「最近、息が苦しそう」「足のむくみが増えた」「会話が減ってぼんやりしている」――心不全の家族を見守っていると、こうした変化があるたびに胸が締め付けられるものです。「亡くなる前の症状なのでは」と不安になり、救急車を呼ぶべきか、朝まで様子を見るべきか、判断がつかなくなることもあります。
ただ、心不全は状態が良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあり、症状だけで「最期が近い」と断定するのは難しい病気です。だからこそ大切なのは、“予後を当てること”ではなく、いま起きている変化がどれくらい危険なのかを整理し、迷わず行動に移せるようにすることです。
本記事では、心不全で増えやすい症状を「息苦しさ」「むくみ・体重」「尿・食欲」「意識・冷え・脈」に分けて解説し、赤(今すぐ救急)・黄(当日連絡)・緑(数日以内に相談)の行動基準に落とし込みます。夜間でも慌てない連絡テンプレと、受診時に伝えるべきメモ項目までまとめています。読み終えたときに、「今やるべきこと」がはっきりする構成でお届けします。
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心不全で息苦しさが強くなるときに見られやすい変化
横になると苦しい 起き上がると楽になる
心不全では、心臓の働きが弱くなることで血液が滞りやすくなり、肺に水分がたまる(うっ血)ことで息苦しさが起きやすくなります。そこで出やすいのが、横になると苦しいが、座ると少し楽になるという変化です。NHSも、息切れは活動時だけでなく安静時にも起き、横になると悪化し、夜間に息苦しさで目が覚めることがあると説明しています。
家族が気づきやすいサインは次の通りです。
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枕の数が増えた、上体を起こして寝るようになった
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仰向けを避ける、ソファで座って眠る
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横になると咳が出る、呼吸が浅く速くなる
この段階は「赤」とは限りませんが、以前より明らかに増えているなら「黄(当日連絡)」に近づきます。
夜間に息苦しくて目が覚める 咳が増える
夜間に息苦しさで起きる、咳き込む、痰が増える――これらはうっ血が強まっているサインになり得ます。NHSが挙げる主要症状にも「夜間に息苦しさで目が覚める」が含まれます。
「黄」に該当しやすい具体例です。
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ここ数日で夜間の覚醒が増えた
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眠りに入ってしばらくすると咳が出る
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いつもより短い距離で息が上がる
夜間は判断が遅れやすいため、連絡先と赤黄緑の表を手元に置くだけでも、迷いを減らせます。
安静にしていても息が苦しい 会話が途切れる
安静でも息が苦しい、会話が途切れる、呼吸が追いつかない――この状態は「赤」に近い可能性があります。Mayo Clinicは心不全の症状として、活動時や横になった時の息切れに加え、咳(白やピンクの痰)、腹部の腫れ、急速な体重増加、注意力低下などを挙げています。
次が重なるときは、赤(救急)を強く意識してください。
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息苦しさが突然強くなった
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口唇や顔色が明らかに悪い、冷汗がある
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意識がぼんやりして会話が成立しにくい
心不全のむくみと体重増加が示すサイン
足のむくみは左右対称になりやすく 指で押すとへこむことがある
心不全で水分がたまると、足やすねのむくみが出やすくなります。日本心臓財団は、心不全によるむくみ(浮腫)は、すねや足の甲を指で押すとへこみが残る「圧痕性浮腫」が見られることがある、と説明しています。
家族が観察しやすいポイントです。
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靴下の跡が深く残る
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靴やズボンがきつくなった
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夕方に悪化しやすい(ただし個人差あり)
体重は悪化の早期発見に役立つ 目安は短期間の増加
むくみと並んで重要なのが体重です。日本心臓財団は、体全体の水分量が増えることで体重が2〜3kg以上増えることがあり、夜間の尿量増加や夜間呼吸困難につながることもあると説明しています。
また、AHAは心不全が悪化すると体液貯留で体重が増えるため、体重の変化を重要なサインとして扱っています。
ここでの大原則は次の通りです。
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主治医から「あなたの場合の基準」が出ているなら、それが最優先
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基準がない場合は、短期間での増加を「黄」と捉え、早めに連絡する
家庭での測り方のコツです。
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可能なら、毎日同じ条件(起床後・排尿後など)で測る
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記録は「体重だけ」で終わらせず、息苦しさ・むくみ・尿・食欲も一緒に短くメモする
むくみが増えたのに体重が増えていないときの注意点
むくみ=必ず体重増加、とは限りません。食事量が落ちている、筋肉量が減っている、脱水と体液貯留が混在しているなど、在宅では判断が難しいことがあります。こうした「判断の難しさ」こそ、黄の段階で医療者に共有する価値があります。
