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座学とは?意味と実習・OJTとの違いを整理し研修成果につなげる方法

「座学は大事だ」と言われる一方で、「聞くだけで終わってしまう」「現場で役に立たない」と感じた経験はないでしょうか。座学は、実技やOJTと比べて効果が見えにくいため、目的や使い方を誤ると“机上の空論”になりやすい学び方です。しかし、座学の役割を正しく捉え、実習やOJTへつなぐ設計を行えば、研修の質と現場の再現性を大きく高められます。
本記事では、座学の意味と使われ方をわかりやすく整理したうえで、講義・実習・OJT・Off-JTとの違い、座学が向くテーマと向かないテーマ、そして座学を成果に変える具体的な進め方まで、研修担当者や現場リーダーがそのまま使える形で詳しく解説します。

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座学とは何か

座学の基本的な意味と使われ方

座学とは、実技や実習のように「手を動かして身につける学び」に対して、講義やテキストを通じて「知識・理屈・判断基準」を理解する学び方を指します。いわゆる教室や会議室で椅子に座り、講師の説明を聞いたり、資料を読み込んだりしながら、体系立ててインプットしていく形式です。

企業研修で「午前は座学、午後は演習」と言う場合、午前にルールや背景、用語、基本手順の意味を揃え、午後にケーススタディやロールプレイで使ってみる、という流れを意図することが多いです。学校教育でも、まずは座学で理論や前提を学び、その後に実験・実習で再現する、という順番が一般的です。

ここで大切なのは、座学は「暗記の時間」ではなく、実践で迷わないための“地図”を頭に入れる時間だということです。現場で起こる出来事は、教科書通りに進まないことが少なくありません。だからこそ、座学で「何が大事で、何を優先し、どこに注意し、どの判断基準を使うのか」を理解しておくと、実践の質が上がります。

座学が必要とされる典型的な場面は、次の通りです。

  • 新人・異動者が増え、共通言語や基準を短時間で揃えたい

  • 安全・品質・法令順守など、間違いのリスクが大きいテーマを扱う

  • 仕事の背景(なぜその手順なのか)を理解させ、自己判断の精度を上げたい

  • 受講者の経験差が大きく、先に知識の土台を揃えないと演習が成立しにくい

一方で、座学は「分かる」と「できる」の間に距離がある学び方でもあります。したがって、座学を効果的に使うには、座学の役割をはっきりさせたうえで、演習や現場適用につなげる設計が欠かせません。

座学が指す範囲と指さない範囲

座学が指す範囲は広く、単に講師が話す授業だけではありません。一般的には、次のような“知識を扱う活動”が座学に含まれます。

  • 講義(スライド・板書・説明)

  • テキスト学習(マニュアル、規程、教材の読み込み)

  • 動画視聴型の学習(視聴後に理解確認を行うもの)

  • 事例の読み解き(ケースを読んで判断基準を整理する)

  • ミニテストやクイズ(理解度の確認としての座学の一部)

つまり「座ってインプット中心に理解を進める」活動が座学の核です。

一方で、座学が指しにくい(座学だけでは完結しにくい)のは、次のような“身体性や状況依存が強い活動”です。

  • 実技・実習(工具の扱い、手技、作業姿勢、調理、機械操作など)

  • 接客や電話応対などの対人対応(声のトーン、間、相手の反応への適応)

  • 現場判断(時間制約・情報不足の中で優先順位を決める)

  • チーム連携(引き継ぎ、声かけ、配置、共同作業のタイミング)

こうした領域は、座学で「基準」や「注意点」は説明できても、実際に再現できるかは別問題になりやすいです。例えるなら、泳ぎ方を本で理解しても、プールに入るまで泳げるようにはならないのと同じです。

だからこそ、座学の範囲を正しく捉えることが重要です。座学で扱うべきは、次のような“実践の前提条件”です。

  • ルール(何をしてよい/いけない)

  • 背景(なぜそのルールが必要か)

  • 目的(何を達成するための手順か)

  • 判断基準(迷ったときに何を見ればよいか)

  • 典型的な失敗パターン(どこで事故やミスが起こるか)

