「治験コーディネーターはきつい」と検索すると、ネガティブな体験談ばかりが目に入り、転職や就職の判断が止まってしまうことがあります。けれど実際は、CRCがきつくなる理由は気合や根性ではなく、業務の構造と職場条件で説明できる部分が大半です。担当施設数や移動頻度、当番の仕組み、兼務の有無が少し違うだけで、同じCRCでも負担は大きく変わります。
本記事では、きつさの正体を「調整が途切れない」「被験者対応で緊張が続く」「書類と締切が重なる」という3つの構造に分けて整理し、あなたの条件ならどこが負担になりやすいかを自己判定できるようにします。さらに、面接・見学で必ず確認すべき質問集、連絡ルールや断り方テンプレなど、明日から負担を減らす具体策までまとめました。読み終えたときに、「自分は無理かも」という不安が「この条件ならいける/ここは避けるべき」に変わり、納得して次の一歩を選べるはずです。
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治験コーディネーターがきついと言われる場面
CRCがきつい主因は、治験開始前〜被験者対応〜院内調整まで業務が重なり、割り込み判断が連続する構造です。
職場条件と当番体制を数で確認し、テンプレ運用で負荷を下げれば、無理なく続ける道も見えます。
調整役が多すぎてタスクが途切れない
CRCの忙しさは、「やることが多い」だけでは説明しきれません。ポイントは、いくつもの役割の“間”に立ち、割り込みが前提の仕事だということです。
日本SMO協会(JASMO)はCRCの主な業務を、治験開始前、被験者対応、治験担当医師対応、治験関連部門との連絡・調整、依頼者対応と整理しています。つまり、治験が動き出す前から、患者さんが来る日も、データをまとめる日も、調整はずっと続きます。
そして、CRCの割り込みは「急ぎの相談」「予定変更」「締切前の確認」など、放置しにくいものが多い。だからこそ、1日が“細切れ”になり、夕方に書類が積み上がりやすくなります。
きつさを感じやすい典型パターンは次の通りです。
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午前:外来・検査の立ち会い、被験者対応
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午後:依頼者対応(モニタリング、資料依頼)、院内調整
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夕方:症例報告書や必須文書の整理、連絡の返信
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合間:電話・チャット・メールの割り込みが数十回
この“細切れ構造”は、個人の能力より運用で差が出ます。後の章で、連絡ルールと優先順位の作り方を具体に紹介します。
被験者対応と安全性対応の緊張が続く
CRCは被験者の相談窓口になり、治験参加中の不安や疑問を受け止めることがあります。JASMOの整理でも「被験者の相談窓口」「緊急時の対応窓口」が挙げられています。
ここがきつくなるのは、単に電話が多いからではありません。
被験者からの連絡は、体調変化や服薬、通院予定など、生活と直結する内容が多く、相手の不安がそのまま言葉に乗ってきます。しかも、CRCは医学的判断を代行する立場ではない一方、必要な連携(医師へ相談、依頼者へ報告など)を急いで回す必要がある。結果として、心が休みにくくなります。
特に負荷が高くなる条件は次の通りです。
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連絡が個人の携帯に集中し、一次受けが分散されていない
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夜間・休日の当番体制が曖昧で、境界線が引けない
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被験者数が多く、来院スケジュールが密
この手のきつさは、「気持ちの持ち方」より、当番体制と連絡フローで大きく改善します。
書類とデータの締切が重なりやすい
CRCの仕事は、対人対応だけではありません。むしろ、静かにしんどさが蓄積するのが書類です。
JASMOの業務整理には、症例管理のための資料作成、スケジュール管理、症例報告書作成の補助、院内の各部門との調整など、事務・記録を含むタスクが多く並びます。
書類作業の厄介さは、次の2点です。
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締切が外部要因で決まる:依頼者側のスケジュール、モニタリング日程、監査など
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修正の往復が起きやすい:記載ルール、フォーマット、施設ごとの運用差
「作業の手数」と「心理的プレッシャー」が同時に積み上がるので、残業に直結しやすい領域です。だからこそ、テンプレ化とチェックリスト化で“迷い”を減らす価値が大きくなります。
治験コーディネーターのきつさが増える職場条件
この章は、転職検討中の人にとって最重要です。
同じCRCでも、職場の条件で疲れ方が変わります。ここを見誤ると、「CRCが合わない」のではなく「条件が合わなかった」だけなのに、キャリア全体を諦めてしまいがちです。
SMO所属で複数施設と移動が多い
SMO(治験施設支援機関)は、医療機関での治験実施を支援し、CRCの教育と派遣、バックアップ体制なども担います。
SMO所属CRCの負荷が上がりやすいのは、次の条件が重なるときです。
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担当施設が複数で、移動が日常的
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施設ごとにルールや文化が違い、“同じやり方が通らない”
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移動の合間に書類をこなす必要があり、集中時間が取りにくい
一方で、SMOには教育やフォローの仕組みが整っている場合もあり、未経験者にとって立ち上がりやすい面があるのも事実です。重要なのは「SMOか院内か」ではなく、担当の持ち方とバックアップです。
院内CRCで兼務が多い
院内CRCは、移動負担が小さい反面、兼務の影響が出やすいことがあります。
例えば、治験以外の委員会業務、外来補助、医事との調整などが重なると、治験のピークとぶつかって崩れやすい。
院内の調整は「同じ建物内」だから楽、と思われがちですが、関係者が多いぶん、調整コストが高いケースもあります。
院内CRCで確認したいポイントは次です。
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治験以外の兼務があるか(どの程度の比率か)
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治験事務局やIRB事務局との分担(CRCがどこまで持つか)
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「誰が一次受けをするか」が明確か(属人化していないか)
