「三すくみ」という言葉を耳にしたことはあるものの、いざ説明しようとすると言葉に詰まってしまう方は多いのではないでしょうか。
蛇・カエル・ナメクジの話や、じゃんけんのイメージは浮かぶものの、「具体的にどんな状態を指すのか」「三つ巴やジレンマとは何が違うのか」までは整理しきれていないケースが少なくありません。
本記事では、三すくみの意味と由来を押さえたうえで、じゃんけんやゲームの属性、ビジネス・人間関係における具体例まで一気に整理します。
読み終えるころには、単に知識として理解するだけでなく、「この状況は三すくみだ」と自信を持って説明できるようになることを目指します。
三すくみとは何か:基本の意味を押さえる
三すくみの定義:「AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つ」
「三すくみ(さんすくみ/三竦み)」とは、三者のあいだに「AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つ」という循環する力関係があり、その結果、互いにけん制し合って身動きが取りにくい状態を指す言葉です。
もう少しかみ砕くと、
それぞれが「得意な相手」と「苦手な相手」を一つずつ持っている
誰かが一方的に強いわけではなく、三者が拮抗している
下手に動くと、別の相手から不利な状況に追い込まれる
といった特徴があります。
たとえば、A社はB社には強いがC社には弱い、B社はC社に強いがA社に弱い…という状態で、三社とも決定的な一手を打てずにいるような場面は、ビジネス上の「三すくみ」の典型例と言えます。
三竦み(さんすくみ)という表記と読み方
漢字では「三竦み」と書き、「さんすくみ」と読みます。「竦む」は「恐れてすくむ」「身がすくむ」といった意味の漢字で、互いに恐れたり、けん制し合って動きが取れない様子を表しています。
したがって、「三すくみ」は単に三者が存在することではなく、三者が互いに“怖くて動きにくい”状態になっていることがポイントです。
三すくみの由来:蛇・カエル・ナメクジの故事
古典に見られる三すくみのルーツ
三すくみの由来としてよく紹介されるのが、蛇・カエル・ナメクジにまつわる故事です。
中国の古典『関尹子(かんいんし)』の一節に、
蛇はカエルを食べる
カエルはナメクジを食べる
ナメクジは蛇を恐れさせる(溶かす、と信じられていた)
という関係が書かれており、この三者の関係から「三竦み」という言葉が生まれたとされます。
実際には「ナメクジが蛇を溶かす」ことは科学的には確認されていませんが、当時の人々の自然観の中で、そのような関係が信じられていたということです。
なぜ蛇・カエル・ナメクジなのか
なぜこの三匹が選ばれたのかについて、代表的な解釈は次のとおりです。
蛇 → カエルに強い
現実に、蛇はカエルを丸飲みにしてしまう捕食者です。カエル → ナメクジに強い
カエルはナメクジのような小動物を舌でとらえて食べると考えられていました。ナメクジ → 蛇に強い(と信じられていた)
ナメクジのぬめりが蛇にとって致命的なものだと信じられており、「ナメクジが蛇を溶かす」といった伝承が生まれました。
この三者が互いの「天敵」となり、誰も一方的に優位に立てない状態が、三すくみのイメージの源になっています。
身近な三すくみの具体例
典型例:じゃんけんのグー・チョキ・パー
最も分かりやすい三すくみの例が、じゃんけんです。
グーはチョキに勝つ
チョキはパーに勝つ
パーはグーに勝つ
このように、それぞれが一つずつ「得意な手」と「苦手な手」を持っているため、誰かが絶対的に強いわけではありません。
この構造があるからこそ、じゃんけんは公平な勝負になり、勝敗がランダムに近い形で決まります。
ゲーム・アニメにおける属性の三すくみ
ゲームやアニメでも、三すくみはよく利用されています。代表的な例として、
ほのお → くさ → みず → ほのお
攻撃タイプA → 攻撃タイプB → 攻撃タイプC → 攻撃タイプA
といった、属性同士の相性が挙げられます。
このような三すくみをゲームデザインに取り入れることで、
どの属性を選んでも一長一短がある
特定の属性だけが一方的に強くならない
というバランス調整が可能になります。
ビジネスで見られる三すくみ関係の例
ビジネスの現場でも、三すくみの構造はしばしば見られます。たとえば、
A社(価格競争に強い)
B社(機能・品質で優位)
C社(ブランド力・顧客ロイヤルティが高い)
という三社が競合している市場を考えます。
価格を重視する層ではA社がB社に強い
機能・品質を重視する層ではB社がC社に強い
ブランドや安心感を重視する層ではC社がA社に強い
