「最近、違法サイトの画面下に“Protected by Cloudflare”という表示を見かけて不安になった」――そのような声が、権利者やWeb担当者の間で確実に増えています。
Cloudflareは世界中の正規サイトで利用されるインフラサービスである一方で、海賊版サイトなどの違法コンテンツ配信にも利用されている現実があります。
では、Cloudflareを使うこと自体は違法なのか、違法サイトに関わったとみなされるリスクはあるのか、そして権利者やサイト運営者は具体的にどう対応すべきなのか――この点はニュース記事だけでは全体像が見えにくいところです。
本記事では、日本の最新判決や海外の裁判例、Cloudflare公式ポリシーを整理しながら、「Cloudflareと違法サイトの関係」と「権利者・正規サイト運営者が今とるべき実務的なアクション」を、専門知識がない方にも分かりやすく解説いたします。
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Cloudflareは、世界中の正規サイトで利用されているCDN・セキュリティサービスであり、それ自体が違法というわけではありません。
一方で、その仕組みがIPアドレスの秘匿やDDoS防御に役立つことから、一部の違法サイトが悪用している現実があります。
日本では竹書房の訴訟や、2025年の東京地裁判決(集英社ほか vs Cloudflare)により、侵害通知後のCDN事業者の対応が司法判断の対象となる段階に入りました。
海外でも、ドイツやイタリアなどでCloudflareに対するサービス停止・ブロック命令が出されるなど、プラットフォーム責任を巡る議論は国際的なテーマとなっています。
権利者は、侵害URLの整理や証拠保全、Cloudflare公式フォームを含む適切な通報ルートの活用が不可欠です。Web担当者は、自社コンテンツの適法性と通報対応体制を整えたうえで、Cloudflareを「安全かつ合法的に活用する」ことが求められます。
Cloudflareとは何か――違法サイト以前に押さえたい基本
CDN・リバースプロキシとしての役割
Cloudflare(クラウドフレア)は、Webサイトの表示速度向上やセキュリティ強化を目的としたCDN(コンテンツ配信ネットワーク)・リバースプロキシサービスです。世界各地に配置されたサーバーからコンテンツを配信し、ユーザーとオリジンサーバーの間に入って通信を中継します。
この仕組みにより、次のようなメリットが得られます。
ユーザーの近くのサーバーから配信することで、表示速度を改善できる
DDoS攻撃などの大量アクセスからオリジンサーバーを保護できる
WAF(Web Application Firewall)によって、攻撃トラフィックをフィルタリングできる
なぜ多くの正規サイトでも採用されているのか
Cloudflareは無料プランから利用でき、設定も比較的容易なため、個人ブログから大企業のWebサイトまで広く採用されています。日本国内でも航空会社やメーカー、大学など、多数の正規サイトが利用していると報告されています。
したがって、Cloudflare自体は本来、正規サイトの性能とセキュリティを高めるためのインフラサービスであると理解することが重要です。
Web担当者視点のポイント
Cloudflareを利用すること自体は一般的であり、ただちに違法性が問題となるわけではありません。
なぜ違法サイトでCloudflareが使われるのか
IPアドレス秘匿・DDoS防御などの技術的特徴
Cloudflareがユーザーとオリジンサーバーの間に入ることで、閲覧者から見えるIPアドレスはCloudflareのものになり、オリジンサーバーのIPアドレスが直接は分からなくなります。
この結果、次のような性質が生じます。
違法サイトの運営者に対する直接攻撃や嫌がらせを受けにくくなる
著作権者等がサーバー事業者を特定するために、ひと手間多く調査が必要になる
DDoS攻撃などでサイトを落とされにくくなる
運営者の特定が難しくなると言われる理由
CloudflareはCDNとして、世界中の多数のサイトの通信を中継しています。そのため、「IPをたどってもCloudflareにたどり着く」という状態が増え、違法サイトの運営者やホスティング会社の特定が難しくなるケースがあります。
ただし、捜査機関による法的手続きや、適切な通知を前提とした情報開示が行われるケースもあり、決して完全な匿名化手段ではありません。
Cloudflareを使ってもコンテンツの違法性は消えない
重要なのは、Cloudflareはあくまで通信の中継・保護を行うインフラに過ぎないという点です。違法なコンテンツがCloudflare経由で配信されていたとしても、コンテンツ自体の違法性がなくなるわけではありません。
権利者視点のポイント
違法コンテンツの配信がCloudflareを経由して行われている場合でも、違法性の有無はコンテンツそのものにより判断されます。Cloudflareは「どのように配信されているか」を左右する存在です。