試験の種類とフェーズで負荷が変わる
治験や臨床試験の世界は、国際的なガイドラインの更新が続いています。PMDAはICH-E6 GCPの文書公開状況をまとめており、参照先として安定しています。
ただ、転職の観点で現実的に効くのは「試験の種類や設計で、現場の運用がどう変わるか」です。例えば、
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来院頻度が高い:調整と立ち会いが増える
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被験者の条件が厳しい:スクリーニング負荷が上がる
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安全性確認が多い:連絡と記録の緊張が増す
「どの試験を担当することが多いか」「ピーク時の担当数の目安」は、面接で必ず聞いてよい質問です。
治験コーディネーターの負担を減らす具体策
ここからは、精神論ではなく、今日から変えられる運用に落とします。
CRCの業務は多岐にわたるため(開始前〜被験者対応〜院内調整〜依頼者対応)、全部を丁寧に抱えるほど破綻しやすい。だから「ルール」「テンプレ」「優先順位」で守るのが基本です。
連絡窓口のルール化と優先順位表
CRCのきつさの核心は「割り込みの連続」と「判断疲れ」です。
まずやるべきは、連絡の入口を整えて、優先順位を共有することです。
連絡ルールのひな形
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被験者:
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緊急(症状悪化、転倒、呼吸苦など)は電話
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それ以外は「折り返し時間帯」を提示(例:平日16〜17時)
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院内スタッフ:
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依頼時に「当日中か/いつまでか」を必ず明記してもらう
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依頼者(モニター):
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件名に期限を入れる(例:1/30まで、次回SDV前まで)
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追加資料依頼は「目的」を書いてもらう(何の確認か)
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優先順位表(迷いを減らす)
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安全性に関わる連絡(有害事象疑い、緊急受診、重大な体調変化)
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当日来院に影響する調整(検査枠、医師対応、治験薬の当日運用)
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締切が明確な提出物(モニタリング前、監査前など)
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ルーチンの書類整備、整理、将来の準備
大事なのは「全部大事」をやめること。優先順位があるだけで、罪悪感が減り、判断が速くなります。
スケジュール調整の型と断り方
調整で疲れる人ほど、断らないのではなく「断り方が毎回ゼロから」になっています。
言い回しを固定すると、気持ちの摩耗が下がります。
断り方テンプレ3種
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代替案提示型:「本日中は難しいため、◯日の◯時でいかがでしょうか」
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条件付き承諾型:「◯◯が完了していれば対応できます。完了見込みを教えてください」
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優先順位共有型:「安全性対応が先になるため、こちらは明日午前の対応になります」
相手別の短文例(コピペ用)
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医師へ:「◯◯の確認が必要です。診察前に3分だけお時間いただけますか」
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看護部へ:「本日の来院に影響するため優先します。検査枠だけ先に確保できますか」
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依頼者へ:「期限と目的を確認したいです。『いつまでに』『何の確認』かご共有ください」
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被験者へ:「いま安全面を確認するため担当医に連絡します。折り返しの目安は◯分です」
このセットを自分用のメモにしておくだけで、言葉探しの疲れが減ります。
書類作業のテンプレ化と抜け漏れ防止チェック
書類は「頑張る」より、「同じ順で見る」ほうが強いです。
おすすめは次の3点セットです。
施設ごとの違いメモ
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提出先(治験事務局、IRB事務局、依頼者など)
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よく戻る修正点(文言、日付、署名、保管場所)
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施設の“暗黙ルール”(誰に先に見せるか)
週次の固定枠
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週に2回、60分ずつでもよいので「書類だけの時間」を先に確保
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モニタリング前日は“新規タスクを入れない”ルールを作る
抜け漏れ防止チェック(最後の5分)
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日付の整合
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署名・押印
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版数(バージョン)
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保管場所
