請求書や見積書を作っていると、「1円未満は切り捨て」「100円単位にそろえる」など、端数処理のルールに沿ってExcelで計算結果を整えたい場面が必ず出てきます。ところが、Excelの切り捨てはROUNDDOWN、TRUNC、INT、FLOOR系など選択肢が多く、さらに「表示だけ整えたつもりが計算が合わない」「値引きや返品でマイナスが混じったら結果がズレた」といった落とし穴も少なくありません。
本記事では、まず「値を変えるのか、表示だけなのか」「桁数で揃えるのか、倍数で揃えるのか」「マイナスを含むか」という判断軸を整理し、目的に合う関数を最短で選べる早見表を提示します。小数第2位の切り捨て、千円未満の切り捨て、100円単位の切り捨てまで具体例で解説し、よくあるズレの原因と直し方もチェックリストで確認できるようにまとめました。読み終えたときに「このケースはこの式」と迷わず判断でき、端数処理のミスを安心して防げる状態を目指します。
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Excel切り捨てで最初に決めること
Excelで「切り捨て」を扱うときに、最初に整理しておくべきポイントは3つあります。ここを曖昧にしたまま関数だけ当てはめると、請求書の合計が合わない、値引き(マイナス)で結果がズレる、100円単位にしたはずが意図しない数になった、といったトラブルが起きやすくなります。
この章では、どの関数を選ぶにしても必ず押さえたい「前提」を固めます。
Excel切り捨ては値を変えるか表示だけ変えるか
切り捨てには大きく2種類あります。値そのものを切り捨てるのか、見た目だけを切り捨てるのかです。両者は似ているようで結果がまったく異なるため、目的に応じて使い分ける必要があります。
値として切り捨てる(計算結果に反映する)
関数で端数処理を行い、以後の合計・集計・計算も「切り捨て後の値」を使う方法です。
請求金額、税額、単価×数量、ポイント計算など、最終的な数値の正確性が必要な場面は基本的にこちらです。
端数処理のルールを明文化しやすく、検算もしやすいのが利点です。
表示だけ切り捨てる(見せ方だけ整える)
セルの表示形式(小数点以下の表示桁数)を変更して、見た目上は小数を表示しないようにする方法です。
ただし、内部の値(実際の数値)は残っています。つまり、表示は「10」でも内部は「10.49」のまま、といったことが起こります。
その結果、合計や平均との差、他セルの計算で小数が効いてしまい、「見た目と計算が一致しない」「請求書の合計が1円ズレる」といった原因になります。
判断基準(迷ったときの結論)
「提出・請求・契約に関わる」「金額が合わないと困る」→ 値として切り捨てる
「資料を見やすくするだけ」「見た目の桁を揃えるだけ」→ 表示だけ調整も選択肢(ただし計算一致が不要な場合に限る)
実務でよくある失敗は、「表示だけ切り捨てたつもり」で運用していて、後から合計が合わなくなるケースです。まずは“値として切り捨てが必要か”を先に決めるのが安全です。
Excel切り捨てはマイナスが混じるかで関数が変わる
次に重要なのが、マイナス値(負の数)がデータに含まれるかです。マイナスが混じると、同じ「切り捨て」でも関数によって結果が変わり、意図しないズレが発生しやすくなります。
マイナスが出やすい場面は、たとえば次のとおりです。
返品・返金・相殺処理(売上や請求のマイナス計上)
値引きやクーポン(マイナスの明細として管理)
仕入戻し・調整差額
在庫評価や差異の調整
ここで特に注意が必要なのが、INT と TRUNC / ROUNDDOWN の考え方の違いです。
INT は「最も近い整数に切り捨て」と言われますが、負の数では“より小さい整数側”に寄る挙動になりやすいという特徴があります。
例:-1.2 の場合、ゼロに近い -1 ではなく、より小さい -2 に寄る、という動きが起きやすい、という理解が重要です。TRUNC は「小数部を切り落とす」という感覚で、負の数でも“小数部だけを削る”イメージに近い挙動になりやすいのがポイントです。
ROUNDDOWN も「指定桁で切り捨て」を明確に行うため、運用ルールを統一しやすい関数です。