Cloudflare自体は違法なのか?法的な位置づけ
CDN事業者としての中立性と責任範囲
一般に、CloudflareのようなCDN事業者は電気通信事業者に近い「中立的インフラ」として位置づけられることが多く、「コンテンツの適法性を事前検閲する義務までは負わない」と解釈されてきました。
もっとも、権利者から具体的な侵害通知を受けた場合や、裁判所の命令がある場合には、以下のような対応が求められる可能性があります。
侵害が明らかと判断できるコンテンツへのキャッシュ削除
特定サイトへのサービス提供停止
法的義務に基づく情報開示 等
通報・法的通知を受けた後に求められる対応イメージ
権利者がCloudflareに対して、侵害コンテンツのURLや権利関係を示したうえで通報を行い、Cloudflare側が侵害の存在を認識し得る状況になれば、**「それでも何ら対応しない場合に責任が問題となる」**との議論が日本でも行われてきました。
Cloudflare公式ポリシーの概要(不正利用・法の支配)
Cloudflareは公式サイト上で、不正利用に関するポリシーと通報フォームを公開しています。概要は次のとおりです。
専用の「不正利用通報フォーム」で、著作権侵害やマルウェア配信などの通報を受け付ける
児童性的虐待資料(CSAM)など、米国法で違法とされるコンテンツについてはセキュリティサービスの提供停止などを行う
コンテンツ制限は、原則として**「法の支配」に基づく正当な法的命令**に沿って行うと明言
DNSなどインターネットの中核サービスについては、世界全体への影響が大きいため、ブロック命令に対して慎重なスタンスを取る
まとめ
Cloudflare自体は違法サービスではなく、中立的インフラとしての立場を前提としつつも、「具体的な通報・命令があった後の対応」については責任が問われうる段階にきていると言えます。
日本国内の主な裁判例・動向
竹書房 vs Cloudflare訴訟のポイント
出版社の竹書房は、自社コミックスを無断配信する海賊版サイトに対し、CloudflareがCDNサービスを提供していたことを理由に、著作権侵害コンテンツの削除や損害賠償を求める訴訟を提起しました。
この事案では、
権利者側が、侵害ページのURL一覧や正規版URLとの比較表を提示し、侵害の明白性を説明
Cloudflare側に対して、削除やサービス停止など具体的な対応を求めたが、十分な対応が得られなかったため訴訟に至った
という経緯が紹介されています。CDN事業者に対する責任追及の先駆的な試みとして注目されました。
2025年 東京地裁判決(集英社ほか vs Cloudflare)の概要
2025年11月19日、集英社・KADOKAWA・講談社・小学館の4社がCloudflareを被告として提起していた著作権侵害訴訟について、東京地方裁判所はCloudflareの損害賠償責任を認める判決を言い渡しました。
公表された文書によれば、
4,000作品を超えるマンガ作品を無断掲載する大規模海賊版サイトに対し、CloudflareがCDNサービスを提供していた
権利者側は、侵害の実態と損害を具体的に主張立証し、Cloudflareに対して配信停止等の対応を求めていた
裁判所は、こうした状況下でCloudflareが適切な対応を取らなかった点について損害賠償責任を認めた
とされています(詳細な判決文の内容・法的評価については、専門家による分析が今後進むと考えられます)。
これらの判決から見える「CDN事業者に求められる対応」
日本の動向からは、次のような傾向が読み取れます。
侵害が明らかであるにもかかわらず放置した場合、CDN事業者側の責任が認められる余地が拡大している
権利者が、侵害URLリスト等の具体的な情報を提示し、Cloudflare側が侵害を認識できる状態を作ることが重要
CDN事業者に対しても、「中立的インフラだから何もしなくてよい」という時代ではなく、一定の対応義務が求められる方向にある
権利者視点のポイント
今後、日本でCloudflare等に対して削除や損害賠償を求める際には、「どの作品がどのURLで侵害されているか」を丁寧に整理し、通知・通報の履歴を残しておくことが、実務上いっそう重要になります。
海外での裁判例と規制の流れ
ドイツ・イタリアなど海賊版サイトを巡る事例
海外でも、海賊版サイトに対するCloudflareの責任を問う裁判例が増えています。
ドイツの裁判所は、音楽海賊版サイト「DDL-Music」に関し、Cloudflareが同サイトに対して一定の措置を講じる義務があると判断し、サービス提供停止を命じました。
イタリアの裁判所は、違法なIPTVサービス「IPTV THE BEST」に対し、Cloudflareにドメイン名やIPアドレスのブロックを命じたと報告されています。
DNSなど「インターネットの中核サービス」へのブロック要請