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連絡履歴(誰に何を伝えたか)
表:きつい理由 × 具体症状 × 一次対処
| きつい理由 | 具体症状 | 今日からできる一次対処 |
|---|---|---|
| 割り込みが多い | 夕方に書類が残る/集中できない | 連絡ルールを掲示し、折り返し時間帯を固定する |
| 調整が連続する | 予定が崩れて焦る/断れない | 代替案提示型の断り方を定型化する |
| 書類が重い | 修正の往復で疲弊/締切に追われる | 施設ごとの違いメモ+最終チェック順を固定する |
| 緊急連絡が不安 | 休みでも気が休まらない | 当番体制と一次受けを明文化し、引継ぎ表を作る |
当番と緊急連絡で消耗しないための境界線の作り方
緊急連絡のストレスは、「いつ鳴るかわからない」だけでなく、「鳴ったときに何をすべきか曖昧」なことから増えます。
次の3つが揃うだけで、精神的負担は大きく下がります。
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一次受けの定義:誰が受けて、どこまで判断し、誰へ回すか
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対応の期限:緊急以外は何分・何時間以内に折り返すか
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未完の見える化:引継ぎ時に「未完一覧」が共有されるか
未完一覧テンプレ(例)
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被験者A:次回来院日、確認事項、連絡先、注意点
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依頼者:期限、依頼内容、状況(対応中/確認待ち)
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院内:調整先、必要な合意、次アクション
これがあるだけで「休みの間に何か落ちたかも」という不安が減ります。
治験コーディネーターに向いている人の特徴
CRCは、医療知識だけで決まる仕事ではありません。
調整役として、関係者をつなぎ、手順を守り、被験者の安心を支える専門職です。日本臨床薬理学会もCRCを「調整役としての専門職」と説明し、認定CRC制度を設けています。
向いている人チェックリスト
当てはまるほど、CRCで消耗しにくい傾向があります。
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相手の立場を切り替えて考えられる(医師・依頼者・被験者・院内)
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予定変更が起きても、落としどころを作れる
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記録や抜け漏れ防止など、地味な積み上げができる
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ルールを作って運用するのが得意(仕組みに落としたい)
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感情的な場面でも、事実と手順に戻せる
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「全部を完璧に」より「優先順位」を選べる
目安の見方
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10項目中7以上:運用次第でかなり続けやすい
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10項目中4〜6:最初はきついが、ルール化で伸びる余地が大きい
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10項目中3以下:職場条件を厳選し、役割範囲を狭める工夫が必要
向いていないと感じたときの改善余地
「向いていない」は、性格の問題とは限りません。
次のような場合は、改善余地が大きい領域です。
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マルチタスクが苦手:
→ 時間帯で仕事を分け、割り込みをルールで減らす(連絡の入口整備) -
対人折衝が苦手:
→ 関係づくりより先に「手順」と「期限」で合意する(短文テンプレ) -
不安が強い:
→ 未完一覧と引継ぎで「落ちる不安」を減らす
逆に、改善しにくいのは「緊急対応が苦痛」「不確実性が極端に苦手」など、仕事内容の核にぶつかる場合です。その場合は、次章の判断軸で整理したほうが納得しやすくなります。
医療職経験が活きるポイント
医療職経験が活きるのは、知識だけではありません。
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患者さんの不安の受け止め方
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院内の空気感、依頼の通し方
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チーム医療での報連相
こうした「現場感」は、CRCの調整役にそのまま転用されます。
また、専門性の説明材料として、学会の認定制度を活用する選択肢もあります。日本臨床薬理学会は認定CRC制度を2003年に制定し、適正で円滑な臨床試験の実施に貢献できる人材を認定しています。
治験コーディネーターを辞めたいときの判断軸
ここは「退職推奨」ではなく、「自分を守りながらキャリアを壊さない」ための整理です。
CRCがきついのは、あなたが弱いからではなく、条件と運用が噛み合っていないことがよくあります。
いますぐ環境を変えるべきサイン
次に当てはまるなら、努力より先に環境変更を優先してください。
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休みの日も強い不安が続き、睡眠や食事が崩れている
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緊急連絡や重要タスクが個人に固定され、代替がない
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恒常的な時間外が前提で、回復できない
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相談しても改善が起きない(属人化が固定)
「頑張り方」を変えるより、体制を変えるほうが早い局面があります。
仕事内容は好きだが職場が合わないケース
このタイプは、キャリアを諦める必要がないことが多いです。
原因はだいたい次のどれかに集約されます。
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担当施設数・移動が多すぎる
