「猫の肛門腺絞りって、うちの子に必要だったのだろうか」「一度もしたことがないけれど、今さら心配になってきた」──そんな不安からこのページにたどり着かれたのではないでしょうか。
犬ではよく耳にする肛門腺絞りですが、猫の場合は事情が少し異なります。
本記事では、「今まで何もしてこなかったことは問題なのか」という疑問に正面からお答えしつつ、肛門腺トラブルのサイン、自宅でしてはいけないケース、動物病院を受診すべき目安までを、獣医師監修情報をもとにわかりやすく整理しました。
この記事を読み終える頃には、「何となく不安」な状態から、「うちの子には今、何をしてあげればよいか」がはっきり見えてくるはずです。
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多くの健康な猫では、肛門腺分泌物は排便時に自然に排出される
これまで肛門腺絞りを一度もしていなくても、症状がなければ問題ないことが多い
お尻歩き、しつこい舐め、強い悪臭、腫れ・痛みがある場合は肛門腺トラブルのサイン
自宅での肛門腺絞りは、獣医師の指導がある場合に限り、慎重に行うべき
赤く腫れている・血や膿が出ている・強い痛みがある場合は、すぐに動物病院へ
肛門腺絞りは「やっていないとダメなケア」ではなく、「必要なときにプロの手を借りて行うケア」です。
日頃から、うんち・トイレ・お尻の様子をさりげなくチェックする
少しでも気になるサインがあれば、早めにかかりつけの病院に相談する
自宅でできることと、病院でしかできないことの線引きを理解する
猫の肛門腺とは?役割と犬との違いをやさしく解説
猫にも肛門腺(肛門嚢)はある
「肛門腺」というと犬のイメージが強いかもしれませんが、猫にも肛門腺(正しくは肛門嚢)が備わっています。
肛門の左右(時計の4時と8時のあたり)に小さな袋状の構造があり、中に粘り気のある強いニオイの分泌物がたまります。
通常、この分泌物は排便のときに便が肛門を通過する圧力で自然に外へ押し出されます。そのため、健康な猫では、飼い主の方が意識しなくても日常生活の中で処理されていることがほとんどです。
肛門腺分泌物の役割とニオイ
肛門腺から出る分泌物は、人間からするとかなり強烈なニオイがします。
しかし、猫にとっては「自分のニオイ」を示すサインであり、マーキングやコミュニケーションに役立っていると考えられています。
強い魚のようなニオイ
ときにねっとり、あるいはどろっとした質感
量はごく少量で、普段ははっきり目にすることは少ない
飼い主の方が「急にお尻付近からきついニオイがした」と感じた場合、排便時にたまたま分泌物が出ただけのこともありますが、肛門腺が溜まってきているサインのこともあります。
犬と猫で「肛門腺絞り」の必要性が違う理由
犬の世界では、シャンプーやトリミングの際に「肛門腺絞り」をセットで行うことが一般的です。一方で猫は、犬ほど定期的な肛門腺絞りを行わないケースが多く、動物病院でも「猫はあまり必要ない」と説明されることがよくあります。
これは、猫の多くが
うんちと一緒に自然に分泌物を出せている
体質的に、犬ほど肛門腺トラブルが多くない
といった理由によります。
そのため、「犬を飼った経験から猫も同じように定期的に絞るべき」と考えると、かえってやりすぎになってしまうおそれがあります。
猫の肛門腺絞りは「基本的には不要」とされる理由
健康な猫はうんちと一緒に自然に排出される
獣医師監修の記事や動物病院の解説では、「猫では通常、排便時に肛門腺分泌物が自然に排出されるため、健康な猫に対して飼い主が定期的に肛門腺絞りをする必要はない」と説明されています。
具体的には、
うんちの形・硬さが適度である
便秘や下痢を繰り返していない
お尻を気にする様子が特にない
といった猫であれば、これまで肛門腺絞りを一度もしていなくても、問題ないケースが多いと考えられます。
定期的な自宅ケアが推奨されない主な理由