これらが揃っていないまま実践に入ると、「やり方だけ真似る」「理由が分からず応用が効かない」「自己流が増える」といった問題が起きやすくなります。

座学が机上の空論になりやすい理由

座学が「机上の空論」と言われる背景には、座学の欠点というより、座学の“使い方の失敗”があります。典型的な原因は大きく3つです。

1つ目は、学びのゴールが「知った」で止まってしまうことです。研修担当や講師が「全部説明したからOK」と考えてしまうと、受講者側は「聞いた気がする」「資料が残っているから大丈夫」となり、実践の場で取り出せないまま忘れていきます。知識は、使われて初めて定着します。

2つ目は、現場の状況と座学の内容がつながらないことです。座学で扱う例が抽象的すぎたり、現場と違いすぎたりすると、受講者は「話は分かるが、うちではどうすればよいか分からない」と感じます。結果として、現場に戻った瞬間に元のやり方に戻り、座学が“別世界の話”になってしまいます。

3つ目は、理解確認とフィードバックが不足することです。座学は受講者が黙って座っている時間が長く、理解していないことが表面化しにくい学び方です。特に新人は「分からない」と言い出しにくく、分かったふりをしてしまうことがあります。理解確認(ミニテスト、口頭説明、ケース判断)がなければ、誤解したまま進み、現場でのミスにつながりやすくなります。

机上の空論を防ぐために有効なのは、座学を「実践の前に必要な準備」と位置づけ、次の3点をセットにすることです。

  • 具体例:現場で起きる状況・事例から入る

  • 判断:その状況でどう判断するかを問う

  • 行動:明日から何をするか(観察・実践・記録)を決める

座学は、実践を置き換えるものではありません。実践の質を上げ、学習の遠回りを減らすための“土台づくり”として使うと、価値が最大化します。


座学と講義や実習の違いを整理する

講義と座学はどう違うのか

「講義」と「座学」は似た言葉ですが、視点が少し違います。講義は、講師が説明を行う授業形態・提供方法を指すことが多いのに対し、座学は、受講者が座って知識を理解する学習形態を指すことが多いです。

  • 講義:教える側の行為・形式(説明する、板書する、スライドで示す)

  • 座学:学ぶ側の状況・型(座って聞く、読む、理解する、整理する)

ただし実務では、講義=座学として同義で扱われることも多く、厳密に区別しない場面もあります。研修設計で区別が役立つのは、次のようなケースです。

  • 講義に偏りすぎて受講者が受け身になっている

  • 座学の中に、個人ワークやペア説明、ケース判断を入れて参加型にしたい

  • 講義の時間を短縮し、座学全体を「理解→確認→整理」のサイクルにしたい

この場合、「講義の割合を減らし、座学を参加型にする」という言い方をすると、目標が明確になります。

具体的には、座学の中には次のような要素を組み込みやすいです。

  • 要点をメモにまとめさせる(整理)

  • 2分間で隣の人に説明させる(言語化)

  • 簡単な判断クイズを出す(理解確認)

  • ケースを読ませ、判断基準を書かせる(適用)

こうした工夫により、座学は単調な“聞くだけ”から、理解が深まる“参加型の学び”へ変えられます。

実習や実技と座学の役割分担

座学と実習(実技)の最大の違いは、成果物が「理解」なのか「再現」なのか、という点です。

  • 座学:知識・概念・判断基準を理解し、説明できる

  • 実習:行動として再現できる。状況に応じて調整できる

研修や教育では、座学と実習を対立させるのではなく、役割分担として設計するのが基本です。分かりやすい流れは次の通りです。

  1. 座学で「何を、なぜ、どの基準で行うか」を理解する

  2. 実習で「手順を再現し、失敗し、修正しながら体に覚えさせる」

  3. 振り返りで「うまくいかなかった理由を言語化し、基準に戻す」

例えば安全教育では、座学で「危険の種類」「事故が起きるメカニズム」「守るべきルール」を理解し、実習で「正しい手順を実際に行う」「ヒヤリハットを見つける」練習を行います。座学がないと、実習は“手順の暗記”になり、状況が変わると応用が効きません。実習がないと、座学は“分かったつもり”になり、現場で再現できません。

役割分担をより具体化するために、次の観点で切り分けると設計がしやすくなります。

  • 座学に向く:ルール、背景、用語、判断基準、典型的なミス

  • 実習に向く:手の動き、タイミング、道具の扱い、対人応対、現場判断

そして重要なのは、座学と実習の間に“橋”をかけることです。橋の代表例が、ケーススタディやロールプレイです。座学で学んだ基準を、実習ほど重くない形で試せるため、いきなり現場で失敗するリスクを下げられます。

