この記事にたどり着いた方は、
- これからCloudflareを導入しようとしている
- すでに入れているが、本当に大丈夫か不安になっている
- 障害ニュースを見て、社内から説明を求められている
といった状況ではないでしょうか。
近年、Cloudflareは世界中のWebトラフィックの大きな割合を担うインフラとなっており、障害が発生するとX(旧Twitter)やChatGPTなど多数のサービスが一斉に影響を受けるケースも報じられています。
一方で、Cloudflare自身は毎秒5,000万件以上のHTTPリクエストを処理し、1日あたり1700億〜2000億件規模のサイバー脅威をブロックしていると公表しており、インターネットを守る重要な存在でもあります。
本記事では、「Cloudflareは危険だからやめた方が良い」「いや、最高のサービスだ」という極端な議論ではなく、どのようなリスクがあり、どう設計・運用すれば安全に使えるのかを、中小企業のWeb担当者の方でも理解しやすい形で整理していきます。
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そもそもCloudflareとは?何をしているサービスか
まずは、Cloudflareが何者なのかを簡単に整理します。
Cloudflareは主に次のような機能を提供するサービスです。
- CDN(Content Delivery Network)
世界各地のエッジサーバーにコンテンツをキャッシュし、ユーザーに近い場所から配信することで表示速度を向上させます。 - リバースプロキシ / DNS
ユーザーからのアクセスをいったんCloudflareが受け取り、そこからオリジンサーバーへ転送します。これにより、オリジンのIPアドレスを隠したり、攻撃をCloudflare側で吸収したりできます。 - WAF(Web Application Firewall)・DDoS対策・Bot対策
不正アクセスやDDoS攻撃、悪質なボットなどからサイトを守るためのルールセットを提供し、自動的にブロックします。
Cloudflareの公式発表によれば、このネットワークは毎日数百億〜数百億件規模のサイバー攻撃をブロックしており、多くの企業がセキュリティレイヤーとして採用しています。
つまりCloudflareは、「高速化とセキュリティを、比較的簡単に追加できるインターネットの前段インフラ」と捉えるとイメージしやすいと思います。その一方で、「前段に必ず通るインフラ」であるがゆえに、障害や設定ミスが起きると影響範囲が大きくなるという側面もあります。
「Cloudflare 危険性」と検索される主な理由
ここでは、なぜ「危険性」というキーワードで検索されるのか、代表的な不安を整理します。
理由1:障害発生時の単一障害点になるのでは?という不安
最大の不安は、「Cloudflareが落ちたら、自社サイトもまとめて落ちるのではないか」という点です。
実際に、過去にはCloudflareの障害により、
- DiscordやPixivなど、複数の有名サービスでアクセス障害が発生した事例
- 2025年11月に、XやChatGPTなど多くのサイトで一時的にアクセス不能になった事例
が報じられています。
CloudflareがDNSやリバースプロキシの役割を担っている以上、サービス側に問題がなくても、Cloudflare側の障害でサイトが見られなくなるリスクは構造的に存在します。
理由2:SEOやIPブラックリストへの影響が心配
日本語の一部ブログでは、Cloudflareを導入すると割り当てられたIPアドレスが他サイトと共有されるため、スパムサイトなどと同じIPになった場合にブラックリスト入りする可能性がある、という懸念が紹介されています。
理屈としては、
- Cloudflareは多くのサイトのトラフィックを中継する
- 中にはスパムやフィッシングなど、悪質なサイトも含まれる
- それらがスパム対策のブラックリストに載る
- 同じIPを共有している善良なサイトも巻き込まれる可能性がある
という流れです。
検索エンジンがIPアドレスだけを理由に一律でペナルティを与えるケースは限定的と考えられますが、理論上はレピュテーションリスクがゼロではないため、不安視されやすいポイントです。
理由3:プライバシー・データ取り扱いへの不安
Cloudflareは、TLS終端やログを通じて一定のトラフィック情報にアクセスしうる立場にあります。そのため、
- 個人情報や機微情報がどこまでCloudflareを経由して良いのか
- データ所在地(どの国のデータセンターに保存されるか)
- ログの保持期間や第三者提供
などを気にする企業にとっては、プライバシーやコンプライアンス面での懸念が生じます。
実際、Cloudflareはデータプライバシーやコンプライアンス対応に関するページを公開し、懸念に対応している一方で、Cloudflare Tunnelの利用規約文言を巡って「ユーザーコンテンツに対するライセンスが広すぎるのでは」といった議論も一部で起きています。
理由4:誤検知で正当なユーザーがブロックされる問題