つまり、マイナスがあるなら、まずは「どの方向へ寄せたいのか」を定義する必要があります。
“ゼロに近い方向へ寄せたい”(例:-1.2 → -1)
“より小さい値へ寄せたい”(例:-1.2 → -2)
金額・税・請求では、社内ルールや契約条件があることが多いため、「どちらが正しい」ではなく「ルールに合うか」で統一することが重要です。マイナスが混じる可能性が少しでもある場合は、サンプルで検算し、関数の選択を固定してください。
Excel切り捨ては倍数に揃えるか桁数で揃えるか
最後に、切り捨ての目的が 「桁数を揃える」 のか 「倍数に揃える」 のかを明確にします。ここを間違えると、式は動いているのに目的が達成できません。
桁数で揃える(小数点の位置で揃える)
小数第2位まで残して、それ以下を切り捨てる
整数にする(小数点以下を切り捨て)
千円未満を切り捨てる(= 1000円単位にする)
このタイプは、基本的に ROUNDDOWN または TRUNC が中心になります。
倍数で揃える(刻みに揃える)
100円単位、500円単位、1000円単位などの刻みに揃える
0.05、0.1 のような小数刻みに揃える
15分単位、5単位など、規則的なステップに揃える
このタイプは、基本的に FLOOR.PRECISE が中心になります。
見た目として「100円未満切り捨て」は桁数でもできますが、運用上は「刻みに揃える(倍数)」として扱う方が分かりやすい場面も多いです。どちらの発想で統一するかを先に決めておくと、式の使い回しがしやすくなります。
Excel切り捨ての早見表
この章では、「結局どれを使えばよいのか」を迷わないための基準と、代表的な関数の違いを整理します。
最終的な目的は、自分のケースに対して、最短で正しい関数に到達することです。
Excel切り捨てで迷わない関数選択の基準
次の質問に順番に答えると、選ぶべき関数がほぼ決まります。
切り捨てた値を計算に使いますか(値として切り捨て)? それとも見た目だけですか(表示だけ)?
値として切り捨て → 関数を使う
表示だけ → 表示形式の変更を検討(ただし計算一致が不要な場合)
桁数で揃えますか、それとも倍数で揃えますか?
桁数で揃える → ROUNDDOWN / TRUNC / INT
倍数で揃える → FLOOR.PRECISE
マイナス値は含まれますか?
含まれる → INT の挙動を必ず確認し、TRUNC/ROUNDDOWN/FLOOR.PRECISEを優先候補にする
含まれない → 目的に合う関数でよい(ただし将来混ざる可能性があるなら検算して固定)
この3点を先に決めると、関数選びで迷う時間が大きく減ります。
Excel切り捨ての代表4関数の違い
以下は、切り捨てでよく使われる4つの関数を、用途別に整理した比較表です。ここだけ押さえておくと、記事の残りは「具体例の辞書」として活用できます。
| 関数 | 向いている目的 | 指定できるもの | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ROUNDDOWN | 指定桁数で切り捨て | 桁数(小数/整数の桁) | 「何桁まで残すか」が明確。運用ルールを統一しやすい | マイナスが混じる運用では事前に挙動確認をする |
| TRUNC | 小数部を切り落とす感覚で切り捨て | 桁数 | 「小数部を削る」イメージで理解しやすい | INTとの差が負の数で出るため、混在させない |
| INT | 整数化(切り捨て) | なし(引数1つ) | 式が短い。整数化だけなら手軽 | マイナス値で期待とズレることがある |
| FLOOR.PRECISE | 倍数に切り捨て | 基準値(倍数) | 100円単位など刻みに揃えるのに強い | 小数の基準値は誤差の影響が出る場合がある |
どの関数も「切り捨て」に見えますが、実際には「何を基準に切り捨てるか」が異なります。
ROUNDDOWN/TRUNC/INT:桁(小数点の位置)
FLOOR.PRECISE:倍数(刻み)
ここを混同しないことが、端数処理の事故を減らす最短ルートです。
Excel切り捨てをROUNDDOWNで行う方法
ROUNDDOWNは、切り捨ての中でも特に使い勝手がよく、ルール化しやすい関数です。
