金額の桁が大きい表をエクセルで作ると、数字がぎっしり並んで見づらくなり、印刷すると列がはみ出す——そんな経験はありませんか。
「単位:千円でまとめて」と言われても、表示だけ千円にすればよいのか、値を千円に変換すべきなのかで迷いやすく、やり方を誤ると「合計が合わない」「ピボットやグラフの単位が混ざる」「貼り付けたら円に戻る」といったトラブルにつながります。
この記事では、エクセルで千円単位にする代表的な方法を「表示形式で見た目だけ整える方法」と「/1000で値を変換する方法」に分けて、どちらを選ぶべきかの判断基準から具体手順、四捨五入・切り捨てなど端数処理の考え方、合計ズレを防ぐ運用までまとめて解説します。
読み終えたときには、提出先や社内ルールに合わせて最適な方法を選べるようになり、見やすさと数字の整合性を両立した資料を迷わず作れるようになります。
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エクセルで千円単位にする前に知っておくこと
金額の桁が大きい表は、パッと見ただけで読み取りづらくなりがちです。特に売上・原価・経費・予算などを並べる資料では、0が多いほど視線が散り、比較もしにくくなります。そのため「単位:千円」でまとめる文化は多くの職場にあります。しかし、エクセルで千円単位にする方法は一つではありません。見た目だけ整えるのか、数値自体を千円に変換するのかで、後続の計算・集計・グラフ・提出物の整合性が大きく変わります。まずはここを理解しておくと、作業のやり直しや「合計が合わない」といったトラブルを避けられます。
また、千円単位にする作業は「見栄えの調整」に見えますが、実際は資料の信頼性に直結します。数字の扱いを誤ると、会議の場で説明がしづらくなったり、取引先に提出した資料の整合が取れず信用問題になったりします。だからこそ最初に「どの方法で」「どのルールで」千円単位にするのかを決めてから進めるのが安全です。
表示だけ変える方法と値を変換する方法の違い
千円単位への対応は大きく二つに分かれます。
1つ目は「表示だけを千円単位にする」方法です。これは、セルに入っている数値(円)はそのまま保持し、見た目だけを縮尺表示するやり方です。例えばセルに「123456」と入っているとき、表示だけを「123」に見せることで、表の桁を減らして読みやすくします。この方法の良い点は、元データが円のままなので、既存の数式(SUM、AVERAGE、VLOOKUP、XLOOKUP、SUMIF、ピボット集計など)を壊さずに済むことです。つまり、計算の正しさは保持しつつ、見やすさだけ改善できます。
2つ目は「値を千円に変換する」方法です。セルの値そのものを、円から千円へ換算します。典型例は「=A2/1000」のように1000で割る式で別列に千円の数値を作る運用です。提出物のフォーマットが「千円単位の数字(整数)」を求めている場合や、行ごとの丸めを含めた合計が一致している必要がある場合はこちらが向いています。値が千円になるため、見た目と計算結果が一致しやすい一方、元データ(円)を上書きしてしまうと、後で円が必要になったときに復元が難しくなります。したがって、通常は「元の円列は残し、千円列を別に作る」やり方が安全です。
判断基準としては、資料を「閲覧用」に整えるだけなら表示形式、提出物として「千円の数値」を求められるなら値変換、と考えると迷いが減ります。さらに、他シートや他ブックへのリンク、Power Query、外部システム連携などが絡む場合は、値変換のタイミングが重要になります。見た目を整えるのが目的なら最後に表示形式で調整する、計算基準が千円にすべきなら変換列を作ってそこを基準に集計する、と整理すると安全です。
四捨五入で合計が合わなく見える理由
千円単位にしたときに最もよく起きる違和感が「合計が合わないように見える」問題です。実際には計算が間違っていないのに、見え方だけがズレて見えるケースが多くあります。
例えば、次のような円のデータがあるとします。
1行目:1,500円
2行目:1,500円
合計:3,000円
これを千円単位で表示すると、四捨五入の見え方によっては次のように見える可能性があります。
1行目:2(千円)
2行目:2(千円)
合計:3(千円)