学校・資格・企業研修での具体例

座学は多くの領域で使われていますが、目的と組み合わせが少しずつ違います。具体例で整理すると理解が早まります。

学校教育の例

  • 座学:公式や概念、歴史背景、理論を理解する

  • 演習:問題を解いて、理解の穴を見つける

  • 実験・実習:現象を観察し、理論と一致するか確かめる

学校では、座学→演習→実験の順で進むことが多く、理解を段階的に深める構造になっています。

資格学習の例

  • 座学:体系的に範囲を把握し、用語・規定・理屈を理解する

  • 問題演習:出題形式に慣れ、判断スピードを上げる

  • 模試・復習:弱点を特定し、知識を取り出せる形にする

資格学習では、座学は“網羅のための土台”として機能し、演習が“得点化のための定着”として機能します。

企業研修の例

  • 座学:共通言語・ルール・判断基準を揃える

  • ケース演習:実務に近い判断を練習し、基準の使い方を覚える

  • ロールプレイ:対人対応や手順を再現し、改善点を確認する

  • OJT:現場で適用し、成果につなげる

企業では、時間や人数、現場の制約が大きいため、「座学で共通基盤を作り、演習で使い、OJTで定着させる」という分業が重要になります。


座学とOJTとOff-JTの違いを理解する

OJTとOff-JTの基本

企業の育成文脈では、学びの場を「OJT」と「Off-JT」で整理することが多いです。

  • OJT:実際の職場で、業務を通じて学ぶ

  • Off-JT:職場を離れて、研修や講座で体系的に学ぶ

座学は、Off-JTで使われる代表的な学習形態です。ただし、Off-JTは座学だけに限りません。Off-JTの中に、演習、討議、ロールプレイ、シミュレーションなどを組み込むことができます。

OJTの強みは、現場のリアルな状況で学べることです。実際に使う道具、時間制約、相手の反応、イレギュラーなど、座学では再現しにくい要素を含めて習得できます。一方で、現場は忙しく、指導の質や内容が担当者によってブレやすいという課題があります。

Off-JT(座学中心)の強みは、短時間で全員に同じ基準を伝えられることです。特に法令順守、安全、品質、情報セキュリティなどは、全員が同じ理解を持つことが重要で、Off-JTが効果を発揮しやすい領域です。一方で、Off-JTだけでは実践が不足し、現場での再現ができないことがあります。

したがって、OJTとOff-JTは二者択一ではなく、相互補完として設計するのが基本です。

Off-JTが座学中心になりやすい背景

Off-JTが座学中心になりやすいのは、運営上の理由が大きいです。

  • 多人数に同時に提供しやすい

  • 時間をコントロールしやすい

  • 内容の品質を一定にしやすい

  • 基礎知識を体系的に提示しやすい

特に新人研修では、受講者の経験差が大きく、前提が揃っていないまま現場に入ると事故やミスにつながりやすいです。そのため、まず座学で基礎を揃え、共通言語を作り、最低限守るべきルールを徹底する、という設計が合理的になります。

ただし、「合理的だから座学だけでよい」という話にはなりません。Off-JTの座学中心設計で起こりやすい問題は、次の通りです。

  • 受講者が受け身になり、理解の浅いまま進む

  • 聞いたことを現場でどう使うかが分からない

  • 現場に戻ったときに、忙しさに負けて実行されない

これを避けるには、Off-JTの中に“使う練習”を入れること、そしてOJT側に“座学の内容を使わせる仕掛け”を渡すことが重要です。

座学をOJTに接続する設計の考え方

座学をOJTに接続する際は、「座学で学んだ内容が、現場で自然に呼び出される仕組み」を作ることが要点です。具体的には、次の3つをセットにすると機能しやすくなります。

1)座学の成果物を“現場で使える形”にする
座学で配布する資料を分厚くするより、現場で見返せる要点に絞った「1枚のチェックシート」や「手順の観点リスト」を用意する方が効果的です。現場は時間がありません。読む前提ではなく、“見るだけで思い出せる”形にします。

