夜の住宅街で突然「ギャー!」という悲鳴のような声が響き、思わず「何この鳴き声、気持ち悪い…」と不安になった方も多いのではないでしょうか。
ニュースやSNSで話題になる小さなシカ「キョン」も、その見た目や鳴き声から「気持ち悪い」「不気味」と語られることが少なくありません。
本記事では、そうした素直な違和感を出発点に、キョンとはどのような動物なのか、なぜ「気持ち悪い」と感じられやすいのか、人や暮らしにどのような影響があるのかを整理して解説いたします。
あわせて、もし身近でキョンを見かけたり鳴き声を聞いたりした場合に、どのように行動すればよいかのポイントもお伝えいたします。
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キョンとはどんな動物か
中国南部や台湾原産の小型のシカで、日本では房総半島や伊豆大島などで野生化し、特定外来生物に指定されています。
「気持ち悪い」と感じられる主な理由
目の下の眼下腺が「もう一つの目」のように見えること
オスの牙が目立つ独特の顔つき
人の悲鳴のようにも聞こえる警戒声
人との付き合い方の基本
近づかない・追いかけない・餌を与えない
被害や不安がある場合は、自治体の窓口に相談する
法律や地域のルールに従い、自己判断で捕獲・移動させない
キョンとは?まずは基本情報をやさしく整理
キョンの大きさ・見た目・生息地の概要
キョンは、シカ科に属する小型の哺乳類で、学名を Muntiacus reevesi といいます。体長はおおよそ70〜80cm、肩までの高さは40〜50cmほどで、中型犬と同じくらいのサイズです。体重も10kg前後と、一般的なニホンジカよりかなり小柄です。
体の色は茶褐色で、お腹側はやや明るい色をしています。頭の上には黒い筋が走り、オスには短い角と、上あごの犬歯が伸びて外から見える「牙」があります。目の下には黒っぽい三角形のような部分があり、これが「目が4つある」「顔が怖い」といった印象を与える一因になっています。
本来の生息地は中国南部や台湾ですが、日本では千葉県房総半島や伊豆大島などで野生化しており、生息数の増加と生息域の拡大が大きな課題となっています。
なぜ日本で増えたのか?外来種になった経緯
日本にいるキョンは、もともと観賞用・展示用として動物園や観光施設に持ち込まれた個体が、台風や施設の老朽化などをきっかけに逃げ出し、そのまま野生化して増えたと考えられています。
キョンは
生後半年〜1年程度で繁殖可能になる
1回の出産は1頭ですが、通年で繁殖できる
といった特徴があり、天敵が少ない島や半島の環境では急速に個体数を増やしてきました。
このような経緯から、キョンは外来生物法に基づく「特定外来生物」に指定されており、無許可での飼育や移動、放逐などが原則禁止されています。
なぜキョンは「気持ち悪い」と感じられるのか
目の下の「もう一つの目」?臭腺(眼下腺)の正体
キョンの画像を見ると、多くの方がまず気になるのが「目の下に小さな目があるように見える」部分ではないでしょうか。ここには「眼下腺(がんかせん)」と呼ばれる臭腺があり、においのついた分泌液を出して、木や地面にこすりつけることで縄張りや状態を周囲に伝えています。
この眼下腺は、
黒っぽいくぼみのように見える
開いたり閉じたりする様子が、まるで「瞬きしている目」のように見える
といった見た目の特徴があり、写真や動画だけを見ると「顔が怖い」「気持ち悪い」と感じる人が多いポイントです。
しかし、生態学的には、これはキョンにとって重要なコミュニケーション手段であり、「においの名刺」のような役割を果たしています。人間から見ると不気味に見えても、キョン自身にとってはごく自然な行動だと理解すると、少し印象が変わってくるかもしれません。
オスの牙や表情が不気味に見える理由
オスのキョンには、上あごの犬歯が発達して外にのぞく「牙」があります。シカの仲間では、ニホンジカのように大きな角を武器にする種類もいれば、キョンのように牙が目立つ種類もいます。
この牙は、
オス同士の争い
繁殖期のメスをめぐる競争
などの場面で役立つと考えられており、常に人間を攻撃するためのものではありません。ただ、正面からの写真で牙だけが強調されると、どうしても「怖い」「凶暴そう」といった印象を持たれやすくなります。
鳴き声が「人の悲鳴みたいで怖い」と言われる背景
キョンが「気持ち悪い」と言われるもう一つの大きな理由が、その鳴き声です。危険を感じたときなどに発する警戒声は、人間の悲鳴や、犬の吠え声に似た鋭い音で、「ギャー!」「ワンッ!」と聞こえることがあります。
住宅街で突然この声が響くと、正体が分からないまま
「誰かが叫んでいるのでは?」
「夜中にずっと鳴いていて不気味」
と強い不安を感じるのは自然な反応です。ニュースやSNSでも、「夜の住宅街で不気味な鳴き声を上げるキョン」がたびたび取り上げられ、怖いイメージが拡散されてきました。
ただし、この鳴き声もキョンにとっては、仲間への合図や危険を知らせるためのコミュニケーション手段であり、「人を驚かせるため」に鳴いているわけではありません。
キョンは危険?人への影響と注意すべきポイント
人を襲うことはある?攻撃性と距離感
一般的に、キョンは自ら進んで人を襲うような動物ではなく、臆病で、危険を感じると素早く逃げることが多いとされています。
ただし、以下のような状況では、思わぬ怪我につながる可能性があります。
