Oculus Goはすでにサポートを終えた旧世代デバイス──それでも、「手持ちのGoでSteamVRを遊べないか?」と一度は考えた方は多いのではないでしょうか。
新品のヘッドセットを買わずに、いまある環境を最大限に活かしたい。その気持ちはごく自然なものです。
結論から言えば、Oculus GoでSteam/SteamVRを利用することは“一定の範囲で可能”です。
ただし、その実現にはいくつかの条件・制約・注意点が存在します。本記事では、ALVRやiVRyなどのツールを使った接続方法から、快適に使うためのコツ、さらにはOculus Goの限界や買い替え判断の基準まで、必要な情報をまとめて整理いたしました。
Oculus GoとSteam/SteamVRの関係を整理する
Oculus Goの特徴と現在のサポート状況
Oculus Goは、2018年に発売された3DoF(首の回転のみトラッキング)対応のスタンドアロンVRヘッドセットです。片手用コントローラー1本で手軽にVR体験ができることから、入門機として広く普及しました。
しかしMeta(旧Facebook)は、Oculus Goの販売終了とプラットフォームの終息方針を発表し、新規アプリの受け入れやアップデート配信を段階的に停止しました。その結果、現在は事実上サポート終了済みの旧世代機という位置付けになっています。
このため、Oculus Goは「今も使うことはできるが、今後のアップデートや公式サポートは期待できないデバイス」と理解しておく必要があります。
SteamVR・PCVRとは何か
SteamはPC向けゲーム配信プラットフォームであり、その中でVRコンテンツの基盤となっているのが「SteamVR」です。SteamVR対応のヘッドセットを接続することで、PC上のVRゲームやアプリをプレイできます。
一般的なPCVR(PC接続型VR)では、次のような構成が標準的です。
ゲーミングPC(専用GPU搭載・Windows環境)
6DoFトラッキング対応のVRヘッドセット
両手分のモーションコントローラー
一方、Oculus Goは3DoFかつ片手コントローラーのみのため、SteamVR本来の想定環境とは大きく条件が異なります。そのギャップを、ALVRやiVRyといったストリーミングソフトで「どこまで埋められるか」が、本記事の主題になります。
2025年時点でOculus Goに期待できる現実的な用途
サポート終了・3DoF・片手コントローラーという条件を踏まえると、2025年時点でOculus Go+Steam/SteamVRに期待できる「現実的な用途」は次のようになります。
比較的現実的な用途
レースゲームやフライトシムなど、一部PCVRタイトルをストリーミングで遊ぶ(視線+ゲームパッド操作)
Steam上の非VRゲームやPCデスクトップを、大画面スクリーンとして表示してプレイ/閲覧する
動画視聴やバーチャルシアター用途で利用する
現実的とは言い難い/推奨しにくい用途
両手トラッキングを前提とした本格VRアクションゲームのプレイ
高い反応速度と精密な操作が求められるリズムゲームやシューティングを「本気で」遊ぶこと
以降の章では、「できること」と「厳しいこと」を分けたうえで、導入手順や注意点を解説いたします。
準備編:Oculus Go+SteamVRに必要な環境チェック
必要なPCスペックとネットワーク要件
Oculus Go側はすでに手元にある前提として、ボトルネックになりやすいのはPCとネットワーク環境です。ALVRやiVRyのようなストリーミングソフトは、PCでレンダリングしたVR映像をリアルタイムでエンコードし、Wi-Fi経由でOculus Goへ送信します。そのためPC性能と回線品質が非常に重要です。
PCスペックの目安(あくまで参考)
OS:Windows 10 / 11 64bit
CPU:Intel Core i5 / AMD Ryzen 5 クラス以上
GPU:NVIDIA GTX 1060 以上(ハードウェアエンコード対応GPU推奨)
メモリ:16GB以上推奨
ネットワーク要件
5GHz帯に対応したWi-Fiルーター(IEEE 802.11ac以上を目安)
可能であればPCはルーターに有線LAN接続
Oculus Goとルーターの距離を近くし、壁などの障害物を減らす
これらの条件を満たせない場合、接続自体はできても「遅延が大きい」「カクカクして酔いやすい」といった問題が起こりやすくなります。
Oculus Goの開発者モードとSideQuest準備
Oculus GoにALVRクライアントなどのアプリをサイドロードするには、開発者モードを有効にしてUSBデバッグを許可する必要があります。一般的な手順は次のとおりです。