2)OJT課題を「観察→実践→記録」の型で出す
単に「やってみて」で終えると、担当者の指導に依存します。次のように型を用意すると、学びの再現性が上がります。

  • 観察:先輩のやり方で、どの観点が守られているかを見る

  • 実践:同じ観点を意識して自分がやってみる

  • 記録:うまくいった点、詰まった点、次回の工夫を短く書く

3)振り返りの質問を固定する
OJTの振り返りが雑談で終わると、学びが散らばります。質問を固定すると、短時間でも学びが積み上がります。

  • 今日、座学のどの基準を使ったか

  • 迷った場面はどこで、何を根拠に判断したか

  • うまくいかなかった理由は何か(基準/手順/準備/相手要因)

  • 次回は何を変えるか

この設計により、座学が“前提づくり”として生き、OJTが“定着と成果”として機能します。


座学が向いている内容と向いていない内容

座学で成果が出やすいテーマ

座学が向いているのは、まず理解が必要で、かつ「共通の基準」が重要なテーマです。代表例を挙げます。

  • コンプライアンス、個人情報保護、情報セキュリティ

  • 安全教育(危険予知、保護具、作業ルール)

  • 品質管理(基準、検査の考え方、不良の種類、再発防止)

  • 業務プロセス(受注から納品まで、申請フロー、承認ルール)

  • 商品知識、サービスの仕様、専門用語の定義

  • ハラスメント防止、倫理、社内規程の理解

これらは、曖昧なまま現場に出すと事故・違反・クレームにつながりやすく、先に座学で基礎を揃える価値が高い領域です。

また、座学が強い理由は「整理して伝えられる」点にあります。現場で教えると、どうしても属人的なコツや経験談に寄りやすく、重要ポイントが抜けたり、順序がバラバラになったりしがちです。座学なら、重要度に応じて順番を整え、体系的に理解させることができます。

座学だけでは弱いテーマ

座学だけでは弱くなりやすいテーマは、「行動の再現」や「相手・状況への適応」が成果の中心になるものです。

  • 接客・営業(質問の仕方、間の取り方、相手の反応への対応)

  • クレーム対応(感情の扱い、言葉選び、収束の筋道)

  • 電話応対(声のトーン、テンポ、聞き返し、保留の扱い)

  • 現場作業(手順の段取り、身体の使い方、危険予知の実践)

  • チーム連携(報連相、引き継ぎ、タスク分解、優先順位)

これらは、座学で「やり方」を学んでも、実際にやってみると想定外が起きます。緊張で言葉が出ない、相手が怒っている、手が止まる、周囲が騒がしい、時間がない。こうした要素は、経験しながら改善する必要があります。

したがって、座学は“導入”として位置づけ、次の要素を組み合わせると成果が出やすくなります。

  • ロールプレイ(短いシナリオでよいので反復する)

  • ケース判断(状況に応じた判断基準を当てはめる)

  • シャドーイング・見学(先輩のやり方を観察する)

  • OJT課題(現場での実践と振り返り)

判断のためのチェックリスト

座学の比重を高めるべきか、実践を厚くすべきか迷ったときは、次のチェックリストで判断すると整理しやすくなります。

座学の比重を高めても成果が出やすい条件

  • 間違いが事故・違反・重大クレームにつながる

  • まず全員の共通言語を揃えないと現場が混乱する

  • 判断基準を理解していないと、応用が危険になる

  • 事例や根拠を含めて「なぜ」を説明する必要がある

  • 短時間で広い範囲を網羅したい

実践(演習・OJT)を厚くすべき条件

  • 手を動かさないと覚えられない

  • 相手の反応によって対応が変わる

  • 現場環境(音・道具・時間制約)が成果に直結する

  • 評価は「知っている」より「できる」が重要

  • 初回の失敗コストが大きいので、事前に練習が必要

さらに、座学の中でも「知識の説明」より「判断の練習」を増やすと、座学と実践のギャップを埋めやすくなります。例えば、ルール説明のあとに「このケースでは何がNGか」「どの条文・基準が根拠か」を問うだけでも、座学が“使える知識”に変わります。


座学を成果につなげる進め方

研修設計の手順(目的・到達目標・評価)

座学を成果につなげるには、最初に設計の順番を間違えないことが重要です。「話す内容」から作るのではなく、「到達させたい状態」から逆算します。実務で使いやすい手順を、番号付きで整理します。