行を足すと「2+2=4」ですが合計は「3」に見え、合わないように感じます。これは、行ごとに千円単位表示(丸め)が発生している一方で、合計セルは元の円を合計した結果を千円単位表示しているためです。つまり、丸めの位置が違うことが原因です。行ごとに丸めた結果を合計するのか、合計してから丸めるのかで結果が変わるのは自然なことです。
このズレは、業務上問題になるケースとならないケースがあります。閲覧用の資料で、細かな千円未満が重要でないなら、合計が「正しい円合計の千円表示」になっていれば問題にならないことも多いです。一方で、提出先が「各行の千円値を積み上げた合計」を求める場合は、このズレが問題になります。その場合は「行も合計も同じ丸めルールで処理された千円列」を作り、その列で合計を出す必要があります。
ポイントは「丸めは必ず誤差を生む」という前提を持ち、どの段階で丸めるのか(行単位なのか、合計単位なのか)を先に決めることです。会議資料でよくあるのは「行は概算でよいが、合計は円合計に基づいて正確にしたい」という運用です。この場合は表示形式のまま、合計の見え方も含めて説明できるようにしておくと安心です。
提出先や社内ルールで確認すべき条件
千円単位の作業に入る前に、最低限確認しておきたい条件があります。これを曖昧にしたまま進めると、完成後に「やっぱり切り捨てだった」「単位表記が違う」「合計が行の合算と一致していないとダメだった」といった手戻りが起きやすくなります。
確認項目は主に次の3つです。
端数処理のルール
四捨五入(一般的)
切り捨て(保守的、予算管理で多い)
切り上げ(請求や上限管理で見かける)
千円未満はゼロ(一定の丸め)
端数処理は組織や提出先の文化で決まっていることが多いので、過去資料やテンプレートを見て合わせるのが安全です。
単位表記をどこに置くか
見出しに「(単位:千円)」と書く
列名に「売上(千円)」と書く
セルの表示に「千円」を付ける
セル内に単位を付けると見栄えは分かりやすいですが、列幅が広がり表が崩れやすくなります。印刷やPDF化を前提にするなら、見出しや注記で単位を示すほうが安定します。
整合性の要求レベル
行の千円表示を足した合計と、合計行が一致している必要があるか
合計は円で正確に出し、見え方のズレは許容されるか
ピボットやグラフでも同じ単位で見せる必要があるか
ここが決まると、「表示形式だけで済ませるか」「変換列を作るか」「丸め列を作るか」が自動的に決まります。
エクセルの表示形式で千円単位にする手順
表示形式(ユーザー定義)で千円単位にする方法は、元の数値を変えずに見た目だけを整えられるため、最も手軽で安全な手段として多くの場面で使われます。特に「円のまま計算したい」「他の式や参照を壊したくない」「見やすくしたい」という目的には非常に相性が良いです。
ただし、表示形式は「見た目だけを変える」機能です。つまり、セルに入っている実データは円のままです。これを理解せずに作業すると、「見た目は123なのに、計算すると123456として扱われる」ことに戸惑います。逆に言えば、この性質を理解して使えば、精度を保ったまま見栄えを改善できます。
基本の設定 #,##0, で千円単位表示
もっとも基本となる表示形式は #,##0, です。末尾にあるカンマが千円単位表示の肝になります。エクセルのユーザー定義書式では、数値の表示に使う「0」や「#」の後ろにカンマを置くことで、表示を縮尺できます。カンマ1つで1000、2つで1000000というように、桁を3つずつ落として表示します。
具体的な操作手順は次の通りです。
千円単位で表示したいセル範囲を選択します。
右クリックして「セルの書式設定」を開きます。
「表示形式」タブで「ユーザー定義」を選びます。
「種類」の欄に
#,##0,と入力します。OKを押します。
これで、たとえば「123,456」が「123」に見えるようになります。見た目の桁が減るため、表全体の横幅が縮まり、比較がしやすくなります。印刷時も列幅の調整が楽になります。
注意点として、#,##0, は小数を出さない形式です。もし千円単位で小数1桁まで見せたいなら、#,##0.0, のように小数点を含めた書式にします。例えば「123,456円」を「123.5(千円)」のように見せたい場合に使えます。ただし小数表示は「四捨五入」が見えやすくなるので、合計差の違和感が出やすい点は理解しておくと良いです。