医療者に伝えると役立つ言い方は次です。
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「体重は変わらないが、靴下の跡が深くなり、夕方のむくみが目立つ」
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「食欲が落ちているのに、息苦しさとむくみが増えた」
心不全の尿量低下と食欲低下 お腹の張りが示す変化
尿量が減るときは体液貯留や腎機能の影響が隠れていることがある
心不全が悪化すると腎臓への血流が低下し、尿が減ることがあります。家庭では正確な尿量測定が難しいため、次の“気づき”が重要です。
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トイレ回数が明らかに減った
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日中の尿が少なく、むくみが増えている
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いつもより水分を摂っていないのに体重が増えている
この組み合わせは、黄(当日連絡)に該当しやすいです。
食欲が落ちる 吐き気がある お腹が張る
Mayo Clinicは心不全の症状として、吐き気や食欲低下、腹部の腫れを挙げています。
食欲低下は「年のせい」と見過ごされがちですが、心不全のうっ血や消化管への血流低下が影響することもあります。
家族ができるのは、原因の断定ではなく「変化の記録」と「早めの共有」です。
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いつから食べられないか
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どの程度(半分、数口だけ等)
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息苦しさ・むくみ・尿の変化が同時にあるか
これらは医療者の判断材料になります。
夜間にトイレが増える場合もメモする
心不全では夜間尿が増えることがあります(体位変化で水分が戻る等)。日本心臓財団も、体液増加に伴い夜間尿量増加が起こることがある旨を説明しています。
「減った」「増えた」どちらにせよ、いつもと違う方向への変化は悪化の手がかりになり得るため、短く記録しておくと役立ちます。
心不全で意識がぼんやりする だるさが強い 冷えるときに疑うこと
反応が鈍い 眠ってばかり 集中できない
心不全が進むと、体が酸素や血流不足に傾き、注意力の低下や反応の鈍さが見られることがあります。Mayo Clinicも「注意力低下・覚醒度低下」を症状として挙げています。
「赤」になりやすいのは、次のような急な変化です。
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呼びかけても反応が乏しい、会話が成り立たない
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いつもと違う混乱が強い(急に分からなくなる)
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転倒や失神があった
急変かどうかは在宅では見極めが難しいため、迷ったら赤寄りで動くことが安全です。
手足が冷たい めまい ふらつきが増える
NHSは心不全の症状として、息切れやむくみに加え「ふらつき・失神」を挙げています。
手足の冷え、立ちくらみ、ふらつきは、低灌流のサインになり得ます。
黄の段階で医療者へ伝えるべきポイントは次です。
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いつから増えたか
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立ち上がり時だけか、座っていてもあるか
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息苦しさ・むくみ・食欲低下と同時か
脈が不規則 動悸が強い 胸の痛みがあるとき
心不全では不整脈が絡むことがあります。Mayo Clinicも症状として「速い・不規則な心拍」「胸部症状を伴う呼吸苦」などを挙げています。
胸痛や失神、強い動悸がある場合は赤に近づきます。
家庭でできる対応の基本は次です。
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本人を安全な姿勢にし、転倒を防ぐ
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既往(心不全・不整脈)と今の症状を短く整理し、救急・医療者へ伝える
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自己判断で薬を増減しない(指示を受ける)
心不全の終末期に多い苦痛と緩和ケアを早めに考える意味
末期心不全で多いのは呼吸困難 倦怠感 疼痛など
「亡くなる前の症状」という文脈で多くの方が想像するのは、終末期に近い段階のつらさです。厚生労働省の資料では、末期心不全における主要な身体症状として呼吸困難、全身倦怠感、疼痛などが示されています。
また、緩和ケアの提供体制に関する厚労省資料でも、慢性心不全患者の苦痛として呼吸困難、倦怠感、疼痛、不安、抑うつ、吐気・食欲低下、睡眠障害などが整理されています。
大切なのは、これらが「がんだけの話」ではなく、心不全でも起こり得るという事実を知り、苦痛を我慢させないことです。
緩和ケアは治療をやめることではなく つらさを軽くする支援
循環器領域でも緩和ケアの重要性は整理されており、日本循環器学会/日本心不全学会の提言として公表されています。
緩和ケアは「終末期だけ」「延命を諦めたら」という誤解が根強いのですが、実際には、息苦しさ・不安・だるさ・睡眠障害などのつらさを軽くし、治療や生活を続けやすくするためにも役立ちます。
家族としての現実的な一歩は次の通りです。
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「いま一番つらい症状は何か」を本人に確認する(短くでよい)