  1. 研修のゴールを一文で書く
    例:「新入社員が、情報セキュリティの基本ルールを説明でき、日々の業務で迷わず守れる状態にする」
    ゴールは“説明できる/判断できる/実行できる”のように、行動が分かる言葉にします。

  2. 到達目標を3〜5個に絞る
    例:

    • 機密情報と個人情報の違いを説明できる

    • 具体的な持ち出し禁止例を3つ挙げられる

    • 迷ったときの相談手順を言える
      絞る理由は、座学は情報量を増やすほど定着が落ちるからです。

  3. 評価方法を決める(理解確認の設計)
    例:

    • 5問のミニテスト(用語とルール確認)

    • 2つのミニケース判断(判断基準の適用)

    • 1分説明(隣に要点を説明)
      評価が決まると、座学の内容も必要最小限に絞れます。

  4. 座学パートの内容を「必要最小限」にする
    よくある失敗は、背景や歴史など“知ってほしい情報”を盛り込みすぎることです。必要な情報に絞り、説明は短く、判断問題で理解を深めます。

  5. 座学直後の“橋渡し”を設計する
    座学の最後に、次のいずれかを必ず置きます。

    • ケース問題(よくある失敗パターン)

    • ロールプレイ(短く、観点を絞って反復)

    • 手順の穴埋め(理解の穴が見える)

  6. OJTへの接続(現場課題と振り返り)を用意する
    座学で終わらせず、現場で使う課題を出し、振り返りの場を設けます。ここまで含めて“研修”と捉えると成果が上がります。

この手順は、座学を「イベント」ではなく「行動変容プロセス」として設計する考え方です。座学単体の完成度より、現場につながる導線の完成度が成果を左右します。

眠くならない構成と参加型の工夫

座学が眠くなる最大の理由は、受講者が“受け身のまま時間が流れる”ことです。対策はシンプルで、「聞く」を連続させないことです。実際に運営で使いやすい工夫を、具体的に整理します。

10〜15分ごとに、受講者の行動を挟む

  • ミニクイズ(○×、三択で十分)

  • 要点の穴埋め(キーワードだけ空欄にする)

  • 2分要約(学んだことを3行で書く)

  • ペア説明(隣に1分で説明する)

行動を挟むと、理解のズレが表に出やすくなります。

具体例から入って、後で理論を当てはめる
例として、最初に「こんな事故が起きた」「こんなクレームが来た」を提示し、「なぜ起きたか」「どこが判断ポイントか」を考えさせてから、ルールや基準を説明します。これにより、受講者は“自分ごと”として聞くようになり、集中が続きやすくなります。

判断問題を入れて、基準を使わせる
座学は「知識の説明」だけだと、理解が浅くなります。「このケースでは何がNGか」「根拠はどの基準か」を問うだけで、受講者は基準を“使う”練習ができます。正解が一つでない問いを混ぜると、より実務に近づきます。

話す量を減らし、構造を見せる
話が長くなると、受講者はポイントを見失います。

  • まず全体像(地図)を提示する

  • 次に重要ポイントを3つに絞る

  • 最後にケースで適用する
    この構造を徹底すると、同じ内容でも理解度が上がります。

受講者の経験差を埋める仕掛けを入れる
新人と経験者が混在する場合、経験者は退屈し、新人は置いていかれがちです。

  • 初級:用語確認クイズ

  • 中級:ケース判断

  • 上級:改善提案(どうすれば再発防止できるか)
    同じテーマでも段階を作ると、全員が参加しやすくなります。

座学の直後にやるべき定着施策

座学の内容を現場で使える形にするには、「座学直後」が勝負どころです。記憶は時間とともに薄れ、現場に戻ると優先順位が下がりがちです。だからこそ、座学直後に“定着の三段跳び”を設計します。

1)座学→演習:その場で必ず1回使う

  • ミニケース:よくある失敗の状況を提示し、判断させる

  • ロールプレイ:短い台本でよいので、観点を絞って再現させる

  • 手順の並べ替え:正しい順序に戻させ、理解の穴を見つける
    この段階の狙いは、「分かったつもり」を剥がすことです。演習で詰まった点は、講師がその場で補正できます。