猫の肛門腺絞りが「基本的には不要」とされる理由は、単に自然に出るからというだけではありません。以下のような事情もあります。
多くの猫はお尻を触られることを強く嫌がる
急に肛門付近を強く押されると、痛みや恐怖から暴れる危険がある
肛門周囲はデリケートで、強く押しすぎると炎症や出血のリスクがある
こうした理由から、「特に問題がない猫に対して、予防目的で頻繁に自宅肛門腺絞りをする必要はない」というのが、獣医師の記事に共通するスタンスです。
過度な肛門腺絞りで起こり得るトラブル
むしろ、必要のない子に対して頻繁に肛門腺絞りを行うと、次のようなトラブルにつながるおそれがあります。
肛門周囲の皮膚や粘膜が傷つき、炎症を起こす
痛みの記憶から、お尻周りを触らせてくれなくなる
飼い主さんへの恐怖心・不信感につながる
そのため、「やっておいた方がよさそうだから」「犬もやっているから」という理由だけで、猫の肛門腺を自宅で定期的に絞ることはおすすめできません。
一度も肛門腺絞りをしたことがない場合のチェックポイント
今まで何もしていなくても問題ないケース
次のような場合は、「これまで肛門腺絞りをしていなくても、特に問題がないことが多い」ケースと考えられます。
うんちが毎日〜数日に1回は出ている
うんちの形がほどよく、コロコロしすぎたり柔らかすぎたりしない
お尻をしつこく舐める・噛む様子がない
床にお尻をこすりつける「お尻歩き」をほとんどしない
肛門周りが赤くなっていない・しこりがない
強烈な悪臭が常にするわけではない
このような場合は、無理に肛門腺絞りを始める必要はなく、「今後も様子を見ながら、異常が出ないか観察を続ける」というスタンスで十分なことが多いです。
要注意!肛門腺トラブルが疑われるサイン
一方で、以下のようなサインが見られる場合は、肛門腺に分泌物が溜まっている、あるいは炎症が起きている可能性があります。
お尻を床にずるずるとこすりつけて歩く(いわゆる「お尻歩き」)
お尻や尾の付け根をしきりに舐めたり、噛んだりしている
座り方が不自然(斜めに座る、すぐに立ち上がるなど)
肛門周辺から、これまでにない強い悪臭がする
肛門の周りが赤く腫れている、触ると嫌がる
これらは多くの動物病院サイトで代表的な「肛門腺トラブルのサイン」として紹介されており、放置すると肛門嚢炎や肛門腺破裂につながるおそれがあります。
すぐ動物病院を受診すべき赤信号
次のような状態が見られた場合は、自宅で様子を見るのではなく、できるだけ早く動物病院の受診をおすすめします。
肛門の周りにしこり・こぶのようなふくらみがある
肛門付近の皮膚が破れて、血や膿のようなものが出ている
触ると強く嫌がる、鳴く、噛み付こうとするほど痛そう
発熱・元気消失・食欲不振など、全身状態も悪そう
これらは肛門嚢炎や肛門腺破裂など、すでに炎症が進んでいる可能性が高いサインです。自己判断で肛門腺を絞ろうとすると、さらに痛みや出血を悪化させるおそれがあるため、必ず獣医師の診察を受けてください。
自宅で肛門腺絞りをしてよいケース/やめた方がよいケース
自宅ケアを検討する前に確認したい3つの条件
肛門腺絞りは、本来「動物病院で行う医療的なケア」です。
それでも、状況によっては獣医師から
「この子は特に溜まりやすいので、やり方を覚えて自宅でケアしてあげてください」
と指導されることがあります。自宅で肛門腺絞りをする前には、最低限次の3点を確認してください。
獣医師から具体的なやり方・頻度の指導を受けているか
猫の性格的に、ある程度お尻周りを触らせてくれるか
炎症やしこり、出血などの異常が現時点でないか
このうちどれか1つでも満たしていない場合、自宅で無理に行うことはおすすめできません。
自宅でしてはいけないNGケース
次のような場合は、自宅での肛門腺絞りは行わず、必ず動物病院に相談してください。
肛門周りが赤く腫れている、熱感がある
触ると強く怒る、痛そうに鳴く
すでに血や膿のようなものが出ている
以前、肛門嚢炎や肛門腺破裂になったことがあるが、今は医師の指示を受けていない