千円・百万円など単位文字を表示する書式
千円単位の表示に加えて、「千円」や「百万円」などの単位文字をセル内に表示したいケースがあります。特に単位を誤解されやすい資料では、セル内に単位があると親切です。
ユーザー定義書式では、文字列をダブルクォーテーションで囲むことで、数値の後ろに固定文字を付けられます。代表例は次の通りです。
千円単位で数値の後ろに「千円」を付ける:
#,##0,"千円"
この場合、123,456円は「123千円」と表示されます。百万円単位で「百万円」を付ける:
#,##0,,"百万円"
この場合、123,456,789円は「123百万円」のように表示されます(丸め方は書式による)。
単位文字を付ける際の注意点は「見た目の情報量が増える」ことです。セル内に単位が入ると列幅が広がり、表全体が横に伸びます。印刷で1ページに収めたい資料では、単位文字は見出しにまとめたほうが安定します。たとえば列見出しを「売上(千円)」とし、セルは #,##0, だけで数字を表示する、というやり方が最も崩れにくいです。
また、単位文字を付けたセルは「見た目は数値でも、中身は数値のまま」です。これは表示形式の良い点です。TEXT関数で単位を付ける方法もありますが、TEXTは文字列になるため、後続の集計やソートでトラブルになりやすいです。単位を付けたいだけなら、まずは表示形式で対応するのが安全です。
ゼロやマイナスの表示を整える書式
実務のデータでは、ゼロやマイナスが必ず混ざります。千円単位で表示すると、ゼロが大量に並んで表が見づらくなることもありますし、マイナスがあると強調したい場合もあります。ここで役立つのが、ユーザー定義書式の「セクション」という考え方です。
ユーザー定義書式は、セミコロンで区切ることで、次の順に表示ルールを設定できます。
正の数
負の数
ゼロ
文字列
この仕組みを使えば、「ゼロは空欄にする」「マイナスは▲を付ける」「ゼロはダッシュ表示にする」など、資料の見やすさを大きく改善できます。
例として、千円単位で次のようにしたいとします。
正の数:通常表示
負の数:先頭に▲を付ける
ゼロ:空欄
この場合の書式例は次のようになります。
#,##0,;"▲"#,##0,;""
この設定をすると、正の数は「123」、負の数は「▲123」、ゼロは何も表示されません。ゼロが多い表では、視認性が一気に上がります。
別の例として、ゼロを「-」で表示したい場合は、ゼロのセクションに "-" を入れます。
#,##0,;-#,##0,;"-"
このように、ゼロやマイナスの見せ方は、資料の目的に合わせて自由に設計できます。重要なのは「見やすさ」と「誤解されないこと」の両立です。ゼロを空欄にすると、値が入っていないのかゼロなのか分からなくなる場合もあります。提出先や社内文化として「ゼロは必ず0表示」と決まっているなら、ゼロを空欄にはしないほうが安全です。
エクセルで値を千円単位に変換する手順
次に、値そのものを千円単位に変換する方法です。こちらは、提出物で「千円の数値」が必要な場合や、行単位で丸めた数値を基準に集計したい場合に有効です。表示形式だけで済ませると、どうしても「見え方の丸め」と「計算上の値」が一致しないため、資料の整合性を厳密に求められる場合は値変換が安心です。
ただし、値を変換する際に最も避けたいのは「元の円データを上書きしてしまう」ことです。後から円に戻したい、別資料で円が必要、監査で原値を求められる、という場面は意外と多いです。したがって、基本方針は「円列は残し、千円列を別に作る」です。
/1000 で別列に作る基本
最も基本の変換は、円を1000で割ることです。たとえばA列に円の金額があるとして、B列に千円の値を作る場合は次のようにします。
B2セル:
=A2/1000
これを下までコピーすれば、千円換算値が並びます。ここで重要なのは、割り算をした時点では小数が出る可能性が高いということです。例えば123,456円は123.456千円になります。提出要件が整数なら、必ず丸めが必要です。
また、別列を作るときは列名を明確にするのが大切です。単に「金額」と書くのではなく、「金額(千円)」や「金額_千円」など、単位を列名に入れます。さらに丸めルールが決まっているなら、「金額(千円・四捨五入)」のように書いておくと、後から見返したときに混乱が起きません。
