有料のMicrosoft Officeから、無料のLibreOfficeに切り替えられたら――そう考えたことはありませんか。
ライセンス費用を抑えられる一方で、互換性やマクロ、レイアウト崩れなど、見落としがちなデメリットも確かに存在します。
本記事では、LibreOfficeの代表的な弱点と注意点を「仕事で本当に使えるか」という視点から整理し、どんな場面なら問題なく使え、どんな場面ではMicrosoft Officeを選ぶべきかを具体的に解説します。
導入前に押さえておくべきリスクと、その賢い付き合い方を確認していきましょう。
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LibreOfficeには、
互換性・レイアウト崩れ
マクロ・高度機能の非対応
UIの違いによる使いにくさ
パフォーマンス・安定性の課題
サポート・クラウド連携の弱さ
といったデメリットが存在します。一方で、
無料で利用できる
オープンソースでベンダーロックインから自由
基本的な文書・表計算・プレゼンには十分対応
という大きなメリットもあります。
重要なのは、「自分(自社)の利用シーンではどのデメリットがどれくらい問題になるのか」を冷静に評価することです。
LibreOfficeとは?概要と前提知識
LibreOfficeの基本機能と特徴
LibreOfficeは、The Document Foundationが開発・提供している無料のオープンソースオフィススイートです。Writer(文書作成)、Calc(表計算)、Impress(プレゼンテーション)、Draw(図形描画)、Base(データベース)、Math(数式エディタ)といったアプリケーション群を含み、Microsoft Officeと同様の用途を一通りカバーできます。
標準のファイル形式はOpenDocument Format(ODF)ですが、Word/Excel/PowerPointで利用されるdocx/xlsx/pptx形式の読み書きにも対応しており、Microsoft Officeとの互換性を意識して設計されています。
また、ライセンス費用が不要で、商用利用も可能な点が大きな特徴です。ライセンス管理やサブスクリプション更新の手間が発生しないため、個人や小規模事業者にとって魅力的な選択肢といえます。
無料・オープンソースゆえのメリットと前提条件
LibreOfficeは無料である一方で、次のような前提条件も理解しておく必要があります。
利用や改変は自由だが、商用ソフトのような手厚い個別サポートは基本的に存在しない
開発はコミュニティベースであり、バージョンによって安定度に差がある(「新機能重視」と「安定重視」の系統が用意されている)
Microsoft Officeと「完全に同じ動き」を保証するものではなく、互換性には限界がある
こうした前提が、後述する「デメリット」の背景にもなっています。
LibreOfficeの主なデメリット概要
なぜ「LibreOfficeはやめたほうがいい」と言われるのか
検索結果を眺めると、「LibreOfficeは危険」「やめたほうがいい」といった強い表現も見られます。内容を整理すると、多くは次のポイントに集約されます。
Microsoft Officeとの互換性が完全ではなく、フォントやレイアウトが崩れることがある
VBAマクロや一部の高度なExcel機能が動作しない
UIが古く、Microsoft OfficeのリボンUIに慣れた人には「使いにくい」と感じられやすい
大きなファイルや複雑なシートで動作が重くなったりフリーズしたりすることがある
サポート体制やクラウド連携がMicrosoft 365ほど整っていない
これらは確かにデメリットとなり得ますが、すべてのユーザーに同じ重みで当てはまるわけではありません。
デメリットはすべての人に当てはまるわけではない
たとえば、
「簡単な文書や家計簿程度しか使わない個人ユーザー」
「社外とのファイルやり取りが少なく、マクロも使わない小規模事業」
であれば、多くのデメリットは問題にならない可能性があります。一方で、
「マクロを多用した経理システムをExcelで運用している企業」
「取引先とWord/Excelファイルを頻繁にやり取りする業務」
では、後述する互換性やマクロの問題が致命的になる場合があります。
以下では、代表的なデメリットごとに詳しく見ていきます。
デメリット1:Microsoft Officeとの互換性・レイアウト崩れ
フォント・レイアウトが崩れやすい典型パターン