「小数第2位まで残して第3位以下を切り捨てる」「千円未満を切り捨てる」など、桁数を指定した切り捨ては基本的にこの関数で対応できます。
Excel切り捨てを小数第2位など指定桁で行う
ROUNDDOWNの基本構文は次のとおりです。
=ROUNDDOWN(数値, 桁数)
ここでの「桁数」は、小数点以下を指定するときは正の数、整数側(小数点の左)を指定するときは0または負の数になります。
よく使う例(小数点以下)
小数点以下をすべて切り捨てて整数にする
=ROUNDDOWN(A1, 0)
例:A1=12.9 → 12
小数第1位まで残して切り捨て
=ROUNDDOWN(A1, 1)
例:A1=12.99 → 12.9
小数第2位まで残して切り捨て
=ROUNDDOWN(A1, 2)
例:A1=12.349 → 12.34
実務での使い所(例)
単価計算で小数が出るが、社内ルールで小数第2位までにする
率(%)を小数第1位で止めたいが、四捨五入ではなく切り捨てで統一したい
ポイント付与など、端数は切り捨てる規定がある
間違えやすいポイント
「表示桁」と混同しない:ROUNDDOWNは値そのものが変わります。
合計は必ず「切り捨て後の列」を参照する:元の列を参照すると、端数処理の意味がなくなります。
途中計算で何度も切り捨てない:中間で切り捨てを繰り返すと誤差が累積し、最終的に差が出やすくなります。
Excel切り捨てを千円未満など大きい桁で行う
ROUNDDOWNは、桁数に負の数を指定することで、小数点の左側(整数部分)の桁で切り捨てができます。金額処理で特に出番が多いテクニックです。
例(桁数がマイナス)
10円未満切り捨て(1の位を0にする)
=ROUNDDOWN(A1, -1)
例:A1=123 → 120
100円未満切り捨て(10の位以下を0にする)
=ROUNDDOWN(A1, -2)
例:A1=1234 → 1200
1000円未満切り捨て
=ROUNDDOWN(A1, -3)
例:A1=12345 → 12000
考え方のコツ
「-1」は“1桁分”を小数点左で切り捨てる
「-2」は“2桁分”
「-3」は“3桁分”
と理解すると覚えやすくなります。
実務での使い所
1000円単位で予算を丸める(端数は切り捨てる)
100円単位で売上を報告する
手数料や送料の計算結果を一定の桁に揃える(規定がある場合)
Excel切り捨てをまとめて適用するコツ
ROUNDDOWNを「一部のセル」だけに入れると、運用が破綻しやすくなります。特に請求や集計は、数行なら目視で気づけても、数百行になると見落としが発生します。ここでは、まとめて適用して事故を減らすコツを整理します。
コツ1:元データ列と切り捨て列を分ける
A列:元の値(単価や計算途中の値)
B列:切り捨て後の値(請求や集計で使う値)
このように分けると、検算しやすく、参照ミスも減ります。
コツ2:テーブル化(Ctrl+T)で自動コピーを使う
Excelのテーブル機能を使うと、列に式を入れたときに下まで自動で適用されやすくなり、入れ漏れが減ります。列が増えても崩れにくいのもメリットです。
コツ3:合計や集計は切り捨て後の列だけを見る
端数処理のルールを適用したいなら、最終的に集計する対象は切り捨て後の列で統一します。
「元の列を合計して、表示だけ整えて提出」という運用は、差異が出たときに原因が追いにくくなります。
コツ4:端数処理の位置を統一する
行単位で切り捨ててから合計するのか
合計してから最後に切り捨てるのか
どちらが正しいかはルール次第ですが、どちらにしても統一が重要です。混在すると検算が困難になり、差異が出たときに説明できなくなります。
Excel切り捨てをTRUNCとINTで行う方法
TRUNCとINTは、どちらも「整数化」「切り捨て」の文脈でよく登場します。式が短い、概念が分かりやすいといった利点がある一方で、負の数(マイナス)の扱いで差が出るため、運用で混在させないことが大切です。
ここでは、それぞれが向くケースと注意点を整理します。
Excel切り捨てでTRUNCが向くケース
TRUNCは「小数部を切り落とす」発想で、指定桁数にも対応できます。
ROUNDDOWNと似た使い方ができるため、次のようなケースで選択肢になります。
TRUNCの基本形
=TRUNC(数値, 桁数)