CloudflareのWAFやボット対策は強力ですが、その分、誤検知(false positive)のリスクもあります。
日本語の記事でも、「Cloudflareに目を付けられたせいで、仕事で使うサイトにアクセスできなくなった」という事例が報告されています。
- 海外IPやVPN経由のアクセスがまとめて怪しいと判断される
- 特定企業のプロキシ経由アクセスがブロックされる
- 正常なクローラーやAPIアクセスまで制限される
といったことが起きると、ユーザー体験や業務に直結した影響が出てしまいます。
理由5:設定が複雑で、運用が属人化しやすい
Cloudflareは多機能であるがゆえに、
- とりあえず推奨設定のまま使っている
- 過去の担当者が設定した内容がブラックボックスになっている
- 何かあったときに、どこを見ればよいか分からない
という状態になりがちです。
特に、DNSをCloudflareに移管し、WAFやWorkersまで使い込んでいる場合、Cloudflareを前提としたインフラ設計になっていることが多く、「やめたくても簡単にはやめられない」というベンダーロックインの懸念も生まれます。
Cloudflareの危険性を5つのリスクカテゴリで整理する
ここからは、先ほどの不安をもう一歩踏み込んで、5つのリスクカテゴリとして整理します。
リスク1:可用性リスク(障害・ダウンタイム)
何が起きうるか
- Cloudflare側の障害で、
- Webサイトが表示されない
- 管理画面(WordPress等)にもログインできない
- APIやWebhookなども一時停止する
- Cloudflareの設定ミス(WAFルール・ページルール等)で、特定のURLだけが落ちる
どれくらい問題か
- ECサイト・予約サイト・SaaSなど、売上や業務に直結するサイトほど影響が大きい
- コーポレートサイトでも、採用ページ・IR情報などが見られないことで機会損失が生じます
どう対策するか(設計のポイント)
- オリジンサーバーに直接アクセスできるバックドア(管理用ドメイン等)を用意する
- DNSをすべてCloudflareに集中させず、重要なドメインは冗長化を検討する
- Cloudflareのステータスページを監視し、障害時の社内連絡フローを決めておく
リスク2:SEO・レピュテーションリスク
理論上の懸念
- Cloudflare経由にすることで、サイトのIPアドレスがCloudflareの共有IPに変わります。
- そのIPアドレスが、スパムサイトなどの悪用によってブラックリスト入りした場合、同一IPのサイトが巻き込まれる可能性がある、という指摘があります。
実務的な見方
- 現実には、検索エンジンはIPだけでペナルティを判断することは多くなく、コンテンツ品質やリンクなど、他の要素を総合的に見ています。
- 「Cloudflareを使っているから検索順位が落ちる」といった直接的な証拠は限定的であり、過度に恐れすぎる必要はないと考えられます。
対策のポイント
- Search Console等でインデックス状況やエラーを定期的に監視する
- 不自然なアクセスブロックやエラーが多発していないか、ログを確認する
- 問題が疑われる場合は、一時的にCloudflareをオフにして挙動を比較・検証する
リスク3:プライバシー・コンプライアンスリスク
構造的な事実
- ユーザー → Cloudflare → オリジンサーバーという流れになるため、
- 通信の暗号化終端(TLS終端)
- ログ(IPアドレス・User-Agent・URL等)
といった情報がCloudflare側に記録されうる構造です。
気を付けるべきケース
- 医療・金融・公共機関など、特に厳しいコンプライアンス要件がある業種
- 個人情報や機微情報をURLやクエリ文字列に含めているシステム
- EU居住者のデータを扱うサービス(GDPRの観点)
対策のポイント
- Cloudflareのプライバシーポリシーやデータ保護関連ドキュメント、DPA(Data Processing Addendum)を確認する
- 機微情報をURLやログに残さないよう、アプリケーション設計側でも見直す
- 必要に応じて、法務・コンプライアンス担当者と相談のうえ、契約条項やログ設定を調整する
リスク4:誤検知・ユーザー体験の悪化
よくあるパターン
- 海外や特定国からのアクセスをまとめてブロックしてしまう
- 企業VPN・プロキシ経由のアクセスが攻撃と誤認される
- 「Please unblock challenges.cloudflare.com to proceed」のようなエラー表示が頻発する
ビジネスへの影響
- 正常なユーザーがフォーム送信や購入手続きに進めない
- 「このサイトは怪しい」「セキュリティエラーが出る」という印象を持たれてしまう
対策のポイント
- WAFやBot対策を「とりあえず最も厳しく」で設定しない
- ログ・分析機能を活用して、誤検知パターンを確認し、ルールをチューニングする
- 重要な顧客のIPレンジや社内ネットワークは適切にホワイトリスト登録する