一部の権利者からは、CloudflareのパブリックDNS(1.1.1.1)など、より基盤的なサービスに対してもサイトブロックを求める動きがあります。しかし、ドイツの事案では「DNSは海賊版サイトへのアクセスに中心的役割を果たしているとはいえない」として、ブロック請求を退けたと報じられています。
このように、中核的なインターネット機能に対する世界的なブロック命令については、慎重な議論が続いています。
世界的な傾向から見た今後のリスク
海外の判決を総合すると、
CDN事業者は、侵害通知や裁判所の命令があった場合に「何らかの対応を取るべき立場」と見なされつつある
一方で、DNSなど世界規模に影響するサービスについては、過度なブロック命令にはブレーキがかかる傾向もある
と整理できます。日本の裁判例も踏まえると、Cloudflareを含むCDN事業者の責任は今後さらに議論が進むと考えられます。
Cloudflareの不正利用ポリシーと通報の流れ
不正利用通報フォームで受け付けている主なカテゴリ
Cloudflareは、公式サイト上で専用の「不正利用の通報」ページを提供しています。
一般的に、通報フォームでは次のようなカテゴリが想定されています(詳細は公式ページを要確認)。
著作権侵害・商標権侵害
マルウェア・フィッシングサイト
なりすまし・詐欺行為
CSAM 等の重大な違法コンテンツ
通報時に準備しておきたい情報
権利者・企業として通報する場合、少なくとも以下の情報を整理しておくことが望ましいです。
侵害が疑われるページの正確なURL一覧
どの部分が、どの権利(著作権、商標権 等)を侵害しているかの説明
自社や委任先が正当な権利者であることを示す情報(出版情報・登録情報 等)
可能であれば、正規版コンテンツのURLや書誌情報
これまでに行ったサイト運営者・ホスティング会社への通知履歴
これらは、先述の竹書房の事案でも実務上のポイントとして紹介されています。
通報後に想定される対応と、限界
通報後、Cloudflareは自社ポリシーと法的要件に基づき、次のような対応を検討します。
キャッシュの削除
特定ドメインへのサービス停止
関係するホスティング事業者・登録事業者への情報共有 等
ただし、Cloudflareはあくまで中継事業者であり、コンテンツの完全な削除は最終的にホスティング事業者やサイト運営者の対応に依存する点には留意が必要です。
立場別・具体的なチェックリスト
権利者・出版社が今すぐ確認したいポイント
自社コンテンツが無断配信されているサイトがCloudflareを利用しているかを確認する
侵害URL一覧と正規版URL・書誌情報を整理し、証拠保全を行う
サイト運営者・ホスティング事業者・Cloudflareなど、関係者ごとの連絡先と役割を把握する
必要に応じて、専門の弁護士やリーガルテックサービスと連携し、訴訟も視野に入れた対応方針を検討する
正規サイト運営者が守るべきコンプライアンスと社内体制
自社サイトで違法コンテンツを公開しないよう、コンテンツ審査フローを整備する
Cloudflareの利用規約・プライバシーポリシーを確認し、ログ管理や利用目的を社内規程に反映する
権利侵害の通知を受けた場合に、迅速に削除・修正・原因調査を行う体制を整える
自サイトが第三者の違法行為に利用されていないか、定期的な監査を行う
一般ユーザーが知っておくべき違法サイト利用のリスク
無料で漫画・動画等を配信するサイトの中には、権利者に無断でコンテンツを掲載しているものがある
違法サイトの閲覧自体が違法となる場合や、マルウェア感染等の危険を伴う場合がある
Cloudflare経由かどうかにかかわらず、「公式配信かどうか」を確認し、疑わしいサイトにはアクセスしない
明らかに違法と思われるサイトを見つけた場合は、権利者や専門機関への相談・通報を検討する
よくある質問(FAQ)
Q1. Cloudflare経由なら違法サイトでも安全なのでしょうか?
A. いいえ。Cloudflareは通信を中継し、DDoS攻撃などからサイトを守るサービスであり、コンテンツの安全性や合法性を保証するものではありません。 マルウェア配布やフィッシングに使われているサイトがCloudflareを利用しているケースもあり得ます。
Q2. Cloudflareを使っているだけで、自社が違法サイトと疑われることはありますか?
A. 一般的には、Cloudflareを利用しているだけで直ちに違法と見なされることはありません。ただし、違法コンテンツを掲載していた場合には、Cloudflare利用の有無にかかわらず責任を問われる可能性があります。自社コンテンツの適法性管理が最優先です。
Q3. 個人でも違法サイトを見つけたら通報すべきでしょうか?
A. まずは、出版社や権利者団体、公式の相談窓口などに情報提供することが考えられます。Cloudflareへの直接通報も技術的には可能ですが、権利関係の説明が必要になるため、権利者本人または代理人からの通報の方が実務上は望ましいケースが多いと考えられます。