よく使う例
整数化(小数点以下を削除)
=TRUNC(A1, 0)
小数第2位まで残す
=TRUNC(A1, 2)
千円未満を切り捨てたい場合(運用としてはROUNDDOWNの方が分かりやすいことが多い)
桁数の考え方に慣れているなら検討余地がありますが、チーム運用ではROUNDDOWNに寄せた方が理解しやすい傾向があります。
TRUNCが向く場面の例
「小数部を落とす」という説明が社内で通りやすい
ROUNDDOWNと同等の目的だが、既存ファイルでTRUNCが使われており統一したい
小数点以下の扱いを明確に「削除」として理解して運用したい
ただし、TRUNCを使うなら、INTとの違いをチームで共有しておくことが重要です。
Excel切り捨てでINTが向くケース
INTは引数が1つで、整数化の式が短いのが利点です。
INTの基本形
=INT(数値)
向いているケース
データが基本的に正の数で、単純に整数化したい
一時的な集計で、桁数指定までは不要
整数部分だけを取り出して補助列を作りたい
ただし、INTは負の数で挙動が変わりやすいため、金額処理や値引きが絡む場合は注意が必要です。
「手軽だから」とINTを使ってしまい、後から返品・値引きが混ざってズレるのは典型的な事故パターンです。運用データにマイナスが混じる可能性が少しでもあるなら、INTは採用前に必ず検算してください。
Excel切り捨てでマイナス値が混じるときの注意
TRUNCとINTの違いが顕在化するのが、まさにマイナス値です。ここで重要なのは、「切り捨て」という言葉が曖昧であることです。
人によっては「小数部を捨てる(ゼロ方向へ寄せる)」を切り捨てと呼び、別の人は「常に小さい側へ寄せる」を切り捨てと呼びます。Excel関数は、この“切り捨ての定義”が異なる場合があるため、結果がズレます。
実務での安全策(最重要)
金額処理(請求、税、手数料)において、マイナスが出る可能性があるなら、関数を混在させない
まず「マイナスをどう扱うか」をルールとして明文化する
例:「値引きは小数第2位で切り捨てるが、ゼロ方向へ寄せる」など
サンプルで必ず検算してから全体に適用する
チーム運用なら、早見表(本記事の比較表)を共有して統一する
特に請求や会計は、差が出たときに「なぜその結果になるのか」を説明できることが重要です。関数の選択を曖昧にすると、差異の説明ができなくなり、修正工数も増えます。
Excel切り捨てを倍数で行う方法
この章は「100円単位」「500円単位」「0.05刻み」など、倍数(刻み)に揃える切り捨てを扱います。
桁数指定で代用できるケースもありますが、運用上は倍数の方が分かりやすいことが多く、規程も「○円未満切り捨て」「○単位に切り捨て」と表現されがちです。ここを整理すると、端数処理が非常に安定します。
Excel切り捨てを100円未満など倍数で揃える考え方
倍数切り捨ては「この刻みで下側に寄せる」という処理です。たとえば次のように考えます。
1234円を100円単位に切り捨て → 1200円
1234円を500円単位に切り捨て → 1000円
12.34を0.05単位に切り捨て → 12.30(刻みによって結果が変わる)
ここで重要なのは、“100円未満切り捨て”は、必ずしも「小数点の桁」の話ではないという点です。桁数の発想で処理するより、刻み(倍数)で処理した方が、ルールの言語化・共有がしやすいことが多いです。
また、倍数切り捨ては請求・見積・ポイント・工数など、意外と幅広い領域に登場します。たとえば、
工数を0.25時間単位で切り捨て
距離を0.1km単位で切り捨て
手数料を10円単位で切り捨て
のように、刻みが小数になる場合もあります。
Excel切り捨てはFLOOR.PRECISEで揃える
倍数切り捨ての中心になるのが FLOOR.PRECISE です。考え方はシンプルで、「基準値の倍数に向けて切り捨てる」というものです。
基本形
=FLOOR.PRECISE(数値, 基準値)
代表例(100円単位)
=FLOOR.PRECISE(A1, 100)
A1=1234 → 1200
代表例(500円単位)
=FLOOR.PRECISE(A1, 500)
A1=1234 → 1000
代表例(1円未満切り捨て=整数化)
