の施術前チェックに沿って、説明が足りない点は必ず確認してください。
異常が出たら、クリニック連絡と救急はどちらが先ですか
呼吸・意識・胸痛など命に関わり得る症状なら救急が先です。救急要請をしながら施術施設へ連絡し、情報共有できるようにしておくのが現実的です。
まとめ:怖さを減らすのは「知識」より「導線」
顎下脂肪吸引で死亡がゼロではない理由は、顎下特有の血腫・腫脹による気道リスク、脂肪吸引全般のPE/VTEや脂肪塞栓、麻酔合併症、感染などが複合するためです。
ただし、必要以上に怖がるのではなく、次の3点で“判断できる安心”に近づけます。
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危険サイン(特に呼吸・急な腫れ)を知る
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救急/当日連絡/翌日受診の判断導線を作る
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施設の体制を質問で可視化し、赤信号を避ける
そして、厚労省が示す施術前チェック(薬・リスク・代替・今すぐ必要か)を使い、納得できるまで説明を受けてください。整わない条件があるなら「見送る」「延期する」も立派な選択です。
参考にした情報源
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厚生労働省「その美容医療、ちょっと待って!」https://aesthetic-medicine-caution.mhlw.go.jp/
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厚生労働省「確認してください!美容医療の施術を受ける前にもう一度!」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04978.html
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厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_436723_00013.html
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日本美容外科学会(JSAPS)「脂肪吸引法」https://www.jsaps.com/surgery/liposuction.html
-
CDC(MMWR)“Deaths of U.S. Citizens Undergoing Cosmetic Surgery…”https://restoredcdc.org/www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7303a3.htm
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PMC “Pulmonary Fat Embolism Following Liposuction and Fat Grafting”https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10218620/
-
PubMed “Estimated Maximal Safe Dosages of Tumescent Lidocaine”https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26895001/