NST(ノンストレステスト)を受けたあと、「このギザギザの線は大丈夫なのかな?」「心拍数の数字が高い気がする…」と不安になったことはありませんか。
モニター用紙には、胎児心拍数やお腹の張りに関する大事な情報がたくさん詰まっていますが、説明を聞く時間は限られており、自宅に帰ってから心配になる方も少なくありません。
本記事では、NSTモニターの「上の線・下の線は何を意味しているのか」「どのあたりを見ればおおよその状態が分かるのか」を、妊婦さん向けにやさしく整理します。
あくまで自己判断のためではなく、「結果を理解して、必要なときにきちんと相談できるようになる」ことを目的としたガイドとしてご活用ください。
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NST(ノンストレステスト)とは?検査の目的と基本
NSTでわかること
NST(ノンストレステスト)は、陣痛がない状態で赤ちゃんの心拍数と、お母さんのお腹の張り(子宮収縮)を連続して記録する検査です。
NSTを行うことで、次のようなことがわかります。
赤ちゃんの心拍数が、妊娠週数に対しておおむね適切な範囲にあるか
赤ちゃんが動いたときに、心拍数がちゃんと上がるか(元気な反応があるか)
お腹の張りがどのくらいの強さ・頻度で起きているか
陣痛や早産につながるような強い子宮収縮がないか
NSTは、赤ちゃんが「元気かどうか」をチェックするためのスクリーニング検査であり、元気な赤ちゃんを見逃さないことが目的です。
いつ・どんなときにNSTをするのか
一般的には、以下のような場面でNSTが行われることが多いです。
妊娠後期(おおよそ妊娠36〜37週以降)の妊婦健診
予定日を過ぎた妊婦健診
妊娠高血圧症候群や糖尿病、胎児発育不全など、ハイリスク妊娠のフォロー
破水したあとや、出産前の陣痛室での分娩監視
「胎動が少ない気がする」「張りが多い気がする」など、心配な症状があるとき
どのタイミングでNSTを行うかは、妊婦さんの状態や病院の方針によって異なりますので、具体的なスケジュールは担当の医師・助産師の指示に従ってください。
検査の流れと所要時間・痛みの有無
NSTは、基本的に次のような流れで進みます。
ベッドやリクライニングチェアに横になる
お腹に2つの丸いセンサーをベルトで固定する
1つは胎児心拍数を拾うセンサー
もう1つはお腹の張り(子宮収縮)を感知するセンサー
検査時間はおおよそ20〜40分(状況によって前後)
適宜、胎動があったらボタンを押す機械を渡されることもある
痛みは基本的になく、赤ちゃんに害のない安全な検査とされています。ただし、同じ姿勢で横になることがつらい、ベルトが苦しい、と感じる方もいらっしゃいます。その場合は遠慮なくスタッフに声をかけてください。
NSTモニター(グラフ)の基本構造
上の波形:胎児心拍数(赤ちゃんのドキドキ)
NSTモニター(または記録紙)を見ると、上の段にギザギザした線が描かれています。これが胎児心拍数(赤ちゃんの心拍の速さ)を示すグラフです。ほとんどの機器では、縦軸が心拍数(bpm=1分間の拍動数)になっています。
下の波形:子宮収縮(お腹の張り)
下の段に描かれている波形が、お腹の張り(子宮収縮)です。波形が山のように高くなるほど、張り(収縮)の強さが大きい状態を表します。ときどき、モニターの数字の欄に「40」などの値が表示される機器もあり、これが張りの強さの目安として用いられます。
横軸(時間)と縦軸(数値)の意味
横軸:時間の経過
記録紙の場合、1cmで1分など、紙の送り速度によっておおよその時間がわかるようになっています。
縦軸(上段):胎児心拍数(bpm)
縦軸(下段):子宮収縮の強さ(機器ごとの相対的な数値)
胎児心拍数の「正常パターン」の見方
ここからは、妊婦さんご自身がNST用紙を見ながら、あくまで「ざっくり」確認できるポイントをお伝えします。最終的な判定は必ず医師・助産師が行いますので、「当てはまらない=すぐ異常」ということではない点にご注意ください。
基線(平均的な心拍数)の目安