スマートフォンにMeta Questアプリをインストールし、Oculus Goとペアリングする
Metaの開発者アカウントを作成し、「組織」を登録する
Questアプリ上でOculus Goの「開発者モード」をオンにする
PCにSideQuestをインストールする
Oculus GoをUSBケーブルでPCに接続し、ヘッドセット内の「USBデバッグを許可」を承認する
ここまで完了してはじめて、ALVRクライアントのAPKをインストールできるようになります。
SteamとSteamVRのインストールと初期設定
続いて、PC側でSteamとSteamVRをインストールします。
Steam公式サイトからSteamクライアントをダウンロード・インストール
アカウントを作成し、ログイン
「ライブラリ」→「ツール」から「SteamVR」を選択してインストール
一度SteamVRを起動し、初回セットアップ(ルームスケール設定など)を完了させる
ここまで準備ができていれば、あとはOculus GoとSteamVRの間を橋渡しするソフト(ALVRやiVRy)を導入するフェーズに進みます。
方法1:ALVRでOculus GoからSteamVRを利用する手順
Oculus Goに対応したALVRバージョンの選び方と入手
ALVRは、PC上のSteamVR映像をWi-Fi経由でスタンドアロンHMDへストリーミングするためのオープンソースソフトウェアです。もともとGear VRやOculus Goをターゲットとして開発された歴史があり、その後Quest対応などへと発展してきました。
ただし、最新のALVRはOculus Goを正式にはサポートしていないため、Oculus Goで利用する場合は、過去バージョン(Oculus Go対応が残っている版)を利用する必要があります。代表的には、かつての公開ビルド(例:v2系など)が対象になります。
必要になるファイルは大きく分けて次の2種類です。
PC側:ALVR Server(Windows向け実行ファイル)
Oculus Go側:ALVR Client(APKファイル。SideQuestからインストール)
ダウンロード元が公式GitHubリポジトリなど信頼できる配布元であることを必ず確認し、自己責任で利用してください。
PC側ALVRサーバーのセットアップ
PC側のALVRサーバーでは、主にネットワークと画質に関する設定を行います。基本的な流れは次のとおりです。
ダウンロードしたALVRサーバーを任意のフォルダーに展開し、実行ファイルを起動する
使用するネットワークインターフェース(LANアダプタ)を確認する
解像度・ビットレート・フレームレートなどを「低め」に設定する(初回は安全側)
SteamVRを起動し、待機状態にしておく
ストリーミング負荷が高すぎると、遅延やフレーム落ちが発生します。最初は画質よりも安定性を優先し、問題なければ少しずつ数値を上げていく運用が現実的です。
Oculus GoへのALVRクライアント導入と接続手順
Oculus Go側には、SideQuestを利用してALVRクライアントAPKをインストールします。
Oculus GoをUSBケーブルでPCに接続する
SideQuestを起動し、「APKインストール」ボタンからALVRクライアントAPKを選択
インストール完了後、USBケーブルを抜く
Oculus Goを装着し、ライブラリの中からALVRアプリを起動
PC側ALVRサーバー画面に、Oculus Goがクライアントとして表示されることを確認
サーバー側で「接続」ボタンを押し、必要に応じてSteamVRを起動
接続がうまくいくと、Oculus Goの画面にSteamVRホーム、もしくは起動中のVRゲームの映像が表示されるようになります。
接続できない・カクつくときのチェックポイント
ALVR利用時によくあるトラブルと確認ポイントを整理します。
Oculus Goがサーバーに表示されない場合
開発者モードが有効になっているか
USBデバッグを許可しているか
PCとOculus Goが同一ルーター配下(同じネットワーク)に接続されているか
接続はできるが、カクつき・音ズレがひどい場合
2.4GHzではなく5GHz帯Wi-Fiを利用しているか
ルーターとの距離が遠すぎないか、壁などの障害物が多くないか
ALVR側の解像度・ビットレート・フレームレート設定を下げているか
一部ゲームでまともに操作できない場合
そのゲームが6DoF前提かつ両手コントローラー必須のタイトルではないか
ゲームパッド対応や座位プレイ向けタイトルかどうかを確認しているか