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その症状が増えたときの連絡先・連絡方法を主治医・訪問看護と共有する
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夜間の対応方針(救急搬送の希望、在宅での見守り方)を家族内で言語化する
ACPとDNARの話し合いを「状態が落ち着いている時期」に始める
心不全は急変があり得るため、状態が落ち着いているときに、本人の希望を少しずつ確認することが重要です。ここでいう希望には、次が含まれます。
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どこで過ごしたいか(入院/在宅/施設)
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苦しくなったときの優先順位(苦痛緩和/延命治療/両立)
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どの段階で救急車を呼ぶか、誰が判断するか
「一回で決め切る」必要はありません。メモで残し、状況が変われば更新する方が現実的です。
心不全で救急車を呼ぶべき赤信号と受診の目安
赤 今すぐ119または救急外来を優先する状態
次に当てはまる場合、迷ったら赤として動くことが安全です(地域事情や既往で例外はありますが、判断を先延ばしにしないことが最重要です)。
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安静でも呼吸がつらく、会話ができない(息を吸えない・息が続かない)
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横になれないほどの呼吸困難が急に悪化した
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意識がもうろう、呼びかけへの反応が極端に悪い、失神した
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強い胸痛が続く、冷汗・顔面蒼白を伴う
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ピンク色の痰・泡状の痰を伴う咳が出る(重症の呼吸状態の可能性)
補足として、NHSは心不全の主要症状に「横になると悪化」「夜間に息苦しくて目が覚める」「失神」を挙げています。これらが急に強まる場合は赤寄りの判断が必要です。
黄 当日〜翌日に医療者へ連絡して指示を受ける状態
救急ほどではないが、悪化の兆候として放置しない方がよい状態です。
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横になると苦しく、枕の数が増えた/座って眠ることが増えた
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夜間に息苦しさで目が覚める回数が増えた
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むくみが明らかに増え、体重が短期間で増加した
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尿が減り、食欲が落ち、活動量が急に下がった
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動悸や脈の乱れが増え、めまいやふらつきが出てきた
黄の段階で重要なのは、「症状がある」よりも「いつから、どれくらい増えたか」です。連絡時には、次のテンプレを活用してください。
夜間でも迷わないための連絡テンプレ(家族用)
そのまま読める形で用意しておくと、焦りが減ります。
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「心不全で通院中の(氏名・年齢)です。今日(○時)から、
①息苦しさ:横になれない/安静でも苦しい(該当を選ぶ)
②体重:○日で+○kg(測れなければ不明)
③むくみ:靴下の跡が深い/指で押すとへこむ
④尿:いつもより少ない/夜間が増えた
⑤意識:ぼんやり/反応が遅い
があります。救急受診が必要か、今夜の対応を指示ください。」
施設の場合は、「施設名・担当者名」「バイタルがあれば数値」「転倒の有無」も追加すると伝わりやすいです。
心不全を見守るときに家族ができる観察チェックリスト
毎日チェック(可能な範囲で十分)
全部を完璧にやる必要はありません。「できる範囲で続けられる形」が最も強いです。
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体重(可能なら毎日同条件)
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足のむくみ(靴下跡、指で押して戻り)
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呼吸(横になれるか、夜間の息苦しさ、咳や痰)
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尿(回数・量の印象、いつもとの違い)
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食事(食欲、吐き気、飲水量)
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意識(会話の反応、集中、眠気の増加)
変化が出た日のメモ(受診が早くなる)
医療者が判断しやすいメモの型です。
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いつから:○月○日夜から
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何が:息苦しさ、むくみ、食欲、尿、意識
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どれくらい:枕が1→3、体重+2kg、歩ける距離が半分
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併発:胸痛、失神、転倒の有無