=FLOOR.PRECISE(A1, 1)
ただし、整数化だけが目的なら ROUNDDOWN(A1,0) でもよく、どちらで統一するかは運用次第です。
倍数切り捨ての体系で統一したいならFLOOR.PRECISEに寄せると分かりやすい場合があります。
FLOOR.PRECISEが強い理由
「100円単位」「0.05単位」といったルールを、そのまま式に書ける
桁数の負数指定(-2, -3)のような暗黙知が不要になり、第三者が理解しやすい
ルール変更(100円→10円など)にも基準値の変更だけで対応しやすい
運用の見通しがよくなるため、チームで共有する帳票・請求フォーマットでは特に有効です。
Excel切り捨てで単位が0.05など小数の倍数の注意
基準値が小数になる倍数切り捨ては便利ですが、注意点が2つあります。
注意点1:見えない誤差の影響が出る場合がある
Excelは内部的に小数を完全な10進数として保持できないことがあり、微小な誤差(例:12.30のつもりが12.299999999…)が混ざることがあります。
この状態で「境界値」「刻み」が絡むと、意図しない側に倒れることがまれに起きます。
注意点2:中間計算で刻み切り捨てを繰り返すと差が拡大する
0.05刻みの切り捨てを、計算途中で何度も行うと、累積して最終的に差が目立つことがあります。とくに合計が大きくなると、差が顕在化します。
安全策(おすすめ運用)
切り捨ては「最終確定」のタイミングで1回にする
どうしても中間で必要なら、検算列を用意して差分を可視化する
境界値(ちょうど0.05の倍数付近)が多いデータでは、少量のサンプルで事前検証を行う
必要に応じて、切り捨て前に十分な桁で一度丸め(整形)してから切り捨てる
Excel切り捨てでよくあるズレと直し方
切り捨ては「式が合っているのに、結果が合わない」トラブルが起きやすい領域です。
原因の多くは、関数の選択ミスというより、運用の設計ミス(参照列、表示と値、端数処理のタイミング)にあります。ここでは、よくあるズレと対処を具体的に整理します。
Excel切り捨てで表示は合うのに計算が合わない原因
この症状で最も多い原因は、次の2つです。
原因1:表示だけ切り捨てている
セルの表示形式で小数点以下を表示しないようにしているだけで、内部値は残っている状態です。
見た目は整数でも、合計すると小数が積み上がるため、合計が合わないことがあります。
特に金額では致命的で、請求書や見積書で差異が出る原因になります。
原因2:合計・集計が「元の列」を参照している
切り捨て後の列を作っているのに、合計セルが元の値(切り捨て前の列)を合計してしまうケースです。
見た目の列が近いと起きやすく、列の追加・並び替えで参照がずれると発生します。
対処の基本
切り捨て後の列(確定用列)を作り、合計は必ずその列を参照する
表示形式でごまかさない(計算一致が必要な場合)
合計セルの参照範囲を見直し、テーブルや構造化参照でずれにくくする
Excel切り捨てで0.2が0.199になるときの対処
「切り捨てたのに微妙にズレる」「0.2のはずが0.199…のように見える」「合計が1円ズレる」といった現象は、Excelの小数表現(内部計算)に起因することがあります。
これは切り捨て関数の誤りというより、二進数での表現の都合で、10進小数が完全に表せない場合があるという性質に関連します。
よくある発生パターン
小数の計算(割り算、比率、単価の算出)を行った結果を、倍数切り捨てや指定桁切り捨てにかける
0.1や0.05など、二進で表しにくい値が多用される
境界値に近いデータ(ちょうどの倍数付近)が多い
対処方針(現場で効く順)
端数処理を最後に1回だけ行う
中間計算で端数処理を繰り返すと、誤差や切り捨ての影響が累積します。
「途中は高精度のまま」「最後に確定」で統一すると差が出にくくなります。切り捨て前に必要十分な桁で一度丸める
たとえば、小数第10位までなど、運用上意味のない細かい桁が残っている場合、先に整形してから切り捨てると安定します。
例:
まず
ROUND(元の式, 10)で整形し、その結果に ROUNDDOWN / FLOOR を適用する
こうすると、微小誤差が端数処理に影響しにくくなります。
検算用の列を作って差分を可視化する
