業務中に突然「組織のデータをここに貼り付けることはできません。」というメッセージが表示され、作業が止まってしまった経験はありませんか。
急ぎの資料作成やお客様対応の最中であれば、驚きや焦りを感じるのは当然です。
しかし、このエラーは故障でも操作ミスでもなく、組織の機密情報を守るために設けられた“正しく機能しているセキュリティ仕組み”です。
本記事では、このメッセージが表示される理由と背景、一般ユーザーが今すぐ試せる安全な対処法、そして情シス・管理者が検討すべきポリシー設定や例外運用の考え方を体系的に整理いたします。
仕組みを正しく理解し、業務効率と情報セキュリティの両立を実現するための最適なアプローチを、わかりやすくご説明いたします。
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「組織のデータをここに貼り付けることはできません。」というメッセージは、業務を妨げる存在ではなく、組織の大切な情報を守るためのセーフティネットです。
一般ユーザーは、まず自身の操作が組織の管理範囲を逸脱していないかを見直し、可能な限り社内で許可されたツール内で作業を完結させる意識が重要です。
一方、情シスやセキュリティ担当者には、業務の現実とリスクを踏まえた柔軟なポリシー設計や、明確な説明・例外運用の整備が求められます。
本記事を通じて、エラーメッセージの背景と適切な対応を理解いただくことで、単なるトラブルとしてではなく、組織全体の情報管理体制を見直す契機としてご活用いただければ幸いです。組織の安全性と業務効率の両立は、適切な理解と運用によって確実に実現することができます。
『組織のデータをここに貼り付けることはできません』とは?まず知っておきたいポイント
このエラーメッセージの意味と位置づけ
「組織のデータをここに貼り付けることはできません。」というメッセージは、主に Microsoft 365 環境(Outlook、Teams、Office アプリ、Edge ブラウザなど)で、業務データを別のアプリケーションへコピー&ペーストしようとした際に表示される警告メッセージです。
ここでいう「組織のデータ」とは、会社や団体が業務のために管理しているメール本文、チャット内容、添付ファイル、SharePoint や OneDrive for Business 上のドキュメントなどを指します。これらは、情報漏洩や不正利用を防ぐために IT 部門やセキュリティ担当によって保護対象とされているデータです。
このエラーは単なる「貼り付け失敗」ではなく、「その貼り付け操作は、組織のセキュリティポリシー上許可されていません」という意味を持つシグナルであると理解することが重要です。
故障ではなく「データ保護機能」が働いているサイン
突然コピー&ペーストができなくなると、多くの方は「PC が壊れたのではないか」「アプリの不具合ではないか」と不安に感じますが、多くの場合、これは故障ではありません。
実際には、以下のようなセキュリティ機能が正常に動作している結果として、このメッセージが表示されています。
Microsoft Intune によるモバイルアプリ管理(MAM)・デバイス管理ポリシー
Microsoft Purview などのデータ損失防止(DLP)ポリシー
機密度ラベルや情報保護ラベルに基づくコピー制限 など
つまり、このエラーは「組織の重要な情報を守るため、システムが自動的にブレーキをかけている状態」です。安易に「制限を外す方法」を探すのではなく、なぜ制限されているのかを理解したうえで、安全な業務の進め方に切り替えることが大切です。
よく発生するアプリ例(Outlook・Teams・Edge・Office 365など)
このメッセージがよく表示されるケースの一例は、次のとおりです。
Outlook の業務メール本文を、個人用メモアプリ(メモ帳、個人用 Evernote 等)に貼り付けようとした
Teams のチャット内容を、個人用チャットアプリや SNS へコピーしようとした
SharePoint や OneDrive for Business 上のドキュメント内容を、外部 Web サービスの入力フォームに貼り付けようとした
業務用アプリから、個人クラウド、個人メール、外部 AI サービス(ChatGPT 等)へテキストをコピーしようとした
これらはいずれも、「組織が管理している範囲」から「組織が管理していない範囲」へ情報が出ていく操作にあたります。そのため、セキュリティポリシーによってコピー&ペーストがブロックされ、当該メッセージが表示されます。