これらを一通り試しても改善しない場合、「Oculus Goでそのタイトルを快適に遊ぶのは難しい」と割り切ったほうが良いケースもあります。
方法2:iVRyやVirtual DesktopでSteamの画面を映す
iVRyでSteamVRタイトルをストリーミングする
iVRyは、SteamVR用の有償ドライバ/アプリで、スマホや一部スタンドアロンヘッドセットをPC向けVRヘッドセットとして扱えるようにするソフトウェアです。Oculus GoやGear VR向けのサポートも用意されており、USB接続・Wi-Fi接続の両方に対応します。
基本的な利用の流れは以下のとおりです。
Steamストアで「iVRy Driver for SteamVR」を購入し、インストールする
Oculus Go側に対応アプリをインストールする(配布方法は時期によって変わるため、公式案内に従う)
PCでiVRyを起動し、Oculus Goとの接続モード(USBまたはWi-Fi)を選択する
接続が確立したら、SteamVRを起動し、対応ゲームをプレイする
ALVRに比べて有償である分、UIや自動調整機能が整っている場合が多く、「設定にあまり時間をかけたくない」方には選択肢となりえます。
Virtual Desktop・Bigscreenで非VRゲームや動画を楽しむ
「VRゲームをガッツリ遊ぶ」というより、「PCの画面を大きなスクリーンとして見たい」「動画視聴を快適にしたい」という目的であれば、Virtual DesktopやBigscreenといったデスクトップ共有系アプリが適しています。
Virtual Desktop
PCのデスクトップ画面をVR空間の中に巨大なスクリーンとして表示するアプリです。非VRゲーム・ブラウジング・作業画面など、幅広い用途に使えます。Bigscreen
同様にデスクトップ画面を表示できるほか、複数人で同じスクリーンを共有して映画鑑賞や雑談ができることが特徴です。
この種のアプリは「座って画面を見る」スタイルが前提であり、3DoFのOculus Goとも比較的相性が良いです。PCVRゲームが主目的でないのであれば、こうした用途に限定して使うのは現実的な選択肢です。
有料アプリ・ドライバを選ぶ際の判断ポイント
有料のiVRyやVirtual Desktopなどを購入する前に、次の点を検討してください。
今後どのくらいの期間、Oculus Goを使い続ける予定か
すでにQuest 2/3などの現行HMDを持っていないか、近い将来に購入する予定がないか
主な目的が「PCVRゲーム」なのか「大画面視聴」なのか
将来的にQuestシリーズに乗り換える可能性が高い場合、Quest側でも活用できるアプリを優先して購入したほうが、投資効率は高くなりやすいです。
Oculus Goで遊びやすいコンテンツと避けたいタイトル
3DoFでも比較的快適に遊べるジャンル
Oculus Go+Steam/SteamVR環境でも、工夫すれば比較的快適に遊べるジャンルがあります。
座位前提のレースゲーム(コクピット固定・ゲームパッド操作が中心のタイトル)
フライトシミュレータなど、視点は動くが身体の位置は固定されているゲーム
非VRタイトルを大画面スクリーンとして表示してプレイするRPG・シミュレーション・ストラテジー系
動画視聴・映画鑑賞・バーチャルシアター用途
これらは「頭の向きだけである程度対応できる」「手の位置トラッキングがそこまで重要でない」ため、3DoFのOculus Goでも違和感が比較的少なく済みます。
避けたほうがよいVRゲームの特徴
逆に、Oculus Goではどうしても厳しいタイトルには共通した特徴があります。
6DoFトラッキングと両手コントローラーが前提のアクションゲーム
俊敏な回避やエイムが求められるシューティング、リズムゲーム
競技性が高く、一瞬の遅延が大きく影響する対戦タイトル
このようなゲームをOculus Goでプレイしようとすると、トラッキングの制限とストリーミング遅延が重なり、「酔いやすい」「当てにくい」「思ったように動かせない」といったストレスが大きくなりがちです。
快適性を高める画質・設定とプレイ環境の工夫
少しでも快適に遊ぶためには、次のような工夫が有効です。
ストリーミング設定(解像度・ビットレート・フレームレート)を最初は控えめにし、安定を確認してから段階的に上げる
ルーターの近くでプレイし、5GHz帯Wi-Fiを利用する
プレイ時間をこまめに区切り、酔いや疲労を感じたらすぐに休憩する
ゲーム内のモーション設定で、「テレポート移動」「スナップターン」「視野のマスク(ブラー)」など酔い軽減オプションを活用する