このように、「どこが一番強い」と言い切れず、競合各社が互いを意識しながら動きにくい状態になっているとき、「三社の三すくみ状態になっている」と表現することができます。
また、社内政治の文脈でも、
現場部門
管理部門
経営層
が互いにけん制し合い、大きな決定がなかなか進まない状況も、比喩的に「三すくみ」と表現されることがあります。
人間関係・組織内での三すくみ
日常の人間関係でも、三すくみの状況は起こり得ます。
AさんはBさんには強く出られるが、Cさんには弱い
BさんはCさんに強く出られるが、Aさんには弱い
CさんはAさんに強く出られるが、Bさんには弱い
このように、誰か一人が常に強いわけではなく、三人の関係性の中でバランスが取れてしまっている状態は、職場や友人グループでもよく見られる構図です。
三すくみと似た言葉との違い
三つ巴との違い:力関係と構造のポイント
「三すくみ」と混同されやすい言葉に、「三つ巴(みつどもえ)」があります。
三すくみ
三者が「AはBに強いがCに弱い」というように、循環する相性関係を持つ
一方的な優劣ではなく、互いに動きづらくなる状態
三つ巴
三者が互いに争っている状態全般を指す
必ずしも三すくみのような循環構造を持つとは限らない
つまり、「三つ巴」は三者が入り乱れている状況の総称であり、その中でも特に相性が循環して拮抗している場合が「三すくみ」と言えます。
ジレンマ・トリレンマとの違い
「ジレンマ」「トリレンマ」も、三すくみと混同されやすい概念です。
ジレンマ(dilemma)
二つの選択肢のどちらを選んでも不都合がある状況
「AでもBでも困る」という、二者択一の板挟み
トリレンマ(trilemma)
三つの要素のうち、同時にすべてを満たすことが難しく、どれかをあきらめざるを得ない状況
「三つのうち二つは取れても、三つすべては無理」という構造
三すくみ
三者(人・組織・勢力など)の相性や力関係に焦点がある
必ずしも「選択肢の板挟み」とは限らない
このように、三すくみは「関係性の構図」、ジレンマやトリレンマは「意思決定の難しさ」に軸がある点が異なります。
「単なる優劣」と「三すくみ」を見分けるコツ
三すくみかどうかを見分けるポイントは、次の二点です。
三者それぞれに「得意な相手」と「苦手な相手」が一つずつ存在するか
A→B→C→Aという循環構造になっているか
どこか一社(あるいは一人)が常に優位で、残り二者がその下にいるだけであれば、単なる「一強二弱」や「序列」であり、三すくみとは言えません。
三すくみという言葉の使い方
会話・ビジネス文書での使用例
三すくみは、日常会話・ビジネス文書の両方で使われます。いくつか例文を挙げます。
「A社・B社・C社の三すくみ状態が続いていて、市場シェアは大きく動いていません。」
「現場・管理部門・経営陣が三すくみになっていて、新しい施策の決定が先送りになっています。」
「この三者の関係は、完全に三すくみですね。どこか一方が強く出ると、別の相手から反発を受けます。」
いずれの例でも、三者が互いにけん制し合って、決定的な打ち手を出しにくいというニュアンスが含まれています。
三すくみを使うときの注意点・誤用パターン
三すくみという言葉を使うときは、次の点に注意してください。
三者の関係が本当に循環しているか確認する
「AがBより強く、BがCより弱く、CもAより弱い」といった単純な序列は、三すくみではありません。
人数が三人(または三勢力)であること
四者以上の複雑な関係を、なんとなく「三すくみ」と呼ぶのは不自然です。
「単に混戦=三すくみ」と誤解しない
三つ巴など、他の表現の方が適切な場合もあります。力関係が循環しているかどうかを意識して使うと誤用を避けられます。
まとめ:三すくみを正しく理解し、具体例とともに使いこなす
最後に、本記事のポイントを整理します。
三すくみ(三竦み)とは
三者のあいだに「AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つ」という循環する力関係があり、互いにけん制し合って身動きが取りにくい状態を指す言葉です。ウィキペディア+1
由来は蛇・カエル・ナメクジの故事
蛇→カエル→ナメクジ→蛇という関係から、「三竦み」という表現が生まれました。
身近な例として
じゃんけんのグー・チョキ・パー
ゲームにおける属性の相性
競合三社の関係、部署同士の力関係、人間関係の拮抗状態
などが挙げられます。
三つ巴・ジレンマ・トリレンマとの違い
三つ巴は三者が入り乱れて争う状態全般、ジレンマは二者択一の板挟み、トリレンマは三つの条件の両立が難しい状況を指し、三すくみとは着目点が異なります。
使い方のポイント
三者それぞれに「得意」と「苦手」の相手がいるか
力関係が循環しているか
単なる序列や混戦と混同していないか