主な原因|なぜコピペが制限されるのか
Microsoft Intune や DLP ポリシーによるアプリ間コピー制限
もっとも一般的な原因は、Microsoft Intune のアプリ保護ポリシーや、DLP(データ損失防止)ポリシーによるコピー&ペースト制限です。
組織はこれらの機能を利用し、次のようなルールを設定できます。
管理対象アプリ(Outlook、Teams、Office アプリなど)から
管理対象アプリへ:コピー&ペーストを許可
非管理アプリへ:コピー&ペーストを制限または禁止
この設定により、業務データが個人用アプリや安全性が担保されていないアプリに流出することを防止しています。「組織のデータをここに貼り付けることはできません。」というメッセージは、まさにこの制御が働いた結果です。
管理対象アプリと非管理アプリの違い
コピー制限を理解するうえで、「管理対象アプリ」と「非管理アプリ」の違いは非常に重要です。
管理対象アプリ:
組織が Intune や各種管理ツールを通じて、ポリシーや監査設定を適用できるアプリ
例:会社アカウントでサインインしている Outlook、Teams、Office アプリなど非管理アプリ:
組織の管理外にあるアプリ。個人アカウントのメールアプリ、個人用メモアプリ、SNS、一般的な Web サービスなどが該当します。
コピー&ペーストの可否は、概ね次のような組み合わせで決まります。
管理対象 → 管理対象:許可されることが多い
管理対象 → 非管理:制限または禁止されることが多い
したがって、「社内ツールから、個人ツールへコピーしようとしたとき」に、今回のエラーメッセージが出やすくなります。
バージョンの古さや一時的な不具合によるケース
一部のケースでは、以下のような技術的な要因により、意図しないタイミングでエラーが表示されることもあります。
Outlook や Teams、Office アプリのバージョンが古く、最新のポリシーに正しく対応できていない
OS やブラウザのバージョンが組織の推奨環境と異なり、挙動が不安定になっている
一時的な不具合により、クリップボード制御が正常に機能していない
このような場合は、アプリや OS を最新にアップデートしたり、端末を再起動したりすることで改善することがあります。ただし、それでも解消しない場合は、自己判断で制限を回避しようとせず、IT 部門に相談することが安全です。
一般ユーザー向け:今すぐ試せる安全な対処ステップ
ステップ1:業務を「管理対象アプリ間」で完結できないか確認する
最初に検討すべきは、「そもそも外部アプリにコピーしないで済む方法がないか」です。具体的には、以下の観点を確認します。
Outlook の内容は、転送や共有機能を利用して、社内の関係者と共有できないか
Teams 上で、必要な情報をまとめた投稿やファイルとして整理できないか
OneNote や社内指定のノートツールなど、組織が管理しているメモツールが用意されていないか
組織が意図しているのは、「業務データは管理と監査が可能な範囲で扱ってほしい」ということです。そのため、同じ Microsoft 365 内、または会社が正式に許可しているツールの中で業務を完結させる方法を、まず優先的に検討することが望ましいです。
ステップ2:Web 版や別クライアントでの操作を試す
管理対象アプリ間でもうまくいかない場合、同じポリシーの範囲内で「別クライアント」を試すことで解消するケースもあります。
Outlook デスクトップアプリで問題が出る場合、Outlook Web(ブラウザ版)に切り替えてみる
特定の PC だけで発生する場合、別の社用 PC や仮想デスクトップ環境から同じ操作を試す
組織推奨ブラウザ(例:Edge)と、非推奨ブラウザ(例:古い Chrome)の間で挙動が異ならないかを確認する
ただし、これらは組織ポリシーの枠内での利用にとどめる必要があります。「制限をすり抜けるために、あえて別の手段を探す」という発想は避けるべきです。
ステップ3:IT 部門・上長へ相談するときに伝えるべき情報
自分で対処しても解決しない場合は、早めに IT 部門や上長に相談することが重要です。その際、次の情報を整理して伝えると、原因特定と対応がスムーズになります。
発生したアプリ名・バージョン(例:Outlook デスクトップ、Teams モバイルなど)
コピー元と貼り付け先のアプリ(例:Outlook → 個人メモアプリ、Teams → 外部 Web サービス など)