症状別の緊急度表(赤黄緑で統一)
赤黄緑の目安を表で一気に確認する
| 症状(例) | 緊急度 | まずすること |
|---|---|---|
| 安静でも呼吸がつらい/会話ができない | 赤 | 119または救急外来。既往と内服情報を準備 |
| 意識がもうろう/失神/強い胸痛+冷汗 | 赤 | 119。転倒や外傷の有無も伝える |
| 横になると苦しい(枕が増えた)/夜間に息苦しくて目が覚める | 黄 | 当日〜翌日に医療者へ連絡し指示を受ける |
| むくみ増+短期間の体重増加 | 黄 | 体重・尿・呼吸をメモして連絡。個別基準があればそれを優先 |
| 食欲低下・吐き気・腹部膨満が続く | 黄〜緑 | 数日以内に受診相談。息苦しさ等が同時なら黄寄り |
| 以前より疲れやすい、歩ける距離が少し落ちた(急変なし) | 緑 | 数日以内に相談し、記録を続ける(悪化が早ければ黄へ) |
在宅や施設で看取る可能性があるときの準備(後悔を減らす段取り)
連絡先と受診セットを「一つにまとめる」
夜間の急変では、探し物が判断を遅らせます。次を一か所にまとめてください。
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保険証、診察券、薬剤情報(お薬手帳)
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既往歴メモ(心不全、腎機能、不整脈など)
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主治医、訪問看護、施設の夜間連絡先
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本人の希望メモ(救急搬送の希望、延命の希望など)
家族内で決めておくべき「役割」
急変時に揉めないために、役割を先に決めておきます。
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連絡する人(電話担当)
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本人に付き添う人(安全確保担当)
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受診セットを持つ人(持ち物担当)
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遠方家族へ共有する人(連絡網担当)
緩和ケア・支援を使う目安(相談のきっかけ)
厚労省資料でも、末期心不全では呼吸困難や倦怠感などの苦痛が多いことが示されています。
次に当てはまるなら、緩和ケアの相談価値があります。
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息苦しさや不安が強く、生活が回らない
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入退院を繰り返し、家庭の負担が増えている
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本人が「怖い」「眠れない」と訴えることが増えた
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家族の疲労・不眠・不安が限界に近い
相談は「諦め」ではなく、生活と治療を続けるための手段です。循環器領域でも緩和ケアの重要性が提言としてまとめられています。
参考にした情報源
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日本循環器学会/日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(PDF)」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf -
日本循環器学会/日本心不全学会「2021年改訂版 循環器疾患における緩和ケアについての提言(PDF)」
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Anzai.pdf -
日本心臓財団「心不全の初期サイン-早期発見のために-」
https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/09/ -
日本心臓財団「心不全とは、こんな病気です」
https://www.jhf.or.jp/topics/2021/008150/ -
厚生労働省資料「循環器疾患患者の身体的苦痛とその対応について(PDF)」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000191987.pdf -
厚生労働省資料「循環器疾患における緩和ケアの提供体制について(PDF)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001568363.pdf -
NHS「Heart failure – Symptoms」
https://www.nhs.uk/conditions/heart-failure/symptoms/ -
American Heart Association「Heart Failure Signs and Symptoms」
https://www.heart.org/en/health-topics/heart-failure/warning-signs-of-heart-failure -
American Heart Association「Managing Heart Failure Symptoms」
https://www.heart.org/en/health-topics/heart-failure/warning-signs-of-heart-failure/managing-heart-failure-symptoms -
Mayo Clinic「Heart failure – Symptoms and causes」
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/heart-failure/symptoms-causes/syc-20373142