「無理をしない」「不快感を感じたらすぐにやめる」という姿勢が、VRを長く楽しむうえで非常に重要です。
サポート終了後にOculus Goを使うリスクと注意点
サポート終了が意味すること(セキュリティ・故障リスク)
サポートが終了したデバイスを使い続ける場合、次のようなリスクがあることを理解しておく必要があります。
システムソフトウェアの更新やセキュリティパッチが提供されない
将来的なアプリやサービス側の仕様変更に追随できず、徐々に連携が不安定になる可能性
故障時に公式修理やサポートが受けられない、もしくは非常に限定される
このため、Oculus Goの利用は「最新で安全な環境」というより、「リスクを理解したうえで自己責任で楽しむ」スタイルになります。
長時間利用における健康・安全面の注意
Oculus Goに限らず、VR機器は使い方を誤ると体調不良の原因になり得ます。次の点にご注意ください。
1時間に1回程度は必ず休憩し、ヘッドセットを外して目と首を休める
首・肩・腰への負担を減らすため、姿勢をこまめに調整する
子どもが利用する場合は、利用時間やコンテンツを保護者がしっかり管理する
めまい・吐き気・頭痛などの不調を感じた場合は、直ちに利用を中止する
ストリーミングPCVRでは遅延由来の違和感も加わり、酔いが強く出やすい傾向があるため、特に慎重な運用が必要です。
安全に楽しむための自己防衛策
サポート終了後のOculus Goを安全に楽しむために、次のような自己防衛策をおすすめいたします。
Oculus Goで重要なアカウント情報や決済情報を扱わない
出所不明のAPKやツールはインストールしない
利用しているWi-FiルーターやPCのOSは、可能なかぎり最新の状態に保つ
不審な挙動やトラブルが増えた場合は、深追いしすぎず、必要であれば利用を中断する
2025年にOculus Goを使うべきか?代替機との比較と結論
Quest 2/3など現行機との違いとメリット・デメリット
Quest 2やQuest 3など、現行のスタンドアロンVRヘッドセットと比較すると、Oculus Goは明確に世代が古いデバイスです。主な違いは次のとおりです。
トラッキング方式
Oculus Go:3DoF(頭の回転のみ)
Questシリーズ:6DoF(位置+回転)
コントローラー
Oculus Go:片手用コントローラー1本
Questシリーズ:両手用モーションコントローラー2本
サポート状況
Oculus Go:販売・サポート終了
Questシリーズ:現役製品としてアップデート・新作アプリが継続提供
一方で、Oculus Goには「すでに手元にある場合は追加コストがかからない」「本体が比較的軽くシンプル」といった利点もあり、「とりあえずVRっぽいことを試したい」「動画視聴用に使いたい」という限定的用途では、まだ一定の価値があると言えます。
すでにOculus Goを持っている人へのおすすめ方針
すでにOculus Goを所有している方に対しては、次のような方針をおすすめいたします。
PCVRゲームを本格的に楽しみたい場合
→ Oculus Goは「お試し用」と割り切り、将来的にはQuest 2/3など6DoF対応機の導入を検討する動画視聴や簡易的な大画面用途がメインの場合
→ Virtual DesktopやBigscreenなどを活用しつつ、無理のない範囲で使い続けるレースゲームなど一部タイトルをどうしてもGoで試したい場合
→ 本記事で紹介したALVR・iVRyの手順を参考にしつつ、接続トラブルや酔いがひどい場合は「無理をしない」ことを優先する
トラブルシューティングに多くの時間を費やすくらいであれば、その時間と労力を「新しいHMDの導入」に回した方が、長期的には満足度が高くなるケースも多いです。
これからPCVRを始めたい人への現実的な選択肢
まだVRヘッドセットを持っておらず、「これからPCVRを始めたい」という方には、2025年時点でOculus Goを新たに入手することは基本的におすすめできません。
すでにサポート終了済みであること
3DoF・片手コントローラーというハードウェア制約
接続・設定の手間に対して得られる体験が限定的であること
これらを踏まえると、次のような選択がより現実的です。
予算を抑えつつPCVRを楽しみたい → Quest 2などの現行HMDを中古・セールで検討する
スタンドアロンVRとPCVRの両方を視野に入れたい → Quest 2/3+対応PCの組み合わせを中心に検討する
まずはライトにVRを体験したい → Questシリーズ単体でスタンドアロンVRから始め、必要に応じて後からPCVRに拡張する