四捨五入・切り捨て・切り上げの使い分け
千円換算値を整数にするためには丸めが必要です。代表的な関数は次の3つです。
四捨五入:
ROUND切り捨て:
ROUNDDOWN切り上げ:
ROUNDUP
千円換算後に整数にする場合、式は次のようになります。
四捨五入:
=ROUND(A2/1000,0)切り捨て:
=ROUNDDOWN(A2/1000,0)切り上げ:
=ROUNDUP(A2/1000,0)
ここでのポイントは「小数点以下0桁」という指定です。つまり千円の整数値にします。
使い分けは、提出要件か社内ルールで決めるのが基本です。判断材料としては次のように考えると分かりやすいです。
四捨五入:一般的な丸め。会議資料や概算に向く。
切り捨て:保守的に見積もりたい、予算超過を避けたい、誤差を小さくしたいときに向く。
切り上げ:請求や上限管理など、少なく見積もると困る場合に向く。
ただし、切り上げは合計が実際より大きく見えやすいので、資料の性質によっては避けることがあります。
さらに重要なのは「合計の扱い」です。行を丸めた千円値を合計するなら、合計も同じ列で出すべきです。合計だけ別計算すると、丸めの位置が変わり結果が変わります。表の整合性を重視するなら、必ず「丸め後の千円列」で合計する、というルールに統一します。
千円未満をゼロにする代表的パターン
「千円未満は常に捨てる」「千円未満は0として扱う」というルールは、予算資料や概算の資料でよく見かけます。この場合、単純にROUNDDOWNで千円換算後の小数を捨てる方法もありますが、円のまま千円単位へ切り捨てたいケースもあります。用途によって使い分けると安全です。
代表的なパターンを整理します。
パターンA:千円の数値を作り、千円未満を切り捨てる
=ROUNDDOWN(A2/1000,0)
円→千円にしたうえで小数を捨てます。結果は千円の整数になります。
パターンB:円の値を千円単位に切り捨てた円を作る
例:123,456円 → 123,000円
この場合は、千円の倍数に丸める関数を使います。代表例として、千円単位の切り捨ては「指定倍数に丸める」関数で表現できます。=FLOOR.MATH(A2,1000)
この結果は円のまま(123,000)です。次に千円表示したいなら表示形式#,##0,を組み合わせます。
パターンC:千円未満は表示しないが、元の円は保持する
これは表示形式の領域です。#,##0, で千円未満は見えなくなるため、「見た目上は千円未満をゼロ扱い」に近い状態になります。ただし実データは保持されるので、厳密な整合が必要なら値変換のほうが適しています。
業務で多いのは、元データは円で保持しつつ、提出用の千円列(丸め済み)を別に作る運用です。これなら監査や差異検証が必要になっても、原値と提出値の関係が追えます。
エクセルで合計・ピボット・グラフが崩れない運用
千円単位の表は、単にセルの表示を変えるだけでは終わらないことが多いです。実際の業務では、合計、前年差、比率、累計、ピボット集計、グラフ化、他シート参照、印刷・PDF化まで含めて「崩れない」ことが求められます。ここでは、どの方法を採用すべきかを運用の観点で整理し、よくある崩れ方を未然に防ぐための考え方をまとめます。
表示形式だけで運用してよいケース
表示形式で千円単位にする運用が適しているのは、次のようなケースです。
元データ(円)を基準に計算したい
例えば、経費合計、売上合計、粗利計算、前年差などを円基準で正確に計算し、その結果を見やすく千円で表示したい場合です。表示形式なら、計算は円で正確に行い、結果だけ千円で見せられます。すでに数式や参照が多数入っている表を壊したくない
既存の表にはSUMIF、XLOOKUP、INDEX/MATCH、ピボット参照、外部リンクなどが絡むことがあります。値を変換すると参照整合が崩れるリスクがあります。表示形式なら、値は変わらないのでリスクが小さく済みます。提出物の整合性が厳密でなく、概算表示で良い
会議資料や社内回覧で、「細かな千円未満は気にしない」「合計は円合計から算出した千円表示で良い」という文化なら、表示形式が最短です。
ただし、この運用では「見え方の丸め」と「計算上の値」が一致しないことがあります。したがって、数字の厳密な一致が求められる提出物には向きません。どこまで許容されるかを、ステップ前の確認で必ず押さえるべきです。