近距離まで追い詰められた・逃げ場がない
子どもやペットが興味本位で近づきすぎた
繁殖期のオスが興奮しているとき
牙や蹄(ひづめ)で蹴られると危険ですので、「野生動物には近づかない」「追いかけない」という基本を守ることが重要です。
農作物・庭木・生態系への被害
キョンが問題視されている一番の理由は、人への直接的な攻撃ではなく、農作物や生態系への影響です。
畑の野菜や果樹、庭の花壇を食べる
山林の下草や若木を食べ、森林の更新を妨げる
絶滅危惧植物を含む草本類を好んで食べるケースも報告されている
など、農林業や自然環境への被害が各地で指摘されています。
こうした被害が大きくなっていることから、行政による捕獲・防除が行われており、地域によってはフェンスや罠などの対策も進められています。ただし、これらの具体的な実施は専門の許可・技術が必要であり、一般の方が独自に真似をするべきものではありません。
外来種としての位置付けと法律のポイント
キョンは、外来生物法に基づく「特定外来生物」に指定されており、原則として以下のような行為が規制されています。
無許可での飼養・保管
無許可で他地域へ運搬すること
野外への放逐(逃がすこと)
また、野生のキョンを捕獲する行為も、鳥獣保護管理法や自治体条例の規制対象となる場合があります。地域や状況によってルールが異なるため、「捕まえて別の場所に放す」「ペットにしたい」といった自己判断は決して行わず、必ず自治体に相談することが大切です。
キョンと出会ったときの対処法ガイド
自宅周辺で見かけたときにやるべきこと
自宅の庭や近所の道でキョンを見かけた場合、基本的な行動は次のとおりです。
行動チェックリスト
近づかず、一定の距離を保つ
驚かせるような大きな音や追いかける行動をしない
ペット(犬など)はリードを短く持ち、静かにその場を離れる
継続的に出没する場合は、自治体の環境・鳥獣担当窓口の情報を確認する
SNSに投稿する際も、場所が特定されすぎないよう配慮する
一度見かけた程度であれば、静かにやり過ごすだけで問題ないケースも多いですが、繰り返し庭や畑に現れて被害が出ている場合は、自治体の窓口に相談し、地域の対策方針に従うことが重要です。
絶対にやってはいけない行為(接近・捕獲・餌やりなど)
キョンと関わる際、次のような行動は避けてください。
餌を与える
→ 人里に慣れて警戒心が薄れ、被害やトラブルが増える原因になります。追いかける・触ろうとする
→ 動物にとっては大きなストレスであり、思わぬ反撃や怪我につながるおそれがあります。許可なく捕獲・移動させる
→ 法律に抵触する可能性があり、かえって問題を大きくするリスクがあります。石を投げる・棒で叩くなどの暴力行為
→ 動物福祉の観点からも望ましくなく、自分や周囲の人の安全も損ないます。
「怖いから」といって過度に敵視するのではなく、「近づかない」「刺激しない」という基本を徹底することが、結果として人とキョン双方の安全につながります。
自治体や関係機関への相談・通報の流れ
キョンの出没や被害が心配な場合は、まずお住まいの自治体の公式サイトで、「鳥獣被害」「外来生物」「キョン」などのキーワードで情報を確認することをおすすめいたします。多くの自治体では、
農林振興や自然保護を担当する課
環境・生活衛生関連の窓口
などがキョンに関する相談を受け付けています。
電話やメールで相談する際には、
見かけた日時
場所(おおまかな住所)
頻度(1回だけか、継続的か)
被害内容(作物、庭木、騒音など)
を整理して伝えると、担当者も状況を把握しやすくなります。
キョンにまつわるよくある疑問Q&A
犬や子どもと一緒に歩いていても大丈夫?
通常、キョンは人や犬を避けて離れていくことが多く、適切な距離を保っていれば、ただちに危険というわけではありません。ただし、
リードを放して追いかけさせる
子どもが興味本位で走り寄る
といった状況では、キョンが驚いて思わぬ方向に走り出したり、蹴ったりする危険性が高まります。散歩中に見かけた場合は、犬のリードを短く持ち、子どもには「見るだけで近づかない」ことをしっかり伝えると安心です。
鳴き声がうるさい・怖いときはどこに相談すればよい?
夜間に鳴き声が続いて生活に支障がある場合は、まず自治体の環境や鳥獣担当窓口に相談してください。地域によっては、
鳴き声の原因がキョンかどうかの確認
防除計画に沿った捕獲・対策の検討
などが行われている場合もあります。
一方で、すぐに鳴き声が完全になくなることを保証できるわけではありません。必要に応じて、窓の防音対策や耳栓の利用など、生活面で取り入れられる工夫も併せて検討するとよいでしょう。
かわいそうに感じる……外来種問題をどう考えればよい?
キョンの写真を見ると、「思ったよりかわいい」「それでも駆除されるのはかわいそう」と感じる方も少なくありません。その感情は自然なものであり、否定する必要はありません。
外来種問題で重要なのは、
もともとキョンを日本に連れてきたのは人間であること
生態系や農業への被害を放置すると、他の多くの動植物や人の暮らしが損なわれること
だからこそ、科学的な根拠に基づき、できるだけ苦痛を減らす方法で個体数を管理していく必要があること
といった点です。個々の動物に対して憎しみを向けるのではなく、「人間社会として、どう責任を持った管理を行うか」という視点で考えることが大切です。