LibreOfficeはMicrosoft Office形式のファイル(docx/xlsx/pptxなど)の読み書きに対応していますが、互換性はあくまで「高いが完全ではない」というレベルです。
典型的に崩れやすいのは、次のようなケースです。
Windows標準以外のフォント(Office付属フォントなど)を多用している
文字数や行間をギリギリで調整した帳票・契約書・見積書
セル結合が多い表や凝ったレイアウトのプレゼン資料
図形・画像・テキストボックスを複雑に組み合わせている
フォントが置き換わったり、行数や改ページ位置が変わったりすることで、見積金額の位置がずれる・ページ数が変わるといった問題が起こり得ます。業務で使う場合には、信用問題にも直結し得る点です。
見積書・契約書など重要書類でのリスク
特に注意が必要なのは、次のような書類です。
見積書・請求書・納品書
契約書・覚書
人事評価シート・査定表
顧客への提案資料(見積金額や条件が明記されているもの)
LibreOfficeで編集したファイルを、そのままOfficeユーザーに渡した場合、相手側の環境で表示が崩れてしまう可能性があります。金額や条件の位置が変わると、「どこが正式な記載か」がわかりづらくなり、トラブルの原因になりかねません。
互換性リスクを減らすための具体的な対策
互換性リスクをゼロにすることはできませんが、次のような運用で影響を小さくすることは可能です。
重要書類は最終的にPDFで渡す
レイアウトを固定し、相手側のOffice環境に依存しないようにします。
共通フォントに揃える
Windows標準フォントなど、相手も持っている可能性が高いフォントを使用します。
複雑なレイアウトを避けるテンプレートを整備する
セル結合や凝った段組を減らし、多少の互換性差分でも崩れにくいフォーマットにします。
社外とのファイル交換では「開発元Officeでの最終チェック」を行う
どうしてもOffice形式で渡す必要がある場合は、最終チェックだけMicrosoft Officeで行う運用も選択肢です。
デメリット2:マクロ・高度なExcel機能の非対応
VBAマクロが動かない理由と代替手段
LibreOffice Calcはマクロ機能を持っていますが、Microsoft ExcelのVBAとは別物です。VBAコードをそのままLibreOfficeに読み込んでも、原則として動作しません。
LibreOfficeにはLibreOffice Basicなどのマクロ言語があり、同様の処理を実装すること自体は可能ですが、
VBAからの書き換えコスト
開発・保守を担う人材の確保
といった課題が現実的な障壁となります。
複雑な関数・ピボットなどで起こりやすい不具合
マクロを使っていない場合でも、次のような高度なExcel機能は、LibreOfficeでは期待どおりに動作しないことがあります。
かなり複雑な関数(配列数式・新しめの関数など)
ピボットテーブルの高度な設定
外部データ接続・Power Query/Power Pivot等に依存したシート
「普通の関数+基本的な集計」レベルであれば大きな問題にならないケースも多いですが、基幹業務レベルのExcelシートをそのままLibreOfficeに移行するのは極めてリスクが高いと考えるべきです。
マクロを多用する業務でLibreOfficeを選ぶべきでないケース
以下のような環境では、LibreOffice単独での置き換えはおすすめできません。
社内の重要業務が、VBAマクロ付きExcelファイルで回っている
外部ベンダーが提供するExcelマクロシートをそのまま利用している
Power Query/Pivotなど、Microsoft独自の機能に強く依存している
この場合は、
基幹業務はMicrosoft Officeを継続利用
それ以外の簡易な文書・表計算のみLibreOfficeに切り替える
といった「併用・使い分け」の発想が現実的です。
デメリット3:UIの違いと「使いにくい」と感じるポイント
リボンUIに慣れたユーザーがつまずきやすい点
LibreOfficeは、従来型の「メニュー+ツールバー」ベースのUIを採用しており、Microsoft OfficeのリボンUIに慣れたユーザーからは「どこに何があるのかわかりづらい」「ごちゃごちゃしている」と感じられることがあります。
特に、
これまで最新版のOfficeしか使ったことがない若手ユーザー
ショートカットよりもアイコン操作に頼るユーザー
は、最初の違和感が大きくなりがちです。
カスタマイズである程度解消できるポイント