実行した操作の手順と、表示されたエラーメッセージの内容(可能であればスクリーンショット)
業務上どのような支障が出ているのか(例:顧客報告書の作成が遅れている 等)
「どの程度業務に影響が出ているか」「代替手段はあるか」といった情報は、組織として例外対応やポリシー変更の要否を判断するうえでの重要な材料になります。
やってはいけないNG回避策とリスク
スクリーンショットや写真で持ち出す行為の危険性
コピー&ペーストができない場合、「画面をスクリーンショットで保存すればよい」と考える方もいますが、これは非常に危険な回避策です。
スクリーンショット画像が、私物スマホや個人クラウドに自動保存される
画像から簡単に文字起こしされ、第三者に転送されてしまう可能性がある
端末の紛失や乗っ取りにより、機密情報が外部に漏洩するリスクが高まる
多くの企業では、機密情報を含む画面の撮影や、私物端末への保存を規程で禁止しています。意図的にスクリーンショットで制限を回避する行為は、規程違反・懲戒対象となる可能性があるため、避けるべきです。
個人メール・個人クラウド・USB メモリへのコピー
次のような行為も、重大な情報漏洩リスクを伴うため、原則として禁止されていることが多いです。
業務メールや資料を、自分の Gmail や Yahoo!メールなどに転送する
仕事のファイルを、個人用の Google Drive や Dropbox などに保存する
USB メモリや外付け HDD にコピーして持ち出す
これらの方法では、アクセス制御やログ管理が組織側で行えません。共有設定の誤りやデバイス紛失・盗難などにより、第三者に情報が渡るリスクが高くなります。組織として明示的に許可されていない限り、こうした手段は避ける必要があります。
ChatGPT や外部 AI サービスへの安易な貼り付け
AI サービスを利用すると、要約・翻訳・文案作成などを効率的に行える一方で、機密情報や個人情報をそのまま貼り付けることは非常に危険です。
入力したテキストがどのように保存・利用されるかは、サービスやプランによって異なる
誤って顧客情報や契約内容など、秘匿すべき情報を送信してしまう可能性
組織として AI サービスの利用を禁止・制限している場合、規程違反となる可能性
AI ツールを業務で利用したい場合は、まず社内に AI 利用ガイドラインやルールが存在するかを確認し、それに従って利用することが必須です。
情シス・管理者向け:ポリシー設定と見直しのポイント
Intune アプリ保護ポリシーでのコピー&ペースト制御の考え方
IT 管理者の立場では、「とりあえず全部ブロックする」のではなく、業務継続性とセキュリティのバランスを考慮したポリシー設計が求められます。
コピー&ペーストを「許可」「管理対象アプリ間のみ許可」「完全ブロック」といった段階で設定する
部門・職種ごとに必要な柔軟性を整理し、グループ別にポリシーを分ける
テストユーザーを用いて、実際の業務フローに支障が出ないか検証する
ポリシー変更の際には、ユーザー向けに「なぜ変更するのか」「何が変わるのか」「どのようなメリットがあるのか」を分かりやすく伝えることが、現場の混乱防止につながります。
DLP ポリシーとラベル(機密度ラベル)による段階的な保護
すべてのデータを一律に厳しく制限すると、業務が回らなくなる可能性があります。そのため、「データの重要度に応じた段階的な保護」が有効です。
高機密データには、コピー禁止・外部共有禁止など強い制限を適用
一般的な業務文書には、コピーは許可しつつ、警告表示や理由入力を求めるレベルにとどめる
自動ラベル付与とユーザーによる手動ラベル付与を組み合わせ、運用を簡素化する
このように重要度に応じた制御を行うことで、リスクを抑えつつ現場の利便性とのバランスを取ることができます。
業務効率とのバランスをとるための例外運用・申請フロー
実務上、「特定のプロジェクトだけは一時的に制限を緩和したい」といった要望が出ることは避けられません。そのため、あらかじめ例外運用の枠組みを整備しておくことが重要です。
例外申請の窓口(専用フォームやチケットシステム)を用意する
申請内容として、目的、期間、対象ユーザー・データ、想定されるリスク、代替手段の有無などを記載してもらう
一時的な緩和と恒久的なポリシー変更を明確に区別し、それぞれに応じた承認フローを設計する
「一律禁止」ではなく、「原則は制限、必要に応じて管理された例外」という姿勢を取ることで、現場の協力を得やすくなります。
ケース別の発生例と対処法(比較表イメージ)
Outlook で発生する場合
主な発生例