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担当試験数や症例数が過大
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当番体制が不透明で境界線が引けない
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テンプレや分担が弱く、毎回ゼロから回している
この場合は、同職種内で職場を変えるだけで改善する余地があります。SMOはCRCの教育・フォローやバックアップ体制を業務として掲げていますので、「バックアップが実際に機能しているか」を確認するのが鍵です。
次の選択肢(院内CRC・SMO変更・周辺職種)
CRCの経験は、次の方向へつながります。
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SMO内で担当やエリアを変えて、移動や担当数を調整する
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院内CRCに移り、移動負担を下げる(兼務の有無は要確認)
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臨床試験領域の周辺職種へ(文書・運用・品質寄りの役割など)
大切なのは「辞める」より前に、「何がきついのか」を条件で言語化することです。言語化できると、転職軸がぶれません。
3問でわかる判断分岐
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体調(睡眠・食欲・気分)は崩れているか
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当番・緊急連絡の境界線は明確か
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担当数・移動・兼務は“数で説明できる”か
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1がYES:まず休養と支援、環境変更を優先
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2がNO:当番の明文化と一次受けの再設計が最優先
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3がNO:面接・上司面談で「数」を確認し、条件調整へ
治験コーディネーターのよくある質問
緊急対応はどれくらいある?
試験や施設、当番体制で差があります。ただ、JASMOの業務整理でも「緊急時の対応窓口」が挙がるため、ゼロ前提で考えるのは危険です。
面接や見学では、次を具体で確認してください。
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当番の頻度(週何回、月何回)
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一次受けは誰か(個人携帯か、組織の窓口か)
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夜間のエスカレーション先(医師、上長、コールセンター等)
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緊急の定義(何をもって緊急とするか)
未経験でも大丈夫?
未経験でも採用されるケースはあります。ただし、立ち上がりのきつさは「教育体制」で大きく変わります。
SMOの役割としてCRCの教育や業務フォロー、バックアップ体制が示されているため、実態として機能しているかが重要です。
確認したいのは次の4点です。
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同行期間はあるか
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教育担当は固定されるか
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テンプレやチェックリストは整備されているか
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困ったときの相談窓口があるか(個人依存になっていないか)
資格は必要?認定は取るべき?
必須資格として一律に求められるものではありませんが、学会の認定制度があります。日本臨床薬理学会は認定CRC制度を設け、適正で円滑な臨床試験の実施に貢献できる人材を認定しています。
取るべきかは、目的で考えると判断しやすいです。
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CRCとして専門性を説明したい:学習の指針として有効
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将来的に教育担当や品質寄りの役割を目指したい:説明材料として強い
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まずは現場に慣れたい:焦らず、基礎運用が固まってからでもよい
面接と見学で何を聞けば失敗しにくい?
「きついかどうか」は、精神論ではなく条件です。次の表を使って、数と体制を確認してください。
| 確認したいこと | 質問例 | 良い答えの特徴 | 注意サイン |
|---|---|---|---|
| 担当施設数 | 1人あたり何施設担当ですか | 平均や幅を数で説明できる | 「人による」「状況次第」だけ |
| 移動頻度 | 週の移動はどれくらいですか | 例示(週2回など)がある | 生活への影響が語られない |
| 担当試験と症例 | 試験数・症例数の目安は | ピークの目安も言える | 目安が出ない |
| 当番体制 | 夜間休日の一次受けは | 体制図がある/共有される | 個人携帯に集中 |
| 兼務 | 治験以外の業務は | 比率や内容が明確 | 「みんなやってる」 |
参考にした情報源
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日本SMO協会(JASMO)「CRCの主な業務」https://www.jasmo.org/recruit/job/index.html
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日本SMO協会(JASMO)「SMOの役割と主な業務」https://www.jasmo.org/business/outline/index.html
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日本臨床薬理学会「認定CRC制度」https://www.jscpt.jp/profession/crc
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PMDA「ICH-E6 GCP(医薬品の臨床試験の実施基準)」https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0028.html