変換列を作るべきケース
次の条件があるなら、千円の変換列(必要なら丸め済み)を作る運用が適しています。
提出先が「千円の数値(整数)」を要求する
表示形式だけだと、セルの実値は円のままなので、コピーして貼り付けたときに値が円になってしまうなど、事故が起きやすいです。提出ファイルで「千円の値」が必要なら、変換列を作って値として整えるほうが安全です。行の千円値を合算した合計が一致している必要がある
例えば、部門別の千円値を合算して全社合計を出す場合、丸め位置が違うと合計差が出ます。提出ルールが「行を丸めた値を合算」と定義されているなら、変換列(丸め済み)を作るしかありません。ピボットやグラフに渡すデータが千円単位である必要がある
ピボットは元データを集計して結果を出します。元データが円なら円で集計されます。千円の集計が必要なら、元データ側に千円列を持たせ、その列を値フィールドに使うほうが整合しやすいです。
変換列運用のコツは、単位と丸めルールを列名や注記に明確に書くことです。関係者が増えるほど「この列は円?千円?丸めは?」という混乱が起きます。作った本人は分かっていても、引き継ぎやレビューの場では曖昧になりがちです。列名でルールを固定すると、事故をかなり減らせます。
ピボットとグラフで単位が混ざるときの対処
ピボットやグラフにおける典型的なトラブルは「表では千円単位なのに、ピボットやグラフが円で表示される」「系列によって単位が混ざる」「軸が大きすぎて読めない」といったものです。
対処の基本方針は次の2つです。
データ側で単位を統一してから渡す
もっとも安全なのは、元データに千円列(丸め済み)を持たせて、ピボットやグラフはその列を参照することです。これなら集計も表示も千円で揃います。円列は原値として残し、必要に応じて切り替えられるようにしておくと便利です。表示形式で見え方を統一する(ただし値は円のまま)
ピボットの値フィールド設定や、グラフの軸の表示形式を#,##0,にして、見た目を千円に揃える方法です。これは手軽ですが、コピーして他所に貼り付けると円値が出るなどの落とし穴があります。また、ピボットの集計は円で行われているため、行単位の丸めが必要な要件には向きません。
実務では「会議資料用のグラフは見やすさ優先で表示形式」「提出用の集計は変換列」というように、目的で使い分けると破綻しにくいです。
エクセルの千円単位でよくある失敗と直し方
ここからは、実際に多い失敗パターンと、その直し方を具体的に整理します。千円単位は小さな設定のようでいて、扱いを誤ると「なぜこうなる?」が起きやすい分野です。よくあるつまずきを事前に知っておくだけで、作業時間とストレスをかなり減らせます。
表示は千円なのに計算が円のままで混乱する
表示形式で #,##0, を設定すると、セルには「123」と見えていても、数式バーには「123456」と表示されます。これは「値は円のまま、表示だけが千円」という状態なので正常です。しかし、この仕組みを知らないと、次のような混乱が起きます。
「見えている123を他のセルで使ったら、計算結果が大きすぎる」
「別シートにコピーしたら円が出てきてしまった」
「相手にファイルを渡したら、相手が値を見て混乱した」
直し方・防ぎ方としては次が有効です。
見出しや注記に「単位:千円(表示のみ)」と明記する
値として千円が必要な場面(提出や貼り付け)は、変換列を作る
表示形式だけの列と、提出用の千円列を混在させない(用途でシートを分けるのも有効)
特に「貼り付け提出」が多い職場では、表示形式だけで作ると事故が起きやすいです。貼り付けた瞬間に円になってしまうためです。その場合は、千円列を値として作り、必要に応じて「値として貼り付け」する運用のほうが安全です。
合計が1〜2千円ズレて見える
合計のズレは、先ほど触れた「丸め位置の違い」が原因です。見た目の千円表示は、暗黙に丸めを伴います。行の丸めと合計の丸めが一致しないとズレが生じます。
直し方は、目的によって変えます。
見やすさ目的で、厳密一致は不要
→ 表示形式で統一し、合計は円合計を千円表示にする。ズレが出ても「四捨五入の関係で行の合算とは一致しないことがある」と説明できれば問題にならないことが多いです。提出要件として一致が必要