「ズレがあるかもしれない」という状態が最も危険です。
切り捨て前後の差を列として出し、差が想定外の行をフィルターで抽出できるようにすると、原因究明が一気に楽になります。
元値 – 切り捨て後 = 差分
差分がルール範囲内か(例:0〜0.99円など)を確認
境界値の扱いを決める
とくに倍数切り捨て(0.05刻み等)では、境界値に近いデータの扱いが揺れやすいです。
この場合、データ生成側(元の計算式)の桁を揃え、境界に寄りすぎないよう設計することも有効です。
Excel切り捨てで請求書の端数が合わないときのチェックリスト
請求書・見積書・集計表など、「合計が一致しない」と困る帳票は、次のチェックリストで原因を切り分けると復旧が早くなります。
端数処理は表示形式ではなく、関数で値として行っている
合計セルは端数処理後の列を参照している(元の列を参照していない)
端数処理のタイミングが統一されている(行で切るのか、合計で切るのかが混在していない)
マイナス(値引き・返品)が混じる可能性がある場合、採用関数の挙動を検算済み
倍数切り捨て(100円単位など)と桁数切り捨てが混在していない(混在するなら設計意図が明確)
小数刻み(0.05など)を扱う場合、誤差対策(丸め→切り捨て、最終で1回)が入っている
サンプル数行で手計算検算し、ルール通りになっている
端数処理ルールが帳票の注記・社内規程・契約条件と一致している
このチェックを通して、まず「表示だけ切り捨て」「参照列ミス」「端数処理の位置の混在」という頻出原因を潰すと、多くのズレは解消できます。
Excel切り捨てのよくある質問
最後に、切り捨てで特に質問が多い論点をまとめます。ここを押さえておくと、関数の選択だけでなく、運用設計(ルール化・検算・再発防止)まで一段安定します。
Excel切り捨てで四捨五入との違いは何ですか
四捨五入は「次の桁が5以上なら切り上げ、4以下なら切り捨て」という丸め方です。一方、切り捨ては「指定した基準(桁数や倍数)より下を常に捨てる」処理です。
たとえば小数第1位で考えると、
12.39:四捨五入→12.4、切り捨て→12.3
12.30:四捨五入→12.3、切り捨て→12.3
のように、同じ値でも結果が変わります。
重要なのは、「どちらが正しいか」は業務ルールや契約条件によって決まるという点です。
税・請求・ポイントなどでは、端数処理が明文化されていることが多いため、規程に合わせて四捨五入・切り捨て・切り上げを選び、関数を統一するのが基本です。
Excel切り捨てで関数以外の方法はありますか
目的が「見た目を揃えるだけ」で、計算結果の一致が不要な場合は、関数を使わずに セルの表示形式で小数点以下の表示桁数を調整できます。
小数点以下を表示しない
小数第2位まで表示する
など、見た目の調整は柔軟です。
ただし、表示形式は内部値を変えません。したがって、
合計が一致しない
他セル計算で小数が効く
CSV出力やシステム連携で値がズレる
といった問題が起きる可能性があります。
「提出用の金額」「集計値」「請求額」のように計算の一致が必要な場面では、関数で値として切り捨てる方法を基本にしてください。
Excel切り捨てで税計算のルールはどう扱いますか
税計算や請求の端数処理は、制度・契約・社内規程でルールが決まることが多く、「Excelの関数がこうだから正しい」という話にはなりません。重要なのは、Excel側で次の3点をはっきりさせることです。
どのタイミングで端数処理するか
明細行ごとに税額を出して切り捨てるのか
合計税額を出して最後に切り捨てるのか
これが混在すると差異が出やすくなります。
どの単位で端数処理するか
1円未満、10円未満、100円未満
0.05刻みなど
単位が決まれば、桁数指定か倍数指定かが選べます。
マイナス(返品・値引き)をどう扱うか
返品や値引きがある場合、端数処理の方向が一貫しているかが重要です。
関数選択(ROUNDDOWN/TRUNC/INT/FLOOR.PRECISE)を固定し、必ず検算できる形にしておくと、後からの説明と修正が容易になります。
税計算は特に「説明責任」が発生しやすい領域です。端数処理の仕様(どこで、何を、どう切り捨てるか)を帳票や仕様書、注記として残し、Excelの式も統一する設計が安全です。