業務メールの本文や添付資料の内容を、個人用メモアプリや外部 Web フォームへ貼り付けようとした
ユーザーができる対処
Outlook Web(ブラウザ版)や社内指定ツールで同じ作業が代替できないか確認する
メール転送機能で、社内の関係者に情報共有する
管理者の確認ポイント
対象ユーザーに適用されているアプリ保護ポリシーの内容
Outlook アプリと OS のバージョンが推奨環境かどうか
Teams/Office アプリで発生する場合
主な発生例
Teams チャット内容を、個人用 SNS や外部ツールにコピーしようとした
Excel や Word、PowerPoint の内容を非管理アプリに貼り付けようとした
ユーザーができる対処
Teams 内のチャンネル、ファイル共有機能で情報を整理・共有する
社内で承認されているコラボレーションツールを確認し、可能であればそちらを利用する
管理者の確認ポイント
Teams/Office 向けアプリ保護ポリシー、DLP ポリシーの設定状況
最近のポリシー変更やアプリ更新が影響していないか
ブラウザ(Edge/Chrome)やモバイル端末で発生する場合
主な発生例
Edge の業務用プロファイルから、個人用プロファイルで開いているサービスへコピーしようとした
モバイル版 Outlook から、個人用アプリにテキストを貼り付けようとした
ユーザーができる対処
組織推奨のブラウザやプロファイルを利用しているか確認する
モバイル端末での業務利用範囲(どのアプリ・どの操作まで許可されているか)を確認する
管理者の確認ポイント
MAM ポリシーやデバイスコンプライアンスポリシーの設定状況
ブラウザプロファイルやコンテナ機能の運用方針
トラブルシューティングチェックリスト
一般ユーザー向けチェックリスト
貼り付け先は、個人用アプリや社外サービスではありませんか?
同じ作業を、Outlook Web、Teams、OneNote など社内指定のツールで代替できませんか?
利用しているアプリや OS は、最新バージョンに更新されていますか?
端末の再起動や、別の社用端末で同じ操作を試しても同じエラーが出ますか?
IT 部門に相談するために、アプリ名・操作内容・エラーメッセージの画面を整理できていますか?
管理者向けチェックリスト
対象ユーザーにどの Intune アプリ保護ポリシー・DLP ポリシーが適用されているか把握していますか?
直近でポリシー変更やアプリ更新を行っており、その影響を検証済みですか?
ログや監査機能を通じて、該当時間帯にポリシーが発動した記録を確認しましたか?
ユーザーの業務影響と情報漏洩リスクを比較し、例外設定の必要性を検討しましたか?
例外を認める場合の条件(期間・対象・範囲)と、記録・レビュー方法を決めていますか?
よくある質問(FAQ)
一時的に制限を外してもらうことはできますか?
組織のポリシーによりますが、多くの場合、全ユーザーの制限を一律に外すことは行いません。しかし、業務上どうしても必要な場合には、期間・対象を限定した一時的な緩和や、代替手段の提供が検討されることがあります。
まずは、上長や IT 部門に対し、「なぜそのコピーが必要なのか」「代替手段は本当にないのか」を整理したうえで相談することが重要です。
このエラーが出ないように完全に無効化しても問題ありませんか?
原則として、完全な無効化は推奨されません。コピー&ペースト制限は、情報漏洩や誤送信など重大なインシデントを防ぐための重要なセーフティネットです。これを全て外してしまうと、組織全体のリスクが大幅に高まります。
もし現在の制限が厳しすぎると感じる場合は、「どの業務で、どのような不便が生じているか」を整理し、部分的な緩和や他の運用方法(承認制・限定的な例外など)を検討することが現実的なアプローチです。
在宅勤務や BYOD 環境ではどう考えればよいですか?
在宅勤務や BYOD(私物端末の業務利用)では、物理的な機器管理が難しい分、情報持ち出しリスクが高まります。そのため、コピー&ペースト制限やアプリ制御の重要性はむしろ増大します。
一般的には、次のような方針が取られます。
業務に利用してよいアプリやサービスを明確に指定し、それ以外へのコピーを制限する
業務用プロファイルやコンテナ機能を利用し、業務領域と個人領域を分離する
在宅勤務時の情報管理ルール(印刷、画面共有、録画等)を明文化し、定期的に周知する
在宅勤務や BYOD を前提とした環境では、「どこまでをユーザーの裁量とし、どこからをシステムで強制するのか」を組織として設計することが重要です。