一方で、LibreOfficeのUIはカスタマイズ性が高く、ツールバーの表示・非表示や配置変更、ショートカットの割り当てなどを柔軟に設定できます。
よく使う機能だけをツールバーに集約する
不要なアイコンを非表示にしてシンプルにする
ショートカットキーを積極的に使う
といった工夫により、「慣れればむしろ効率的」と評価するユーザーも存在します。初期の学習コストは必要ですが、長期利用を前提とするなら検討する価値があります。
習熟コストを見込むべきユーザー像
次のような場合は、「初期の研修・慣れ」のコストをあらかじめ想定しておくべきです。
組織全体でLibreOfficeに切り替える
非IT系の部署が中心で、Office操作に自信のないメンバーが多い
これまで独自マニュアルや研修でMicrosoft Office操作を標準化していた
UI差分による生産性低下を避けるためには、短いレクチャー資料やショートカット一覧を用意しておくと安心です。
デメリット4:動作の重さ・安定性・パフォーマンス
大容量ファイルや大量データで発生しやすい問題
ユーザーの口コミやレビューを見ると、「大きなファイルを開くと重い」「大量データを扱うとフリーズする」といった声も一定数あります。特に、画像が多いプレゼン資料や、数十万行規模のスプレッドシートなどでパフォーマンス低下が起こりやすいとされています。
ただし、これはLibreOfficeに限らず、他のOffice互換ソフト全般に見られる傾向でもあります。
PCスペックとバージョンによる影響
パフォーマンスや安定性は、次の要因にも影響されます。
利用しているPCのCPU・メモリ・ストレージ性能
インストールしているLibreOfficeのバージョン(古いバージョンのまま使っていないか)
OSとの相性やグラフィックドライバの状態
最新版では互換性・パフォーマンスの改善が継続的に行われているため、「昔使ったときに重かった」という印象だけで判断せず、現行バージョンで改めて検証してみる価値はあります。
業務で使う前に行うべき検証方法
業務利用を検討している場合、次のような検証を事前に行うことをおすすめします。
実際の業務ファイル(特に大きなもの)をLibreOfficeで開いて操作感を確認する
1〜2週間程度、限られたメンバーで試験運用し、フリーズや不具合の頻度を記録する
問題が出た場合の切り戻し方法(Microsoft Office側で開き直す等)を決めておく
デメリット5:サポート体制・クラウド連携の弱さ
Microsoft 365と比較したときのサポートの違い
Microsoft 365では、公式のサポート窓口(電話・チャット等)が用意されており、トラブル時に問い合わせが可能です。一方、LibreOfficeはコミュニティベースのオープンソースプロジェクトであるため、基本的にはフォーラムやFAQ、ユーザーコミュニティなどを自力で調べて解決するスタイルになります。
ITリテラシーが高い担当者がいる組織では問題になりにくい一方で、PC操作に不慣れなユーザーが多い環境では、この点が大きなハードルになることがあります。
共同編集・オンライン連携での制約
Microsoft 365と比べると、次のような点でも差があります。
OneDriveやSharePointを前提としたリアルタイム共同編集との親和性
Teamsなど他クラウドサービスとの統合度
「どの環境でも同じOfficeが動く」ことを前提とした社外との共同作業のしやすさ
LibreOffice単体でもオンライン版やコラボレーション機能は存在しますが、Microsoft 365と比べるとエコシステム全体の成熟度や導入のしやすさで差があるのが現状です。
チーム・企業利用で想定すべき運用ルール
企業やチームでLibreOfficeを導入する場合は、少なくとも次のようなルールを検討しておくと安全です。
「社外とのファイルやり取りにLibreOfficeファイルを直接使うかどうか」の方針
「トラブル時に誰が対応するのか」(情シス・外部ITパートナーなど)の役割分担
バージョンアップポリシー(全社一斉か、部署ごとに段階的か)
LibreOfficeは危険?セキュリティ面での誤解と現実
「危険」「ウイルス」と言われる背景
検索すると「LibreOfficeは危険」「ウイルスが心配」といったキーワードも見られますが、多くの場合は次のような不安の混同によるものです。暮らし術+1
正規サイト以外からのダウンロードに対する不安
Office互換ソフトにおけるマクロ実行時のマルウェアリスク
無料=怪しいという漠然としたイメージ
実際のセキュリティリスクとその対処法