NSTの記録を10分ほど眺めたときに、「だいたいこのあたりを中心に上下しているな」というラインを基線(きせん)と呼びます。多くの資料で、胎児心拍数の基線がおおよそ110〜160bpmの範囲にあるとき、正常とされています。
これより高い場合:頻脈(ひんみゃく)
これより低い場合:徐脈(じょみゃく)
と呼ばれ、医師が注意して観察するポイントになります。
ギザギザした細かな揺れ(基線細変動)を見るポイント
基線のまわりにある小さなギザギザを、基線細変動(きせんさいへんどう)と呼びます。
ギザギザがある程度しっかり出ている → 赤ちゃんが元気に活動しているサインとして評価されやすい
ほとんどギザギザがなく、線がべたっと平ら → 赤ちゃんが寝ている時間帯であることもあれば、場合によっては注意が必要なこともある
医学的には、基線細変動の幅(bpm)で細かく分類されますが、妊婦さんの目線では、
「多少ギザギザしているかどうか」「全体的にまったく揺れていない時間が長く続いていないか」
といった点をざっくり見ておけば十分です。
胎動に合わせて出る山(一過性頻脈)と元気なサイン
赤ちゃんがゴソゴソと動いたり、ドンと蹴ったりすると、そのあとに心拍数が一時的にグッと高くなることがあります。これを一過性頻脈(いっかせいひんみゃく)と呼び、赤ちゃんが元気に反応しているサインの1つとされています。
胎動ボタンを押したタイミングの少しあとに、上段の波形で山ができている
こうした山が検査中にいくつか確認できる
といったパターンは、多くの場合「安心材料」として評価されます。
「ちょっと心配かも?」と感じやすいパターンと実際
ここでは、妊婦さんがNST用紙を見て「え、大丈夫?」と感じやすいポイントと、実際にはどう解釈されることが多いかを整理します。
心拍数が高め・低めに見えるとき
一時的に心拍数が高くなる(160bpmを超える)
胎動に伴う一過性の心拍数上昇であれば、多くの場合は元気なサインです。
心拍数が全体的に高め(高基線)・低め(低基線)で続いている
赤ちゃんの状態や母体の体調(発熱、脱水など)によって変わることがあります。
NSTだけで判断せず、医師がエコーや血液検査など他の情報と合わせて評価します。
「紙を見た感じ高そう/低そう」という印象だけで不安になりすぎず、必ず医師からの説明を聞いてください。
ギザギザが少ない・線が平らに見えるとき
基線細変動が少なく、線が平らに見えるとき、妊婦さんの多くが「赤ちゃんが弱っているのでは?」と心配されます。
しかし実際には、
検査中に赤ちゃんが眠っている
一時的に活動性が低い時間帯にあたっている
といった生理的な理由で、ギザギザが少なくなる場合も少なくありません。
そのため、こうした所見が見られた場合でも、医師は以下のような対応をとることがあります。
少し時間を延長して様子を見る
赤ちゃんを軽く刺激する検査(VASなど)を行う
必要に応じて別の日に再検査をする
検査中に赤ちゃんが寝ている場合
NSTは20〜40分程度の比較的短い検査のため、その間だけたまたま赤ちゃんが眠っていることもあります。この場合、胎動が少なく、心拍数の変動も小さく見えることがあります。
医師・助産師は、そのような可能性も含めて結果を解釈しますので、
「一度NSTで引っかかった=必ず危険」
と考えず、説明をよく聞くことが大切です。
医師が追加で行うことが多い対応の例
NSTの結果が少し気になる場合、医師は次のような追加評価を行うことがあります。
超音波検査(エコー)で赤ちゃんの動きや血流を確認する
妊婦健診の頻度を一時的に増やす
入院のうえ、NSTを頻回に行って経過を見る
状況によっては陣痛誘発や帝王切開などの方針を検討する
これらは「赤ちゃんとお母さんを安全に守るため」の対応ですので、方針に不安がある場合は、その場で遠慮なく質問してください。
お腹の張り(子宮収縮)の数値・波形の見方
張りの山の高さと「40」などの数値の意味
下段の波形は、お腹の張り(子宮収縮)を表しています。波形が高くなるほど、張りが強い状態を示します。機器によっては、張りの強さの目安として「40」などの数値が画面に表示されます。