→ 行ごとに丸めた千円列を作り、その列で合計を出す。
例:B列に=ROUND(A2/1000,0)を作り、合計もB列をSUMする。切り捨てルールで一致させたい
→ROUNDDOWNや千円倍数丸めを使い、ルールを統一する。
重要なのは、「どの一致を正とするか」を関係者間で揃えることです。合計差が問題になるのは、たいてい「人によって期待する合計の定義が違う」ことが背景にあります。資料の目的に合わせて定義を固定すると、無用なやり取りを減らせます。
文字列化してSUMできない(TEXTの落とし穴)
単位を付けたい、見た目を自由に整えたいという理由でTEXT関数を使う人は多いです。例えば次のような式です。
=TEXT(A2/1000,"#,##0")&"千円"
見た目は「123千円」のように整います。しかし、TEXT関数の結果は文字列です。つまり、SUMで合計しようとしても数値として扱われず、0になったり、エラーになったり、期待通りに集計できなくなります。さらに、並べ替え(ソート)やフィルターで「文字列としての順序」になってしまい、数値順にならないこともあります。
直し方としては、次の運用が安全です。
計算・集計用の列は必ず数値のまま保持する(円列、千円列)
表示専用にどうしても必要な場合だけTEXTを使う
表示専用列を使って集計しない(集計は数値列で行う)
単位付けが目的なら、可能な限り表示形式で対応する(数値のまま保てる)
TEXTは便利ですが、表計算の強みである「数値として扱える」性質を失います。特にピボットやグラフに渡す可能性があるなら、TEXTは避けたほうが安全です。
エクセルで千円単位にするときのFAQ
最後に、千円単位で頻出する疑問をまとめます。実際の運用では、ここが解消されるだけで迷いが減り、設定ミスも起きにくくなります。
表示形式のカンマは何を意味する?
ユーザー定義書式で #,##0, のように末尾に付けるカンマは、表示上の縮尺を意味します。カンマが1つなら「1000で割った値を表示」、2つなら「1000000で割った値を表示」という考え方です。これは実データを変更するのではなく、あくまで「見せ方」だけを変えます。
そのため、セルに入っているのが「123456」なら、表示が「123」になっても、数式バーの値は「123456」のままです。集計や参照も円として行われます。見やすさの改善には便利ですが、提出用の千円値が必要な場合は別列で変換したほうが安全です。
万円単位にしたいときはどうする?
千円単位(1000)は末尾カンマで扱いやすいのに対し、万円単位(10000)は3桁単位ではないため、表示形式の末尾カンマだけで綺麗に割り切れません。もちろん工夫はできますが、運用として分かりやすいのは「値変換」で対応することです。
万円の値を作る:
=A2/10000必要に応じて丸め:
=ROUND(A2/10000,0)など表示は「万円」と注記する、または表示形式で「”万円”」を付ける
万円単位は桁がさらに短くなるため見やすい反面、丸め誤差や合計差の違和感が出やすくなります。資料の目的が「概算で良い」のか「厳密一致が必要」なのかを、千円単位以上に丁寧に確認しておくと安全です。
印刷・PDF化で単位表記を間違えないコツは?
最後の仕上げで多い事故は「単位を書き忘れる」「単位が混在する」「印刷したら一部が見切れる」です。これを防ぐコツは、作業をチェックリスト化して、提出前に必ず確認することです。
単位の明記
表の上部、または各列見出しに「単位:千円」を書く
複数の単位(千円、百万円)が混在するなら、ブロックごとに明記する
丸めルールの統一
四捨五入か切り捨てかを統一し、列名や注記に残す
合計が「行の合算」なのか「円合計の表示」なのかを揃える
印刷プレビューで確認
列幅が足りず数字が「####」になっていないか
罫線や見出しがページをまたいで崩れていないか
余白や縮小印刷で見づらくなっていないか
ピボット・グラフの確認
表は千円なのにグラフが円、という混在がないか
軸の表示形式が意図通りか(千円表示で読めるか)
千円単位は設定自体は簡単ですが、「資料として成立するか」は最後の確認で決まります。特にPDF化して共有する場合は、受け手が数式バーで値を確認できないため、単位表記の明記がより重要になります。見出しと注記で単位を固定し、見た目の誤解を防ぐことが、最も確実な対策です。