LibreOffice自体はオープンソースであり、多くの開発者・コミュニティによってコードが監査されています。正規サイトからダウンロードし、適切に更新している限り、「ソフトそのものが危険」という評価は妥当ではありません。
現実的なリスクと対処法は、次のとおりです。
非公式サイトからのダウンロード
対処:必ず公式サイト(libreoffice.org)から入手する
マクロ付きファイルの取り扱い
対処:不審な差出人からのファイルは開かない、不要なマクロは無効化する
古いバージョンを使い続けることによる脆弱性
対処:定期的にアップデートし、サポートの切れた旧版を使い続けない
これらはMicrosoft Officeを含む他のソフトウェアにも共通する一般的なセキュリティ対策です。
安全に使うためのダウンロード・更新のポイント
LibreOffice公式サイトから最新版または安定版(Still系)をダウンロードする
OSのアップデートと同様に、LibreOfficeも定期的に更新する
セキュリティソフトやOSの標準保護機能も併用し、怪しいファイルは開かない
ユーザータイプ別:LibreOfficeが向いている人・向いていない人
個人ユーザー・フリーランスにとっての向き・不向き
向いているケース
Word/Excelをたまに使う程度で、複雑なマクロや高度な機能は不要
主に自分用の文書・表計算・簡単なプレゼンに使う
コストをできるだけ抑えたい
注意が必要なケース
クライアントからWord/Excel形式でテンプレートが支給され、それをそのまま編集して返却する必要がある
取引先が「Office形式でそのまま編集可能なファイル」を強く求めている
このような場合は、LibreOfficeでの編集結果をPDFで納品する運用や、一部のみMicrosoft Officeを併用する運用を検討すると安全です。
小規模事業・中小企業での導入可否の判断軸
企業としてLibreOffice導入を検討する場合、次の観点で判断すると整理しやすくなります。
マクロ依存度:基幹業務がVBAマクロに依存していないか
社外とのファイル交換頻度:顧客・仕入先とOfficeファイルを頻繁にやり取りしていないか
ITサポート体制:トラブル時に対応できる担当者や外部パートナーがいるか
上記のいずれかで「依存度が高い」「体制がない」場合は、LibreOfficeへの全面移行ではなく、部署や用途を限定した部分導入から始めるのが現実的です。
情シス・IT担当が押さえるべき検討ポイント
互換性の検証:代表的な業務ファイルをLibreOfficeで検証し、問題の有無を洗い出す
ガイドライン整備:
どの業務はLibreOffice可
どの業務はMicrosoft Office必須
といった区分を作成する
教育・マニュアル:UI差分や操作の違いをまとめた簡易マニュアルを用意する
LibreOfficeを上手に使うための運用ポイント
Microsoft Officeとの併用パターン(使い分け)の例
LibreOfficeのデメリットを踏まえると、「すべてLibreOfficeに統一する」だけが選択肢ではありません。代表的な使い分けの例は次のとおりです。
パターンA:重要書類のみMicrosoft Office、それ以外はLibreOffice
見積書・契約書・マクロ付きシートはMicrosoft Office
社内メモ・議事録・簡単な表・簡易資料はLibreOffice
パターンB:特定部署のみMicrosoft Office
経理・営業企画など、マクロや高度機能を多用する部署のみMicrosoft Office
その他の部署はLibreOfficeを基本とする
こうした併用パターンを取ることで、ライセンス費用を抑えつつ、致命的な互換性問題を避けることができます。
社内ルール・テンプレートの整備で減らせるトラブル
LibreOfficeでも崩れにくいテンプレート(フォント・レイアウトをシンプルにしたもの)を用意する
「社外提出用は必ずPDF化する」といったルールを作る
ファイル名や保存形式(ODFかOffice形式か)に関する命名ルールを統一する
こうした運用ルールだけでも、現場のトラブルは大きく減らせます。
まずは無料で安全に試すためのステップ
公式サイトからLibreOfficeをインストールする
自分(自社)の代表的なファイルをいくつか開いて試す
問題なければ、1〜2週間の試験運用をしてみる
課題が見つかったら、「どこまでLibreOfficeで対応し、どこからMicrosoft Officeを使うか」を決める