飼い主さんが保定(押さえ方)に不安がある
これらの状態で無理に絞ると、炎症の悪化やさらなる破裂、強い痛みの原因になります。
どうしても自宅で行う場合の最低限の注意点
本記事では、自宅での肛門腺絞りを積極的に推奨しませんが、獣医師の明確な指示があり、どうしても行う必要がある場合には、次の点に注意してください。
必ず2人以上で行い、1人は猫の保定に専念する
無理に力を入れず、「少し押してみてダメならすぐ中止する」
途中で猫が暴れたり、嫌がり方が強い場合はその場で終了し、病院に相談する
終わったあとは、お尻周りを清潔に拭き、炎症が出ていないか観察する
ただし、細かな手技(どの方向からどのくらいの力で押すか等)は、必ずかかりつけの動物病院で直接教えてもらってください。文字情報だけを頼りに自己流で行うことは危険です。
動物病院での肛門腺ケアと治療の流れ
診察時によく聞かれる質問と伝えるべき情報
動物病院を受診した際には、獣医師から次のようなことを聞かれることが多いです。
お尻を気にし始めた時期・頻度
お尻歩きや舐める行動がどのくらい続いているか
便の状態(硬さ・回数・色など)
これまでに肛門腺のトラブルや治療歴があるか
ご家庭で肛門腺を絞った経験の有無
あらかじめスマートフォンのメモなどにまとめておくと、診察がスムーズになり、より適切な判断につながります。
肛門腺の処置方法と痛みへの配慮
軽度の肛門腺の張りであれば、獣医師や動物看護師が肛門腺を丁寧に絞り、中の分泌物を排出します。
多くの場合、短時間の処置で終わり、痛みも最小限に抑えられますが、炎症が強い場合には痛みを伴うこともあります。
必要に応じて、
鎮痛剤・抗生剤などの内服薬
炎症を抑える外用薬
しばらくの間のエリザベスカラー着用
などが提案されることもあります。
肛門嚢炎や肛門腺破裂になった場合の治療
肛門嚢炎や肛門腺破裂まで進行している場合には、次のような治療が必要になることがあります。
溜まった分泌物や膿の排出
創部の洗浄・消毒
抗生剤・鎮痛剤の投与
場合によっては縫合などの外科的処置
これらはいずれも専門的な処置であり、自宅で行うことはできません。
早期受診であれば、治療期間や猫への負担を減らすことができますので、「少し気になるかな」と思った段階で一度相談されることをおすすめいたします。
日常の観察と予防ケアで肛門腺トラブルを減らす
うんち・トイレ習慣のチェックポイント
肛門腺トラブルの多くは、「排便のトラブル」とも深く関係しています。日頃から次の点に注目してみてください。
うんちの回数:極端な便秘や下痢はないか
うんちの形:硬すぎず、柔らかすぎないか
いきみ方:トイレで長くいきんでいないか
トイレ後の様子:お尻を気にしていないか、床にこすりつけていないか
これらを日常的に観察することで、肛門腺だけでなく、消化器全体の健康状態の把握にもつながります。
体重管理と運動が肛門腺にも大事な理由
肥満は、肛門腺トラブルのリスクを高める要因の一つと考えられています。
運動量が少なく、腸の動きが鈍りやすい
うんちが硬くなり、排便トラブルが起こりやすい
肛門周囲に脂肪がつき、分泌物の排出がスムーズにいかないことがある
そのため、
適切なカロリーのフード選び
おもちゃ遊びやキャットタワーを使った適度な運動
定期的な体重測定
といった基本的な生活管理が、結果的に肛門腺トラブルの予防にも役立ちます。
一度トラブルになった猫の「その後の付き合い方」
一度肛門嚢炎などを経験した猫は、その後も肛門腺に分泌物が溜まりやすい体質であることがあります。
その場合は、かかりつけの獣医師と相談しながら、
定期的に病院で肛門腺をチェックしてもらう
必要に応じて、飼い主さんもケア方法を教わる
生活習慣(フード・運動・トイレ環境)を見直す
といった「付き合い方」を決めていくことが大切です。
自己判断でケアの間隔を伸ばしたり、逆に頻繁に絞りすぎたりせず、必ず獣医師の指示に従ってください。