小さな山が時々ある → 軽い張りが時々起きている状態
高い山が周期的に繰り返される → 陣痛に近い収縮の可能性
ただし、この数値はあくまで「その機械の中での相対的な強さ」の目安であり、数字だけを見て「○○なら危険」と単純に判断できるものではありません。必ず痛みの強さや子宮口の開き具合など、その他の情報と合わせて判断されます。
陣痛に近い張りと、よくある前駆陣痛の違い
NST中に、次のような場合には「陣痛が始まっているかもしれない」と評価されることがあります。
強い張りが、一定の間隔(例えば5〜10分おき)で規則的に続いている
張りのたびに痛みがどんどん強くなっている
子宮口の開きが進んでいる
一方で、
張りの間隔がバラバラ
張りの強さもまちまち
痛みがそこまで強くない
といった場合は、いわゆる前駆陣痛(本格的な陣痛の前段階)として経過観察になることも多いです。
張りの間隔と、早産が心配なときの目安
妊娠37週未満で張りが頻繁な場合や、強い張りと痛みが繰り返す場合には、早産のリスクを確認する目的でNSTが行われることがあります。
次のような場合は、自己判断せず、すぐに産科に連絡してください。
妊娠37週未満で、10分に1回以上の強い張りが続いている
出血や破水を伴う張りがある
張りとともに胎動が急に少なくなった
NST結果が心配になったときの考え方と医師への聞き方
NSTは「元気な赤ちゃんを見逃さない」ための検査であるという前提
胎児心拍数モニタリング(NSTなど)は、偽陰性(本当は問題があるのに正常と判断してしまうこと)を極力少なくすることが重視されています。
そのため、
少しでも気になる所見があれば「追加で様子を見ましょう」と言われる
再検査や入院・誘発分娩などの対応がとられることがある
という性質があります。これは「過剰に心配している」のではなく、赤ちゃんとお母さんを守るための安全側の判断と考えていただくと良いでしょう。
すぐに確認してほしい症状・サイン
NSTの結果にかかわらず、次のような症状があるときは、自己判断せず産科に連絡してください。
胎動が明らかに少ない、全く感じない
規則的で強いお腹の張りと痛みが続く
破水した、または破水かもしれない水が出た
真っ赤な出血が続いている
強い頭痛や目のチカチカ、急なむくみ、激しい上腹部痛など(妊娠高血圧症候群などが心配な症状)
これらはNSTモニターの見方とは別に、緊急性の有無を判断する大切なサインです。
受診時に医師・助産師に聞いてよい質問例
NST結果に不安があるときは、次のような質問をメモしておくと安心です。
「今日のNSTの結果は、赤ちゃんの元気さという点でどう評価されますか?」
「心拍数や張りのグラフで、気になる点はありましたか?」
「再検査や入院が必要になるとしたら、どのような状況のときですか?」
「もし今後、家でこのような症状が出たら、すぐに連絡した方がよいですか?」
遠慮せずに質問していただいて構いません。理解が不十分なまま帰宅すると、後からインターネットで調べて不安が増すことも多いため、その場で聞いて納得して帰ることがとても大切です。
看護学生・新人助産師向け:NST・CTG判読の超基本(コラム)
判読の5つの要素(基線・細変動・一過性頻脈・一過性徐脈・子宮収縮)
医療者向けの基礎としては、CTG判読の際に以下の5項目を順に確認することが推奨されています。
胎児心拍数基線
基線細変動
一過性頻脈
一過性徐脈(早発・遅発・可変など)
子宮収縮
新人のうちは、「何を、どの順番で見るか」をルーチンとして身体にしみこませることが重要です。
モニター装着のコツと、よくあるピットフォール
CTGモニターの装着に関しては、次の点がよく指摘されています。
胎児心音をしっかり拾える位置を、手指の感覚で探る(母体の血管音などを拾わないように)
センサーがずれやすい体位では、途中で感度が落ちることがあるため注意する
妊婦さんの負担が少ない楽な体位を心がける
装着不良によるアーチファクトを「異常波形」と誤認しないよう、波形と実際の状況(胎動・母体の体位変換など)をリンクさせて記録する習慣が大切です。