賃貸物件に住んでいると、いずれ必ず向き合うことになるのが「退去」と「原状回復」です。
いざ引っ越しが近づいたときに、「このクロスの汚れは請求されるのだろうか」「敷金はどれくらい戻ってくるのか」「管理会社から言われるまま支払って良いのか」など、不安や疑問が一気に押し寄せてくる方は少なくありません。
実は、「原状回復」という言葉を何となくのイメージで捉えてしまうと、本来払わなくてもよい費用まで負担してしまったり、逆に貸主との認識のズレからトラブルに発展してしまったりするリスクがあります。
しかし、法的な考え方と国のガイドライン、そして退去前に押さえるべきポイントさえ理解しておけば、「どこまでが自分の負担で、どこからが貸主の負担なのか」を冷静に判断できるようになります。
本記事では、「原状回復とは何か」という基本から、費用負担の考え方、退去前にやっておきたいチェック、よくあるトラブルのパターンと回避策までを、初めての方にもわかりやすく整理してご紹介いたします。
これから退去を控えている方はもちろん、「いつか引っ越すかもしれない」という段階の方にとっても、将来の安心につながる“備えの知識”としてお役立ていただける内容です。
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原状回復という言葉は、専門的で難しそうに聞こえますが、その本質は「借主の責任によって生じた損耗だけを元に戻す」という、きわめてシンプルな考え方です。
経年劣化や通常の生活で避けられない傷みまで「すべて元通りにしなければならない」と思い込んでしまうと、不必要な不安や、過剰な費用負担につながりかねません。
だからこそ重要なのは、
どこまでが借主負担で、どこからが貸主負担なのかという基準を知ること
入居時・退去時の状態をきちんと記録し、説明できるようにしておくこと
契約書や特約の内容を「なんとなく」ではなく、具体的に理解しておくこと
の3点です。
これらを押さえておけば、退去時の話し合いも、感情的な対立ではなく「事実」と「ルール」に基づいた冷静なコミュニケーションへと変わります。結果として、敷金精算もスムーズになり、「きれいに住んでくれてありがとう」というお互いにとって気持ちの良い終わり方がしやすくなります。
原状回復とは──基本の定義と用語の整理
「原状回復」の意味
原状回復とは、賃貸契約終了時に、借主が入居時の状態に近い形へ戻して返還する義務を指します。ただし「新品の状態に戻す」ことではなく、借主の故意・過失や通常使用を超える損耗を復旧することが原則です。経年劣化や通常損耗は本来、借主の負担には含まれません。
「現状回復」「原状復帰」「原状回復」の違い
原状回復:賃貸借契約における正式な用語。
原状復帰:工事・施工の文脈で用いられるが、意味はほぼ同じ。
現状回復/現状復帰:現在の状態に戻すという意味になり誤用とされることが多い。
原状回復が求められるタイミングと対象
賃貸契約終了時(退去時)
原状回復義務は賃貸借契約が終了し、借主が物件を返還するタイミングで発生します。退去立会いの際に、どの箇所を借主が負担するかを確認し、必要に応じて修繕費用が精算されます。
入居期間中の損耗・毀損の分類
損耗・劣化には以下の2種類があります。
経年劣化・通常損耗:時間の経過や通常の生活に伴う自然な傷み
借主の責任による損耗:故意・過失・注意義務違反による汚損・破損
原状回復の対象となるのは後者のみであり、前者は貸主負担が原則です。
費用負担は誰に?──法律とガイドラインにみる責任の線引き
法的根拠(民法・国土交通省ガイドライン)
2020年の民法改正により、通常使用による損耗や経年変化は借主の原状回復義務に含まれないことが明文化されました。また、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が実務上の判断材料として広く使われています。
借主負担になるケース
故意・過失による損傷(壁穴、ガラス破損など)
タバコのヤニや臭い
ペットによる傷・汚れ
水漏れや設備汚損を放置したことによる拡大損害
通常損耗・経年劣化は貸主負担が原則
日焼け、畳の色あせ、家具跡などは通常損耗に該当し、原則として借主の負担には含まれません。ただし、契約時の特約によって借主負担とされるケースもあり、内容の妥当性が重要となります。
退去前にやっておきたい実務チェックリスト
入居時の状態を記録する重要性
入居直後に室内を写真・動画で記録する
傷・汚れ・設備不具合は管理会社へ報告しておく
日付入りで保存しておくと証拠能力が高まる
部屋・設備の点検項目
壁・床・天井の破損や汚れ
水まわり(キッチン・浴室・トイレ)の汚れや水漏れ
換気扇・エアコンの動作
ドア・窓の開閉状態
清掃・修繕すべきか判断する基準
釘穴や自分で開けた跡 → 修繕が必要な場合あり
タバコのヤニ・臭い → 原状回復対象になりやすい
日焼け・色あせ → 原則貸主負担
証拠として残すべきポイント
入居時と退去時の写真の比較
清掃・修繕の領収書
立会い時の記録メモ
事例でみる──よくあるトラブルとその回避方法
壁紙の日焼け・畳の色あせ
自然に発生する経年劣化であり、借主負担にならないのが一般的です。請求を受けた場合はガイドラインを提示し協議が可能です。
釘穴やフローリングのへこみ
画鋲穴程度は軽微とされることがありますが、ネジ・金具の大きな穴や深いへこみは借主負担となる可能性があります。
タバコのヤニ・臭い
通常損耗の範囲を超えると判断されることが多く、クロス張替えや清掃費を求められる場合があります。
契約書特約により通常損耗も負担となるケース
退去時のクリーニング費用を借主負担とする特約は一般的ですが、内容が過度である場合は無効になる可能性があります。契約時の説明の有無が判断材料になります。
居住用 vs 事業用(店舗・オフィス)の違いと注意点
居住用物件の特徴
生活を前提とするため、通常損耗は貸主負担となり、借主負担は故意・過失部分に限定されるのが一般的です。
事業用物件の特徴
内装工事を行うことが多く、退去時に原状復帰工事が必要
スケルトン返しが求められ、高額になることがある
契約内容が個別に細かく設定されている場合が多い
よくある質問(FAQ)
経年劣化も原状回復しなければなりませんか?
いいえ。経年劣化・通常損耗は原則として借主負担に該当しません。
敷金は全額返ってきますか?
借主負担の修繕費がある場合は敷金から差し引かれます。残額が返金される仕組みです。
どこまで直せば原状回復したといえますか?
入居時の状態との差異を、契約書およびガイドラインに照らして埋める範囲です。貸主との協議が重要です。
トラブルになった場合の相談先は?
消費生活センター、各自治体の住宅相談窓口、弁護士などが相談先となります。
まとめ──適切な準備で原状回復トラブルを防ぐために
原状回復とは、借主の責任による損耗を修繕して返還する行為であり、経年劣化まで修繕する必要はありません。退去前の点検や記録、契約書確認を徹底することでトラブルは大幅に防げます。特に初めて賃貸物件を退去する方は、本記事のチェックリストを活用いただくことで安心して手続きに臨めます。