2)演習→OJT課題:翌日から1週間の行動に落とす
OJT課題は、実行できる粒度に落とします。

  • 観察:先輩の対応で、今日学んだ観点がどこに出るかを見る

  • 実践:自分も同じ観点でやってみる

  • 記録:30秒でよいので、気づきを書く
    「やって終わり」ではなく、「記録して次につなぐ」ことで学びが積み上がります。

3)OJT→振り返り:1週間後に短く回収する
振り返りは長時間である必要はありません。15分でも、質問が固定されていれば十分効果があります。

  • できたことは何か

  • 詰まったのはどこか

  • 次は何を変えるか
    ここで再度、座学の基準(地図)に戻すことで、経験が知識に統合されます。

比較表:座学/実習(実技)/OJT/Off-JT

項目座学実習(実技)OJTOff-JT
主目的知識・基準の理解技能・感覚の獲得業務を通じた習得職場外で体系的に学ぶ
場所教室・会議室実習環境・現場実際の職場研修会場・外部セミナー等
学び方聞く・読む・考えるやって覚える仕事をしながら学ぶ講義・演習・討議など
評価理解度・説明力できるかどうか成果・行動変容理解と行動への移行
得意領域ルール・理論手技・臨場感現場対応・習熟共通言語・基礎固め

この表を使うと、「座学を増やすべきか」「演習を増やすべきか」「OJTで何を回収すべきか」を議論しやすくなります。座学の価値は、実習やOJTと組み合わせたときに最大化します。

運営チェックリスト:設計前/当日/終了後

設計前

  • 座学のゴールが一文で言える

  • 到達目標が3〜5個に絞れている

  • 理解確認(テスト・ケース・説明)の方法が決まっている

  • 座学直後の演習(その場で1回使う)が用意されている

  • 現場でのOJT課題(観察→実践→記録)が用意されている

  • 振り返りの場(回収タイミングと質問)が決まっている

当日運営

  • 10〜15分ごとに受講者が手を動かす場面がある

  • 具体例→基準→適用(ケース)の順で進んでいる

  • 受講者が自分の言葉で説明する時間がある

  • 誤解が出た箇所は、その場で補正できている

  • 重要ポイントが「3つ」など、覚えやすい数に整理されている

終了後

  • OJT課題の期限と提出方法が明確

  • 現場指導者に「座学で扱った観点」が共有されている

  • 振り返りで詰まった点を次回の座学に反映する仕組みがある

  • 資料は読み物ではなく、現場で使える要点版が用意されている


座学に関するよくある質問

座学の対義語はあるのか

座学に厳密な一語の対義語が必ずあるというより、文脈に応じて「実習」「実技」「演習」「OJT」などが対比として使われます。座学が“知識を理解する学び”だとすると、対比されるのは“行動として再現する学び”です。

  • 学校の文脈:座学 ↔ 実験・実習

  • 企業研修の文脈:座学 ↔ OJT、ロールプレイ、現場実践

  • 資格学習の文脈:座学 ↔ 問題演習

対義語探しにこだわるより、「座学は理解、実践は再現」という役割分担で捉える方が、学習設計に役立ちます。

座学は悪い学び方なのか

座学は悪い学び方ではありません。むしろ、座学がないと危険になる領域があります。例えば、安全・法令順守・品質基準などは、現場での試行錯誤が許されにくいテーマです。先に座学で「守るべきライン」を明確にし、事故や違反のリスクを下げることが重要です。

座学が否定的に語られやすいのは、次のような状況が起きたときです。

  • 内容が現場とつながっておらず、受講者が使い方をイメージできない

  • 理解確認がなく、分かったつもりで終わる

  • 座学の後に演習やOJT課題がなく、実践に移行しない

つまり、座学が悪いのではなく、座学単体で完結させる設計が問題になりやすいのです。座学→演習→OJT→振り返りの流れを作れば、座学はむしろ成果を加速させる役割を果たします。

座学の英語表現は何が自然か

英語では、日本語の「座学」にぴったり一致する単語が一つだけあるというより、文脈に応じて表現を選びます。企業研修の文脈で自然なのは、次の言い方です。

  • classroom training:教室形式の研修(座学中心のニュアンス)

  • lecture:講義(講師が話す形式を強調)

  • classroom learning:教室で学ぶ(学習形態を強調)

  • theory-based training:理論中心の研修(実践との対比を明確にしたい場合)

社内資料で誤解を避けたい場合は、「Off-JT(座学・演習)」のように括って説明し、座学だけでなく演習も含めた設計であることを示すと、受け手の理解が揃いやすくなります。