リスク5:運用リスク・ベンダーロックイン
起きがちな問題
- DNS・WAF・Workers・ロードバランサーなど、Cloudflareの機能に広く依存した結果、
- 代替サービスへ移行するコストが高くなる
- 担当者が1人だけで、その人が退職すると誰も触れない
- 設定変更の影響範囲が大きく、「怖くて触れない」状態になる
対策のポイント
- 設定内容を社内ドキュメントとして残し、複数人でレビューする
- 重要な設定は必ずステージング環境で検証してから本番に反映する
- 当初から「Cloudflareが完全に使えなくなった場合のプランB」を簡易でも良いので検討しておく
それでも多くの企業がCloudflareを使う理由
ここまでリスクばかり挙げましたが、Cloudflareがこれほど普及しているのは、それ以上のメリットがあるからです。主なものを整理します。
- 表示速度の改善
世界中のエッジサーバーからコンテンツを配信することで、ユーザーに近い場所から高速にコンテンツを返せます。表示速度の改善は、SEOやCVRにも好影響を与えます。 - DDoS攻撃や脆弱性攻撃からの防御
Cloudflareは大規模なDDoS攻撃を日常的に遮断しており、自社で同レベルの防御を構築するのは現実的ではありません。 - WAF・Bot対策・レートリミットなどのセキュリティ機能
OWASP Top 10に代表される典型的な脆弱性攻撃への対策ルールが用意されており、設定次第でアプリケーション側の防御力を底上げできます。 - 無料プランの存在
一定の機能が無料で利用できるため、中小企業や個人でも導入しやすい点は大きな魅力です。
重要なのは、「危険だから使わない」か「素晴らしいから全部任せる」かの二択ではないということです。リスクとメリットを理解したうえで、「どこまで任せるか」「どのように運用するか」を設計することが重要です。
Cloudflareを安全に使うためのチェックリスト
ここからは、導入前・導入後に分けて、具体的なチェック項目を整理します。
導入前チェックリスト
1. 可用性設計
- [ ] Cloudflareがダウンした場合、オリジンサーバーに直接アクセスする手段(管理用ドメイン、VPN等)はあるか
- [ ] DNSを全てCloudflareに集約していないか(重要ドメインは冗長構成を検討)
- [ ] 障害時の連絡フロー(誰がステータスを確認し、誰に報告するか)が決まっているか
2. 法令・コンプライアンス
- [ ] 個人情報や機微情報を扱うサービスかどうかを整理したか
- [ ] Cloudflareの利用規約・プライバシーポリシー・データ保護関連資料に目を通したか
- [ ] 必要に応じて、法務・コンプライアンス担当とすり合わせたか
3. 組織体制・運用設計
- [ ] Cloudflareの基本概念(DNS、CDN、WAFなど)を理解している担当者がいるか
- [ ] 設定変更の権限管理(誰が何を変更できるか)が整理されているか
- [ ] 設定内容を記録する場所(ドキュメント・チケット等)が決まっているか
導入後チェックリスト
1. ログとアラート
- [ ] WAFやファイアウォールのログを定期的に確認しているか
- [ ] 誤検知が疑われる場合の対応フロー(ログ確認 → 設定調整 → 再検証)が決まっているか
2. 監視と障害対応
- [ ] Cloudflareのステータスページや公式Xアカウントを監視に追加しているか
- [ ] 自社側の監視(レスポンスコード、レイテンシ、エラー率)と組み合わせて原因切り分けができるか
- [ ] 「Cloudflareを一時オフにして比較する」手順がドキュメント化されているか
3. 定期レビュー
- [ ] 使っていない機能が有効になっておらず、余計なリスクを生んでいないか
- [ ] プライバシーポリシーや利用規約の更新があった際に、影響をレビューしているか
- [ ] 年に1回程度、設計全体を見直す機会を設けているか
Cloudflareを「使うべきケース」と「慎重に検討すべきケース」
最後に、意思決定の目安として、Cloudflareを積極的に検討すべきケースと、慎重さが必要なケースをまとめます。
使うべきケースの例
- 公開範囲が広く、攻撃対象になりやすいB2Cサービス
- トラフィックが多く、表示速度が売上やCVRに直結するECサイト
- インフラ担当者が少なく、マネージドなセキュリティ基盤に頼りたい中小企業
こうしたケースでは、CloudflareのDDoS対策やWAF、CDNのメリットがリスクを上回ることが多いため、「きちんと設計したうえで使う」方向で検討する価値が高いと言えます。
慎重に検討すべきケースの例
- 医療・金融・公共機関など、非常に厳格なコンプライアンス要件がある業種
- 特殊なプロトコルや閉域網と連携する、高度にカスタムなシステム
- 組織として、ログ監査・設定管理・障害対応の体制が整っていない場合
こうした場合は、Cloudflareに限らず外部クラウドサービスを利用する際の前提として、社内ルールや体制を整えることが先決になる場合もあります。